第545話【炎竜の心臓】
「あっはっはっはっはっは! やってやったわ! さいっこうね! ほらアンタの最愛の妻が死んだわよ! ざまぁみろってなぁあああっ!!」
「アグリス……きさまぁあああああああああああ!」
こいつだけは……殺す!
わずかにあったアグリスへの情は消え去り、本物の殺意だけがゼクードの腹の底に熱として湧いた。
ピンクの瞳をギラつかせたゼクードは【ブラックホール】を展開。
セレンの血で強化された【ブラックホール】は翼で空を飛ぶアグリスを捉えて引き寄せる。
「な!?」
【ブラックホール】の吸引力に抗うアグリスだがあまりの吸引力に一気に降下させられゼクードに足を掴まれた。
ゼクードの手が熱によってジュウッと焼けていくが構わない。
怒りのままに引き寄せる。
「離せこの野郎!」
「逃がすか! 死に損ないが!」
罵倒を叩きつけ合い、なおアグリスは空へ逃げようとした。
だがゼクードの怪力からは逃れられず、引っ張り合いの末、ついにアグリスの足が引き千切れた。
「いっ! ぎぁああっ!」
痛みで悲鳴を上げながらもアグリスは無理矢理上昇して距離を取った。足はすぐ炎によって再生し、アグリスは地上にいるゼクードを見る。しかしそこにゼクードはいなかった。
「【真・竜斬り・轟】!」
「え!?」
ゼクードは背後にいた。
空中なのにいつの間に背後に!?
そう思ったのも一瞬で、後頭部にゼクードの一撃をモロに受けた。
刃が溶けた長剣の一撃はやはり鈍器のそれで、打撃によりアグリスの脳が激しく揺れる。
地上に叩き落されたアグリスはなんとか立ち上がったが、視界がグラつき、まっすぐ立つことさえ困難になってフラついていた。
「こ、この……よくも……」
さすがのドラグーンたるアグリスでも、力技である【真・竜斬り・轟】を後頭部に受ければダメージも大きかった。
今にも意識が飛びそうになっているアグリスは、そのせいか発している熱が弱くなっていった。
今なら斬撃を叩き込める! っと地上に着地したゼクードは思ったが、肝心の武器が鈍器になってしまっている。
サバイバルナイフも鞘から抜けないからきっと中で溶けている。
せっかくのチャンスを活かせないのか?
辺りを見渡したゼクードは【エリザの矢】を見つけた。
先ほどレグに止められ捨てられたヤツだ。
ゼクードは溶け切って使い物にならなくった長剣を捨て、その【エリザの矢】を拾い上げてアグリスに接近する。
肉薄するゼクードを見たアグリスは片手をドラゴンの形状に変異させ爪をがむしゃらに振り回してきた。
「ドレスを返して!」
「黙れ! ディアマードの残党が!」
しかし弱っているアグリスの攻撃はゼクードにとってあまりにも遅かった。
簡単に捌かれたアグリスはゼクードに【エリザの矢】を首に突き立てられた。
「うぐっ!」
やったか!? とゼクードはアグリスから離れて経過を見守った。
アグリスに突き刺さった【エリザの矢】は彼女の血で溶け、内包していたエリザの黒い血がアグリスに流れ込む。
しかしその黒い血は炎によって浄化され、アグリスと同じ赤い血に戻された。
「な……に!?」
「……残念だったわね。私にはこんなもの効かない。私の竜の心臓は全てを浄化する。浄化と再生の力を持った【炎竜の心臓】よ!」
【炎竜の心臓】だと?
昔いたあのレッドドラゴンみたいなヤツか?
まさか【エリザの矢】が効かないとは。
浄化と再生の力か。
だからやたらと再生が速いのか。
ドラゴンってのはとことん理解不能な能力を持ってやがる。
親父はこんなのどうやって倒したんだ?
倒し方が分からないが、逃がす気にはなれない。
フランベールの仇を取りたい。
たとえ刺し違えても。
それに浄化と再生の力を持っているなら、アグリスの血を接種すれば、もしかしたらグロリアを人間に戻してやれるかもしれない。
そういう意味でもアグリスはここで倒したい。
何か……何か作戦はないか。
親父に出来て、俺に出来ないってことはねぇだろ。
考えろ!
溶けた長剣は捨てた。
サバイバルナイフは腰にある。でも抜けない。
鎧は溶けて肌にへばりついてやがる。
さっきから痛くて熱くて仕方ない。
セレンの血でドラグーンになっていなかったらとっくに死んでいた。
ならば魔法しかない。
炎には氷だろうが、その氷使いのフランベールが今さっき……




