災害後
第25章
屋敷の窓から、見る風景は、市場が、ここに移って来たかのような状況で、毎日、面白い事があって、外に出られないストレスは、ミール夫人もミオも感じる事はなかった。
「奥様、今日から、旦那様が出勤なさるようですが・・・」
「ええ、大丈夫よ。いつもの様に、門で、旦那様を見送りましょう。他の貴族の方々も、ご一緒に王宮に、向かわれるのですか?」
「ええ、流石に彼らもご一緒に、向かわれるでしょう」
水が引き始めて、数日間は、泥の掃き出しをすべての人々で行った。それは、ここヴァイオレット邸にいる為には、必要な仕事で、病人や老人、子供を除いて全員で行っていた。
その後、アイシン男爵を頼り、他の貴族の方たちも集まり、ヴァイオレット邸の広い庭に馬車などを止めて、滞在したりもして、どんどん、人数は増えていった。
ーーーしかし、ミオは、一度も姿を現していなかった。
久しぶりに外に出たミオは、門まできれいに清掃された道を、アイシン男爵と歩き、アイシン男爵は、トナカリ、ルフリーと共に馬車に乗り込み、ブーメン子爵は、アイシン男爵がオリザナダ領から、持参した馬車を借り、その他の貴族たちも、一斉に、王宮や自宅へと戻って行った。
残された、奥方たちは、ミオに頭を下げ、
「ミオ様、この度は、誠にありがとうございました」
「こちらこそ、母が高齢の妊婦で、生まれたての赤ん坊もいまして、皆様を屋敷の方へ、避難させることが出来ずに、申し訳ありません」
「いいえ、沢山の食料と布団などを貸して頂いて、本当に助かりました。主人たちも、無事、王宮へ出向く事が出来ましたので、わたくし達も、今日、自宅へ戻る事とします。ありがとうございました」
「それでは、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
ミオは、そのまま、使用人たちに囲まれ、一糸乱れぬ姿で、誰よりも気高い気品を保ちながら、屋敷に戻って行った。その様子を、ジュリエールは、遠くから見ていた。
トハルト家令は、
「彼女たちは、ごきげんようと言う言葉で、随分とヴァイオレット家から、日用品を持ち出しましたね」
「ええ、今は、どのお宅も、品物がなくて大変だと思います」
「・・・・ブーメン子爵はどのようにいたしますか?」
「彼の事は、きっと、旦那様が、お考えなさるでしょう。トハルト、冬はそこまで来ています。これから寒くなるでしょう。今後は、お母様が過ごしやすいように、最善を尽くして下さい。後は、父上とも話しましたが、産室は、必要になるでしょう」
「私も、その事は、深く思いました。いかなる状況にも対応でき、安心して出産できるお部屋が必要で、そのことは、コメネルとパンネルとも話し合い、これから設計して行く事にします」
「頼みましたよ」
その日、王宮に出勤したアイシン男爵が、見た王宮の惨状は、想像以上に酷く、王宮の使用人たちは、過酷な労働を強いられている。
国王陛下は、王都の視察から戻り、ヴァイオレット邸のある王都西側が、あまりにも整備されていて、驚いていた。
当然だが、災害対策本部は、直ぐに立ち上がったが、軍部が上手く稼働できないうちに、王宮内への浸水も進み、王宮も食料などを上層へ移動したりして、水攻めされた城のようになった。
それでも、軍部は、外の高い所に位置していたので、なんとか、工夫をして、多くの国民を助けた。
「陛下、軍を総動員して、救助したのは、こちらの西側で、東側の殆どは、ヴァイオレット家が救出したようなものです。ーーーそして、すでに、随分と復興していました」
「アイシン男爵を呼んでくれ」
「はい」
アイシン男爵は、国王陛下に会いに、部屋を訪れた。
「失礼します」
「ああ、今回の災害では、大きな働きをしてくれた、この国の国王として、感謝する」
「国民の命を守る事は、最重要です。それに、妻の使用人たちが協力してくれて、周りの人達も助けてくれたお蔭です。国王陛下からのお言葉で、彼らも喜ぶでしょう」
「沢山の貴族たちにも、手を差し伸べてくれたと聞いている。彼らも感謝しているだろう」
「彼らも本当に大変でした。ブーメン子爵の家は、壊滅状況です。これから家を探して、苦労するでしょう」
「彼も、一緒に、救助活動に参加していたと聞いている。彼の家は、こちらで用意しよう」
「今日、ここに来てもらったのは、君の今回の功績を称えて、君自身に男爵の爵位を与える」
「光栄です。ありがとうございます」
「所で、これから王都は復興しなくてはならない。君の力を借りる事はできるかね?」
「勿論です。私も、是非、王都の為に尽力したいです」
「王都の街は、壊滅状態で、一番必要なのは、人力だ。しかし、今回の水害で、多くの人々が亡くなり、街を復興させるには、何年もかかるだろう。聞く所によると、君の屋敷は、多くの職人を抱えていると聞いている。彼らを他の貴族たちに、貸してくれないだろうか?」
「国王陛下もご存じだと思いますが、私自身は、田舎の地方貴族です。妻は庶民の出身で、お金持ちですが、彼らを雇っているのは、妻でして・・・、家に帰って、妻や職人たちに聞いてみないとわかりかねます。それに、賃金も問題もあります」
「賃金?」
「会計の事は、よくわかりませんが、職人たちの中には、その日、例え、出産する予兆があっても、働きたいと申し出る人間もいます。それは、きっと、相当な金額を、妻が支払っていると、推測されますが、同等な金額を、彼らに支払って下さいますか?」
「・・・・・・」
「その賃金が、王都での最低賃金になると、大勢の地方の職人は、きっと、大勢、王都を目指す事になり、その時、他の地方貴族の方は、多くの負債を抱える事を心配します」
「では、どうしたらいい?」
「はい、それでも、やはり、王都の復活には、地方の人間を呼び入れる事が一番の近道でしょう。でも、出稼ぎに来て、辛い労働を強いられて、結局は、体を壊し、少ない賃金しか支払われないとなると、本末転倒です」
「王都門の規制を少し緩めたらどうでしょうか?王都に働きに来て、自分の領土に帰る。往来を緩和するのです。そうすれば、もっと、王都の街に、商品を売りに来る人々は増え、肉体労働者も、通いで来れます。その人達との賃金交渉は、それぞれで行ってもらうのです」
「う・・ん、少し考えさせてくれ。王都門を開ける事は、我々も考えているが、今のこの情勢で、他国に攻めいられると厄介だと言う意見もある」
「はい、国王陛下のお考えが、一番大切です」
数日後、王都門は開放され、地方からの人間を受けいれ、王都の復興の為に、以前よりも活気づき、地方の都市から、首都圏へ通勤するように、自由に仕事を選べるように変わった。復興の為には、木材の様な材料も多く必要で、それぞれの領土から、王都に売り込みに来る。その為に、地方貴族は、自分たちの領土の商人たちを、屋敷内に泊まらせたりして、ウィン・ウィンの関係で、屋敷の修繕を行った。
その経済の変化に対応する為に、王都門の出店の人間には、試練が訪れた。
「奥様、王都門の出店の子供がやって来てます」
「え?」
「あの店主、売り上げと、食料を持って、夜逃げをしたらしいです。どのようにしますか?」
「あら、あら、一応、アイシン男爵は、貴族だと教えておいたのに・・どうしましょう?」
「人を雇って探し出しますか?」
「いいえ、ここは、警察に頼みましょう」




