表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

561/566

第546話【ピンクの炎は希望の炎】

 熱い……わたしは……死んだの?


 フランベールは漠然とそう思った。


 アグリスのブレスが迫ってきたところまでは覚えている。

 そこから先は思考が止まって頭の中が真っ白になった。

 回避できないと判断し、即座に身を強張らせてしまった。

 目を閉じて反射的に顔を両手で守った。

 

 しかし飛んできたのは熱風だけ。

 それでもその熱量は凄まじく、髪やマントの先端がチリヂリと焦げていき、露出した肌の部分には火傷を負ってしまった。


 だがその程度で済んだ。

 それがあまりにも不自然で、フランベールはついに目を開けた。

 するとそこには桃色の竜鱗に覆われたドラゴンがアグリスのブレスを受け止めてくれていた。

 

『フランベールさん! 大丈夫?』


 その声はセレンのもので、ようやく漠然としていた意識が回復しフランベールは徐々に正気となった。


「お……お義母、様? ぁ、だ、大丈夫です! 助かりました!」


 あのアグリスのブレスを受け切るなんて。

 セレンの頑丈さは聞いていたがこれほどとは。

 あんなブレスを人間が受けていれば灰になっていた。

 

 セレンはフランベールの無事を聞いて『良かった』と心底安堵したように微笑し、そのまま人間の姿に戻った。

 

「フランベールさん。あなたはヨコアナへ。ここは危険です」


「それは……でも……」


 たしかにセレンの言う通りなのだろう。

 狙撃が失敗し、武器も損傷した今となってはフランベールが戦力になることはない。

 ヨコアナへ撤退して身を隠すべきなのだが……


 フランベールは遠くでアグリスと戦っているゼクードを見た。

 ゼクードの様子がおかしいのだ。

 見間違いでなければゼクードは変異している。


 鎧が溶けて肉と一体化してしまっているのに、そこまで苦しそうでもない。

 彼の片眼も治ってる。

 さらに瞳の色もパープルからピンクに変わっている。


 この症状はセレンに輸血されて蘇生したグロリアと同じだ。

 ……まさか、ゼクードくんも!?

 

「お義母様……ゼクードくんは……まさか……」


 震える声でフランベールが問うと、セレンは身体を小さく震わせた。


「……ごめんなさい。ゼクードは一度、あのレグに殺されたの」


「!?」


「一度殺されて、そして……蘇生させた。わたしの血で……」


「そんな……ゼクードくんまで……」


 グロリアに次いでゼクードまで人間では無くなってしまった。

 だが不思議なことに、まだゼクードが生きているから、動いているから冷静でいられる自分がいた。

 ショックなのは事実なのだが、目の前で動いているのが自分にとっては一番大切なのかもしれない。


「ごめんなさいフランベールさん。わたしは……」


「ぁ、謝らないでくださいお義母様。ゼクードくんがそのまま死んでいたらもっと大変なことになっていました」


 やっとこれで合点がいった。

 ゼクードはセレンの血でグロリアと同じくドラゴン化している。

 だからあれだけの火傷を負っても動けるというわけだ。


「お祖母ちゃん! お義母さん! ちょっとコイツらをお願い」


 いきなり現れたのはグロリアだった。

 どうやら気絶したナイトを担いでここまで避難してきたようだ。

 約ニメートルもあるナイトを軽々と担いで来るなんて、さすがはローエの娘である。


 ドスンとナイトを地面に置いたグロリア。

 そこにリィがナイトを心配そうに見つめる。

「ナイトさん! しっかり!」っとセレンもナイトを揺さぶる。

 そんな中フランベールはグロリアを見た。


「グ、グロリア……あなた……その腕!」


 フランベールは目を疑った。

 グロリアの腕がドラゴンのそれになっていた。

 セレンがドラゴンの姿になっているのを何度も見ているのに何を今さらと自身で思ったが、何故か、凄くショックだった。


 脳裏にローエの悲しむ顔が浮かんできて、なんとも言えない損失感が全身を襲う。


「あ、これ? ……悪いけどまだお母さん(ローエ)には言わないでね。きっと悲しむから」


「グロリア……」


「フォルス家もメチャメチャね。ドラゴンの心臓って碌なことないわ」


「……」


 フランベールは何も答えなかった。

 たしかにドラゴンの心臓が出てきてからフォルス家はメチャメチャになってきた気がする。

 それもこれも全て…………いや、やめておこう。

 

