飢餓状態を脱出する。
第24章
3日目の雨が降りやむ前に、ブーメン子爵は、使用人3人と共に、ヴァイオレット邸を訪れた。
その姿を見た、アイシン男爵は、
「ブーメン子爵、大丈夫か?」
ブーメン子爵は、家のドアに使用人2人を乗せ、ミミルーと二人で泳ぎ、一緒にヴァイオレット邸を目指した。
「やった、絶対に、ここに来れば大丈夫だと、ミミルーが、言うから、あの屋敷を捨てて、脱出して、本当に良かった。たどり着いたよ・・・・、やった、あ~~、疲れた」
「・・・ブーメン子爵、折角、来てくださったが、今は、非常事態で、屋敷でオモテナシする事は、出来ない。すまない」
「ーーアイシン男爵、水一杯でいい、皆にくれないか?」
「ああ、食事なら、山の方で、職人の奥さんたちが、炊き出しをしている。私も、食べたが、美味しかった。それで、いいならゆっくりして行ってくれ」
「ありがとう。ありがとう。ミミルーの言う通りだ。来て良かった。屋敷にお邪魔出来ない事は、ミミルーからも、聞かされている。とにかく、食事・・・・食事だ。本当に、腹が減った」
「ーーそれなら、急いで行った方が、無くなっている可能性もある」
その話をした瞬間、ブーメン子爵たちは、急いで、山方面の教室の方に、走って行った。先頭は、ミミルーで、ぶっちぎりのダッシュ!
「ミミルー、主人を置いて、ダッシュするとは何事だ~~~! 」
今の屋敷内は、本当に、大変な状態で、突然のクランの出産で、アイシン男爵が、屋敷に戻った時には、誰もが憔悴しきっていたので、これ以上の人を、屋敷内に入れる事は、絶対にしたくなかった。
プラスムスも、ミール夫人を心配して、あの後、ずっと側で寄り添っている。
「あなた、私は大丈夫よ。困っている人達を助けてあげて下さい」
「ああ、しかし、流石に、私も年だ。少し疲れたから、君の側で、休ませてくれ」
「あなた・・・」
ミオも本当に疲れたのか、あれから、フィージアの手を借りて、入浴をすませて、食事もとり、アイマスクをして眠っていた。
アイシン男爵は、素直に眠りについているミオを見て、感謝していた。
今回一番、頼りたい時に、側に居る事が出来なくて、それなのに、彼女は、文句ひとつ言わない。晩さん会の時も、すべてに於いて、男爵を責める事は、一度もない。
確かにわがままで、食事に対しては、手を焼いているが、最初から、弱い人を助ける事に対しては、まったく抵抗がない。プラスムス夫妻を知ると、彼らの教えの良さを、肌で感じられ、ミオの成長にその思想が役立っているとさえ、思えた。
アイシン男爵も入浴を終え、ミオのベットに入る。
「旦那様・・」ミオは、アイマスクを少しだけ上げる。
「今日は、大変だったね」
「ええ、素晴らしい経験をしました。雨はどうですか?」
「小雨に、かわって来た。きっと、明日には、大丈夫だよ。でも、流石に疲れた。ミオの隣で眠りたくなった」
それから、二人は、見つめ合い、抱き合って、互いの体温を感じながら、眠りについた。
次の日の朝、窓から、日差しが射し、アイシン男爵とミオに降り注いていた。
「ミオ! ミオ! 起きて、晴れている。雨がやんだ! 起きて! 」
ミオは、アイマスクを外すと、物凄く眩しくて、本当に、青空が見えた。
「良かった。これで少し、安心ですね」
「ああ、起きて、食事にしよう」
アイシン男爵は、軽いミオを、ベットから抱き上げ、窓の側まで連れて行き、外を二人で見た。
「ーーー我が家の庭は、泥だらけで、しばらくは、わたくしは外に出る事が出来そうもありませんね」
「うん、しかし、君が外に出たいと言ったら、彼らは、きっとその願いを叶える。大丈夫だ」
「ええ、そうですね」
二人は、互いを見て、笑った。その後、朝食を取りに、向かう。ミオは、その朝から、好き嫌いをあまり言わなくなって、食事を始めた。
