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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第七章 外交 ~融和に向けて~
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ガルディナへ

「ゲオルグ殿、では、お願いするわ」


「……本当に来るんだな」


「えぇ、随分と反対はされたけどね」


5000名を超える獣人達の準備が終わり、ゲオルグの元にはリュドミラとラシード、そして件の騎士を始めとする護衛が6名程。全員が乗れる程度の大きな馬車も用意してやってきた。


ここに来るまでも、騎士達から考え直すよう説得されていたようだが、その反対を押し切ってのことらしい。


「他国ならいざ知らず、これから見に行くのはドラグニルが作った獣人やエルフ、ドワーフだけの街。そんな世界に一つしかないであろう街を、部下だけに確認させてそれで満足、とはいかないもの。実際にどれだけの発展を遂げているのか、生活水準は、経済は、産業は、という具合に、他人の口から出た言葉だけで判断するには些か知りたい事が多すぎるわ」


リュドミラの言いたいことは分からないでもないが、それでもリスクをわざわざ背負わねばならないゲオルグとしては、正直説得に折れて貰いたかった。以前、その提案を承諾した本人としては、それを翻すような事は言えないからだ。


しかし、実際にその目で見て貰い、好印象を与えることが出来るのならそれに越した事もないだけに、複雑ではある。


「……まぁ、そちらで決めたことだ、今更俺がどうこう言うつもりはない。但し、くれぐれも護衛が剣を抜くことがないよう頼むぞ。こちらが先に抜いたならば俺も手助けするが、そちらが先に抜くようなことがあれば、俺もそれなりの対処をせねばならん」


「分かっているわよ。そもそも、街中では馬車から降りるつもりもないし、外を覗き見るような真似も控えさせるわ」


「ならば結構、では、そろそろ行こうか」


「えぇ、ラシード、残す兵達の指示は問題ない?」


「はっ、抜かりなく。それよりも、どのように向かうことになるのでしょうか。森を切り開いてあるようには見えませぬが……」


ラシードの言葉に、ゲオルグは心底楽しそうな表情を浮かべた。


「きっと、気に入って貰える方法さ」


そう言い、首を傾げるリュドミラとラシードの二人を置いて獣人達の前へと移動するゲオルグ、そして、例のお決まりのセリフを言う。


「さぁ諸君!!」


「「「「「空を飛んだことはあるか!!」」」」」


「っ!?」


つもりだったのだが、後ろに待機していたガルディナ兵が、それを奪った。


驚きながら振り返ると、そこには満面の笑みを浮かべた警衛隊の面々。彼らはそう言えば、その殆どが二度、この経験をしているのだ、恐らくは、その時驚かされたことに関する意趣返しであろう。


「…………やってくれる」


苦笑を浮かべながら、再び前を向くと、そこにはキョトンとした5000人以上の者達。今のやり取りを理解できる訳もないのだから、当然と言えば当然だが。


そして、いよいよ、空を飛ぶ時がやってきた。
















「ははははは!!スタンフォード公!!これは中々良いものですな!!」


地面ごとの飛行を、心底楽しそうに満喫するラシード。彼は、騎士の静止を振り切り馬車から降りていた。現地に到着するまでならば、と、ゲオルグが承諾したのだ。


「楽しそうなのは構わんが、落ちてくれるなよ。流石にこれだけ大勢を運ぶのは初めてなのでな、他の事に気を割く余裕はない」


「承知仕った!!」


返事は良いのだが、いかんせん行動が伴っていない。今も最先端の縁まで行き、豪快な笑い声を上げながら前方に広がる景色を堪能している。


「閣下、後方の混乱も大分治まりました、速度を上げても問題ないかと」


一人溜め息をついていたゲオルグの元へ、ヨハンがそう報告にやってくる。この魔法を行使した後、予想通りに5000人の亜人は混乱に陥った。恐怖、興奮、喜び、期待、反応自体は千差万別であったが、最初に最も多かったのは、やはり恐怖である。これだけ高い場所を飛行するなど、間違いなく初めてなのだから致し方ない。


だが、今ではラシードのように景色を楽しむ余裕のある者も目立つ。それを受けてのこの報告だろう。


「分かった、では少しばかり急ごう。時間が予定より掛かっているからな。後方に、速度を少し上げる故注意するよう伝達を頼む」


「はっ」


ちなみに、ドラゴニュート達は浮遊する地面の周囲を並走するように飛行し、万が一誰かが落下した際、それを救助するように指示してある。間に合うかは分からないが、いないよりは良いだろう。


「げ……ゲオルグ殿……あとどれくらいで着くのかしら……?」


リュドミラが、馬車の中から青い顔を覗かせる。もしかしたら、高所恐怖症なのかとも思ったが、どうやら酔っただけらしい。馬車は杭と縄で固定はさせたが、それでも揺れることは変わりない。しかも、飛んだ当初は馬車を曳く馬が暴れに暴れ、それを御すのにひどく苦労していた節もある。その際にも馬車の中にいたのだから、酔うのも分からなくはない。


「そう時間は掛からんが……吐くなよ?」


「だっ……誰が吐いたりっ!……は……はい…たり……」


大声を上げたせいか、青い顔を更に青くして中に引っ込んだ。まぁ、馬車の中で吐かれる分にはゲオルグは困らないので、放置する事に決めた。


そんな一幕がありながらも、ようやく見慣れた街が……いや、厳密には、1万人程度が生活できる程に拡張された街並みが見えてくる。農業や畜産といった区画毎に城壁で仕切られ、いかにも堅牢な鉄城門に守られたその街は、まさしく城塞都市と呼んで差し支えないものである。


この着地の為に用意された正門前の広大な空き地には、住民達が今か今かと到着を待ちわびている姿も見える。


「おぉ……おぉぉぉ!!これは……まさしく要塞の如き造り。城壁内に全てを納めているとは……」


一番前でそれを見ていたラシードが感嘆の声を上げる。普通、農業の為の土地と言うのは広大な為に、城塞都市であっても城壁外にあることが多いのに対し、この街は文字通り全てが城壁内に作られている。農業の為の区画は、家屋が殆どなく畑や果樹園が広がっているため、この世界の人間にとっては異様な光景だろう。その他にも、湖から水を引いて作られた深く幅広の堀や、湖の真ん中に浮かぶゲオルグの屋敷など、様々なものに興味を示していたが、人間が表に出たままでは着地に移れない為に馬車に戻す。


そして、ようやく着地をした時、街の者達もまた、いつものあのお決まりのセリフを叫ぶのだった。

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