 少なくとも自分の夫ゼクードは今でもそれを払拭しようと戦っているはずだから。

 妻である自分は、ただ信じてついていくだけ。

 

 それにフォレッドの気持ちが分からないわけではない。

 英雄だって人間だ。

 絶望するし、孤独に勝てないこともある。

 当たり前だ。

 だけど彼はゼクードの生存を聞いて歓喜して泣いたという。

 フランベールが彼を嫌いになれない理由がこれだ。

 決してゼクードの父親だから、という簡単な理由じゃない。

 子供のために泣ける人だったからだ。


 セレンだって自分の孫を見捨てられなかった。

 その気持ちだって理解できる。

 自分もレミーベールに何かあったら、どんな手段を用いても助けようとする。

 これから生まれてくるレミーベールの子供にも何かあったら自分はセレンと同じ行動を取るだろう。


 みんな自分の子供ために動けるんだ。

 親は子供を愛するべきだし、幸せを望むものだと思ってる。

 少なくともフォルス家はみんなそう思ってるはずだ。


 だからこそ……グロリアのドラゴン化が、あまりにも残酷で、ローエになんて伝えればいいのか分からなくなる。


「お義母さん。ナイトとリィをヨコアナへ避難させておいて。入り口付近まででいいから」


「あなたはどうするの?」


「お父さんを援護するわ。リィ! アタシにも歌を掛けて!」


 リィは驚いた様子を見せたが、すぐに歌を歌い始めた。

 リィの声はフランベールには聞こえないが、妙に心地良い歌声である。


「あのアグリスって女……炎ですぐに再生して何もダメージになってないわ。あのままじゃお父さんが体力切れで負けちゃう」


 確かに遠くで戦っているアグリスを見ると、ゼクードの拳打も効いてそうに見えてすぐに回復しているみたいだ。


「じゃあ……どうするの? 斬撃?」っとフランベールが聞くとグロリアは首を振る。


「ううん。斬撃もダメみたい。ナイトの爪が効いてなかったってリィが言ってるわ」


「そんな……」


 打撃も斬撃も効かないならいったいどうすれば?

 

「アグリスの強みはあの再生を助けている炎よ。あれを止めることさえできれば、お父さんは勝ってくれるはず」


 グロリアは自信を持って言った。

 ゼクードは確かにアグリスを押している。

 騎士としての技量はやはりアグリスより数段上のようだ。

 アグリスはレグより弱い。

 だが『熱のバリア』と『炎の再生』が何より厄介だ。

 ただでさえ再生を持っているドラグーンの回復力をさらに上げている『炎の再生』。

 これさえ何とかなれば。


「あの再生を止める方法なんてあるの?」


「確信はまだないんだけど……これ」


 ボッ! とグロリアの腕からピンクの炎が発生した。


 え!? っとフランベールは内心で驚愕した。


 グロリアは攻撃魔法を持ってないはずなのに。

 まさかこれもドラゴン化の影響か。

 隣のセレンもグロリアの炎を見て驚いている。

 どうやら彼女も初見らしい。


「この炎を当てれば、もしかしたらアグリスの再生能力を殺すことができるかもしれないわ」


「そ、そうなの? どうして?」っとフランベール。


「メルセーヌと戦った時にこれを使ったらあっさり倒せたの。再生しない!? って言ってパニックになってたからやってみる価値はあるわ」

挿絵(By みてみん)

グロリアの『ピンクの炎』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おお、フランの生存を確認しました。 お祖母ちゃんが強すぎるおかげや。
[良い点] ドラグーンの天敵はドラグーンなのか… [気になる点] グロリア「黄○よりも昏きもの 血の流れより紅きもの 時の流れに埋れし 偉大な汝の名において 我ここに 闇に誓わん 我等が前に立ち塞がり…
[良い点] ベルエッタさんのネタ3度目(笑) ゼクード「だからそういうのは本当に心臓に悪いからやめてくれ……」 サイス将軍「全くだ……そのせいで俺は作者に殺されかけたからな」 [一言] この分だと…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