表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/71

クラン

第27章

 春になり、ミール夫人は、男の子を出産した。

 

 名実ともに、プラスムス家の跡取りと言える。鳴き声は、小さく、周りの心配は、大きく、誰もが、息を飲んで、望んだ出産、その瞬間のヴァイオレット邸の喜びは、計り知れなかった。


 アイシン男爵とミオは、並んで、プラスムス夫妻に、


 「お義父様、お義母様、おめでとうございます」


 「お父様、お母様、おめでとう。物凄く可愛い男の子です。・・嬉しいです。弟が出来ました」


 プラスムスは、真剣な顔で、アイシン男爵とミオに、話す、

 「私たちは、もう年だ。本来なら、この手に抱くのは、孫でもおかしくない。しかし、神様が下さった贈り物を、どうしても離したくなかった。だから、私たちに何かあった場合は、この子を、二人に頼みたい」


 「お父様・・・、お父様は、まだお若いわ。大丈夫、お母様とお二人で、この子の成長を見守る事が出来ます」


 「ミオ・・・、本当か?本当に、この子に寄り添って生きる事ができるのか?」


 「ええ、大丈夫です。今日は、この子の誕生を、みんなで喜びましょう。不安や心配は、母上に、良くありません」


 「おお、そうだな。わかった。産まれるまでも、心配で、産まれてからも心配だ」


 「でも、お父様、わたくしへの心配は、なくなって良かったですね」


 「そう言えば、そうだ。アイシン男爵には、感謝しかないな・・・。ありがとう。男爵」


 「お義父様、僕の方こそ、いつも、プラスムス家に助けられています。ありがとうございます」


 いつの間にか、プラスムスの腕の中で、ミール夫人は眠っていて、その穏やかな顔を見て、3人は、本当に喜びをかみしめていた。


 ミール夫人は、高齢出産で、産後直ぐに、子供の面倒を見る事は、大きな負担になる為に、訓練済みのフィージアや、ジュリエールは、当然のように、手伝い。


 そして、今回は、その中に、クランも参加した。


 お乳を分けてもらうのだ。クランは、弟ホウラインの乳母になる。


 その為に、一番、戦力外のミオが、クランと面接をすることになった。


 「クラン、ありがとう。助かりました」


 「奥様、そして、私を選んでくれたミール夫人に、私も感謝しています」


 「お母様は、ご自身の体調を元に戻すには、きっと、時間がかかります。お乳もそんなに出るか、わかりません。身近にクランが居てくれて、本当に助かります」


 「いいえ、私は、今、丁度、マロンに飲ませても、まだまだ、余っています。私が屋敷にいる間に、ホウライン様に、お乳を残します」


 「ありがとう。今後は、出店の仕事は、誰かに代わってもらう事は可能ですか?」


 「はい、『テュテュルール』は、私が居なくても、順調に営業が出来ています。それに、春になってからは、主人と二人で、こちらのお庭が、気になって仕方がなかったので、声をかけて頂き、本当に、ありがとうございました」


