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ダルマル

第28章

 ミオは、クランの頼みを、アイシン男爵に相談した時に、周りの人達は、一様に、同じ反応を示した。


 「ダルマルですか・・・・?」



 基本、ダルマルは、いつも母親の近くにいたい人間で、母親が邪険にすると、ミオを探し、ミオが駄目な時は、フィージア、フィージアも忙しい時は、ジュリエールの授業にずっと、参加している。


 参加していると言っても、黙って、授業を聞いていて、特にノートを取る事もなく、ただ、ただ聞いている。


 ミオの見解は、ダルマルは、ダルマの様で、この屋敷一番の甘えん坊だった。基本は、女性の近くに存在していて、決して、男の人達と交わらず、遊び相手も、女の子が多い・・・・・。


 ダルマルを知っている人間ならば、クランの心配もわかるが、人には向き不向きもあり、複雑な感情を抱いている。


 「ーーーとにかく、一度、参加させてみよう・・」


 朝、ミオが起きる前に、アイシン男爵は、テュテュルールの子供や、使用人を交えて、体を鍛えている。その日、眠たい目を擦りながら、クランに手を引かれて、ダルマルはやって来た。


 ミオも珍しく、早起きをして、ダルマルを見に来た。ダルマルは、ミオを見つけると、パッと、明るい顔になり、じっと、ミオの方を見ていた。


 ミオは、駄目な子供を見守る母親の気持ちを、すでにこの時、体感し、手を合わせひたすらダルマルを見つめていた。


 「ダルマル・・・・」


 最初は、ランニングから始まり、ダルマルは、偽物の剣を頂き、素振りを始める。すでにランニングで、死にそうになっていたが、剣は気に入ったのか、素振りは楽しそうに参加していた。


 父親に似て、力はあるが、剣術で、大切なのは、俊敏性で、ダルマルには、それが、欠けていた。


 どうやっても、相手の剣が、ダルマルを襲う。ゆっくり組み手をしても、確実に、殺されてしまう。


 フィージアが、

 「奥様、お部屋に戻られますか?」と聞き、


 「ええ、」と答え、


 ミオは、静かに退散して、もう一度、ベットに戻り、二度寝に入り、夢うつつで、ダルマルを心配していた。


 そんな毎日が、続き、相変わらずダルマルは訓練に参加しているが、成果は出ていない。


 しかし、ある日、ミオが参加しているジュリエールの授業の時に、ダルマルは、発言した。


 ダルマルが、授業中に発言する事は、本当に珍しく、ジュリエールの問題に答えた。


 「その絵は、偽物です」


 「え?」

 「え!!」

 「正解です」


 ジュリエールは、ミオに、音楽の他に、芸術の授業も行っている。マナーや貴族の関係図や領土、ジュリエールの知識は、幅広く、すべてをミオに叩き込むつもりで、毎日を過ごしている。


 ミオの近くには、基本、ダルマルがいる事は、周知の事実で、誰も気にしていない現状だった。


 ジュリエールは、微笑み、ダルマルに、次々に、問題を出して行くが、ダルマルは、美術関係の絵画、彫刻、置物等の作者や年代を、ミオより正確に把握している。そして、贋作を見極める目も持っていた。