ミール夫人とプラスムス、アイシン男爵は、驚き、ミオに聞く。
「ミオ、どうしたの?野菜も食べる様になったの?お肉も?お魚も・・・?食べれるの?」
「ええ、お母様、子供を産むには、食事と体力が必要だと、本当に思いました。子供を産む事は、本当に大変です。今回、本当に、クランから学びました」
「ええ、私も思いました。ジュリエールの講義を、また、一から復習しなおさないと、あの時は、何もできなかったから・・・」
「そう言えば、クランは、まだ寝ているの?」
トハルト家令が答える。
「ええ、流石に疲れたのでしょう。まだ、眠っています。食事は、運ばせたので、大丈夫だとは思いますが、ダルマルが、ずっと、屋敷の裏で、クランを待っていましたので、アイシン男爵の許可を取って、クランの部屋に入れました」
「そう、やはり、お母さんが恋しいのね。後で、様子を見に行ってみます」
その時、フィージアが、
「奥様、こちらもお食べになりますか?」
と、鶏肉やきれいな野菜を蒸して、周りには美しいソースがかかっているお皿をミオの目の前に置いた。
ミオは、心の中では、本当に美味しそうだと思い、ずっと、そのお皿を眺めていた。
「ミオ、無理しなくていいのよ。体力は、ゆっくり、つければいいのだから・・・」
「お母様、わたくし、子供を産むためには、食べます。美味しそうだと、思います」
ミオが、真っ赤な顔をして、いつも食べない物に挑戦しているは、自分たち二人の生まれていない子供の為だと、わかっている。そして、その赤い顔を、いつしか、アイシン男爵は、愛しいと思った。
「ミオ、ゆっくりと食べるといい・・・」と、アイシン男爵ははなし、
「はい、ありがとうございます」と、答える。
この世界に来てから、ミオは、心の中から食を欲している状態で、やっと、今回の事で、少しづつ改善される兆しが見えた事を心から喜んだ。
朝食の後、ミオとミール夫人は、クランの部屋を訪れた。ダルマルは、ただ産まれたばかりの妹をじっと見ている。
「ダルマル、妹はどう?可愛い?」
「うん、動いて、可愛い」
「しばらくは、お母様と一緒に、このお部屋で暮らすけど、ダルマルも一緒にいてもいいのよ」
「うん、大丈夫。お外でやる事がいっぱいあるから、お父さんと一緒にいる」
「外では、なにをして遊んでいるの?」
「泥を避けて、お母さんの畑を守っている。でも・・・、みんなが食べちゃう・・どうしよう?」
「お母さんの野菜がなくなっちゃう。奥様が食べる野菜なのに・・、だから、お母さん、大切に育てて・・・・」
ダルマルは、真剣な顔して、野菜が全部、人々に食べられる事を気にしている。その話を、お母さんに聞きに来たようにも思える。
「ダルマル、今は、非常事態で、誰もがお腹が空いていて、キレイな水が飲みたいと思っているの。だから、クランの野菜も、その人達に、分けてあげて下さい。わかる?」
「いいの?」
「いいわよ」
「奥様は、野菜嫌いだから?」
「ーーーーーー」
ミール夫人とミオは顔を見合って、笑い。
「ダルマル、実は、ダルマルの妹が産まれてから、野菜が食べられるようになったの。すごいでしょう?だから、次に収穫する野菜は、美味しく頂けると思います。ダルマルのお母様が、もう一度、作って下さるのを待つから、お外のみんなに、食べて下さいと、伝えてくれる?」
「いいの?」
「いいわよ。庭が、キレイになったら、畑を見に行って、食べたい物を教えます。その時は、もう一度、クランに頼んで栽培してもらうから、さぁ、行って、そう、お父様に話してね」
その話を聞いていたクランは、目を真っ赤にして泣いていた。
「奥様、本当にありがとうございます。これからも、働いていいのですか?」
「勿論、いいけど、もう、無理はしないでね。私たちは、アクシデントに弱いから・・・」
「はい、気をつけます」