 「ここからは、クランに、少しお話を、伺いたいと思います。よろしいでしょうか?先ずは、お二人は、王都に来る前は何をしていたの?」


 「はい、主に、農業をしていました。主人の父が亡くなるまでは、大人数の農家で・・」


 「そう・・、ご主人は、何番目のお子さんですか?」


 「ーー5番目です。分配された土地では、親子3人が生きて行く事が出来ないと悟り、その土地を兄弟に売って、王都に出て、あの長屋にたどり着きました」


 「・・ダルマルが産まれて、本当に生活が厳しくなって、主人は、日雇いの仕事を探し、私は、家で飴などを作って、売り歩きました」


 「飴?」


 「串に刺した飴です。飴は、日持ちします。破棄する率も少なく、割れてしまったものは、もう一度再生したり、他の料理に入れたりして、無駄がありません」


 「売れたの?」


 「はい、結構、儲かりました」


 「クランのそのバイタリティは、どこから来るの?」


 「義父がなくなり、土地が分配された後、食事をするにも困りました。ーー貧しい食事しか食べていませんでした。空腹で、毎日を過ごし、そんな中、ダルマルが欲しがった柿の実が、違う兄弟の土地にはありました。その柿の木の柿は、義父が生きていた時には、自由に食べていました。だから、私達が目を離したすきに、ダルマルがとって食べたのです。兄嫁は、ダルマルを酷くののしり、叩き、私たちは、地面に頭をつけて謝りました。その夜は、人生で流す涙をすべて流し、クニマルに、自分の気持ちを伝えました」


 「どうせ、貧しく、死ぬのなら、ここでは、死にたくないと、私たちが死んで、喜ぶ人たちの中では死にたくないと、クニマルに伝えました」


 「私が、あの家を出て行くと言った時に、主人は、迷わずついて来てくれました。簡単な事ではなかったと思いますが、故郷の土地、家、家族を捨ててくれました。貧しい私の実家にも、頼る事も出来ずに、ひたすら王都を目指したあの時に、絶対に負けない、故郷を捨てて良かったと、思える人生にしたいと、誓いました」


 「そして、このヴァイオレット邸の仕事を頂いて、私たちは、本当に助かっています。主人は、私の実家にお金を送金する事も、許してくれて、自分の家は無いけど、私の実家を守る事を嫌がりませんでした。本当に、感謝しかありません」


 「そう、しかし、今回、ホウラインに、お乳を分ける事で、長屋の人たちと、何かアツレキがうまれたりしませんか?」


 「・・・無いと言ったら嘘でしょう。しかし、私は、誰よりも働いていると、自分で思っています」


 「そうね。それは、みんながわかっているでしょうけど・・・」


 「奥様・・、今、あの長屋は、貧困者にとっては、憧れの場所です」


 「どういう事?」


 「長屋は、あの水害で、殆んどが流されてしまいました。本来なら、全員が、家を失った状況です」


 「しかし、あの辺の土地をプラスムス様が、購入して下さり、建築資材も渡してくれました。その資材で、私たち全員で、家を建て始めたのです。最初は、各々で、取り掛かりましたが、それでは、時間がかかり、雨がまた襲って来た時の事や、これから始まる冬の事を思って、全員で、考え、話し合い、すべての人達が納得する形で、もう一度、長屋を立てました」


 「くっついているの?」


 「はい、そうです。その方が、部屋も増やせて、広いです。それに、私たちには庭は必要ありませんし、平等です。それで、『テュテュルール』の仕事も、上手く回りました。長屋の前に大きな炊飯場を作り、そこで料理をしています。女性たちは、みんな子育てをしながら、仕事も出来て、本当に喜んでいます。ただ一つ自己主張したのは、それぞれの家の色です。外壁の色は、自分の好きな色に塗りました。だから、きっとそれだけでも愛着はあるはずです」


 「折角、建てた家を失う事を、誰もしたくないし、しないと思っています。例え、心の底では、憎らしと、思っても、彼らもバカではありません。家賃は払っていない為に、あの美しい長屋は、プラスムス様の物で、私たちの物ではありません。問題を起こせば、職を失い、家も失います」


 「色を塗る提案をしたのは、誰?」  

 「プラスムス様です」


 「奥様、ホウライン様にお乳を分ける事は、私にとって、本当に、大したことではありません。賃金は要りません。お庭の仕事も今まで通りに働きます。そのお金だけで充分です。その代わり、アイシン男爵様が、時々、テュテュルールの子供達に指導している武道訓練に、ダルマルも参加させて、頂けませんか?お願いします」


 「あの訓練は、自分たちで、お店を守るための、実践的な訓練で、厳しい訓練と聞きます。それに、たまに、家の使用人達も参加していて、ダルマルは、走る事しか出来ないのではないでしょうか?」


 「それでも、いいのです。このままでは、あの子・・」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