 「ダルマル、素晴らしいわ・・・、どうしたの?絵などの美術品が好きなの?」


 「うん。好きです」

 「そう・・・・」


 ジュリエールとミオは、顔を見合わせて、ダルマルを連れて、さっそく、王都の骨董品店を訪ねる。


 「ダルマル、いい?偽物と本物が、わかっても、声に出してはいけません。本物を見分けた時だけ、右手で、スカートを引いて、わかる?」


 「わかりました」と、答えるダルマルは、訓練場とは、まったくの別人で、目を輝かせていた。


 ジュリエールは、美術館の中にある骨董店に、ミオとダルマルを、連れて行き、沢山の絵を鑑賞した。しかし、ダルマルは、一度も、スカートを引かない。


 その時、偶然に、リキュル一行に会う。


 「お久しぶりです。レディ・リキュル様」と、敬意を表し頭を下げるミオ。


 「こんにちは、男爵夫人。今日は、何を買いにいらしたの?」


 「・・・・今日は、ただ、見学に来ただけですので・・、特に欲しい物はありません」


 「またまた、ご謙遜を・・・、今日、わたくしは、この辺の物をすべて購入する予定です」


 ミオ達が、リキュルが指さす方向を見ると、大きな騎士の彫刻や、版画、びっくりするような大きさの絵画等が、並んでいる。リキュルは、自慢げに、それらを注文して、お店の人が、そのまま、テーブル席まで誘導するので、ミオを誘う。


 「ねぇ、折角だから、ご一緒にどうですか?」

 「はい、喜んで・・・」


 美術館の中で、身分の高い人間しか、きっとその席には座れない。周りは、きっと、リキュルの事は、ご存じで、その場のリキュルは、その場に馴染み、優雅にお茶を頂く姿には、決して違和感がない。


 そして、向かいに座るミオも、決して見劣りしないドレスと宝石、姿勢、優雅な身のこなしで、二人は、そのまま美術館に飾っておきたい二人に見えた。


 「あちらのお二人とも、とても美しいくて、素敵ですね」と言う声が聞こえる。


 その人達からは、ミオの側に居るダルマルは、見えていないに違いない。


 ミオの後ろには、トハルト家令とジュリエールが、スタンバイしていて、何故かダルマルは、ミオの隣にチョコンと座り、美味しそうにジュースを頂いていた。


 リキュルは、納得できないような顔で、ダルマルを見ているが、ミオは気にしていない。


 ダルマルは、ジュースをすべて飲んで、とっても暇そうに店内を見渡していた。


 「アイシン男爵様のご活躍は、とても素晴らしく、王都では噂にならない日はありません。素敵なご主人で、羨ましいです」


 「はい、わたくしも、毎朝、起きると、素敵だと思います」


 リキュルは、顔が曲がる程、悔しくて仕方がないが、姿勢はそのままで、話を続ける。


 「そう言えは、もうすく新緑ですね。ご存じですか?この時期には、わたくしの母がいつもガーデンパーティーを、我が家で開催します。もうすぐ招待状が届くと思いますが、男爵夫人にも是非、参加して欲しいと、考えています」


 「しかし、わたくし・・・・」

 「あら、あなた、宰相夫人のお誘いを、お断りするの?」


 「・・・・・・」


 ミオは、ジュリエールの方を見て、ジュリエールが、頷いたので、一応、微笑みで答えた。

 

 その時、ダルマルが、ミオのスカートを引き、合図を送る。


 ミオ達の前を移動している店員が、持っていた、アンティークの櫛が見えた。


 ミオは、トハルトに、あの櫛を購入すると、伝え、その後、その美術館の館長が、至極丁寧に、挨拶にやって来た。


 「アイシン男爵夫人、この度は、こちらのアンティークのお買い上げありがとうございます。こちらは、今日、このまま、お持ちになりますか?」


 ジュリエールが、「そうして下さい。私たちの前で包むように、お願いします」と、釘をさす。


 ジュリエールの高圧的な態度にビビったのか、店員は、少し手が震えながら、小さい櫛の箱をそのまま包み、請求書をトハルトに渡した。


 トハルトは退出して、現金を払いに奥に入り、支払いを終えた。


 ミオは、その袋をダルマルに渡し、リキュルに挨拶をして、その店を出る。


 美術館の館長は、汗を拭きながら、ミオ達に深く挨拶をして、見送っていた。リキュルは、館長のその様子に疑問を持って、その後、サージ宰相の力を借りて、その店を詳しく調べた。


 「お母様、どうやら、わたくしは、模造品をつかまされたようです。その場にいたアイシン男爵の夫人は、きっと、本物を手に入れました」


 「ーーーーーー」


 「どういう事ですか?」


 数日後、ヴァイオレット邸に、トプステイン家から豪華な招待状が送られて来た。


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