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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第七章 外交 ~融和に向けて~
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腹の内

書いては直し書いては直し。気付けば普段の倍近い文章量となりました。


しかし、書ききれなかった感が否めない。

「さて、では自己紹介といこうか。ヨハン」


「はっ、ガルディナ森都にて、警衛隊の隊長を務めております、ヨハンです」


「同じく、警衛隊にて副長を務めております、ジルです」


「産業を取りまとめる、産業統括官のニーナです。以後、お見知りおきを」


「工業統括官のケイルです。我らが街への来訪、歓迎致します」


「の……農業を担当しています、ヘレンです……」


「畜産のクルト……です」


現在、5000名もの新住民の受け入れを無事完了したゲオルグは、各部署への指示を出した後、議事堂に主要な人物を召集し、リュドミラ達と会合を行っていた。彼女達は議事堂に着くまで終始馬車から降りることもなく、ここまでは特に問題もなく事は進んでいる。リュドミラに関しては、酷い嘔吐感が治まるまで出たくとも出られなかったのだろうが。


ただ。


「と……統括執政官補佐の……フェリスです。兄さ……ゲオルグ・スタンフォードの妹です…」


フェリスを始めとした何名かが、リュドミラ、というよりはその護衛であるラシードや騎士達にあからさまに怯えているのが目下の頭痛の種だ。事前に何度も説得を重ね、全員が顔合わせを行うことは了承して貰ったのだが、実際に会ってみるとその屈強そうな人間達に過去のトラウマを思い出すのか、可哀想な程に委縮してしまっているのだ。彼、彼女らはまともに人間と接触する自体が初めてなのだから、それを責めることなど到底出来ないが。


「丁寧な挨拶痛み入る。私はガルディナの北方、ヴィルヘルム帝国皇帝、リュドミラ・スラミフィ・ヴィルヘルムだ。此度の来訪を快諾して貰い、心より感謝しよう。ここに控えているのはラシード・バスネルだ。今後、主にこの者が貴国と我が国の間に立つことになろう。ラシード」


「はっ、陛下からご紹介にあずかった、ラシード・バスネルと申す者だ。スタンフォード公、そして貴国と我が国を融和の為、老骨に鞭打ち尽力する所存、以後、よしなにお頼み申す」


いかに初老とは言え、筋骨隆々の偉丈夫が完全武装した姿でいるというのは、人間に対し恐怖心を抱く者にとっては脅威以外の何物でもない。それがどれだけ柔らかな物腰であっても、数年、長ければ十数年、数十年に亘り人間から虐げられた者が安心などする訳もない。


結局、ニーナ、ケイル、ヨハン、ジルだけを残し、他の者は退出する形となったのは、致し方のないことであろう。
















「よく分かって貰えたと思うが、これが現状だ」


「えぇ……正直に言うと、想像以上だったわ」


急にガランとなった会議室内部に、リュドミラの力なき声が妙に響く。自らの想像を遥かに上回る人間嫌いに、少々落ち込んでいるようだ。彼女は恐らく、帝国の物差しで勘定していたはず、それ故か、ディナントから来た者達の心情を正しく理解していなかったのだろう。


「確かに今日の帝国からの新住民の受け入れで、多少風向きも変わるだろう。だが、今のガルディナを運営しているのは、全員がディナント出身の者達だ。それがどういう意味か、分かるな?」


「……そうね、少なくとも、今回の一件で貴方がどれだけ苦労をしたのかはなんとなくだけど理解出来たわ。これだけ人間を嫌う人達を説得してここまでこぎ着けられた、貴方の人望も、ね。帝国としては、現状では出来得る限りの誠意を以てこれからの取引に臨むことしか出来ないけれど、心の問題ではね……時間と実績を積み重ねて、信頼を掴み取るしかないわね」


「そういうことだ。最も、ここに居る者達の様に、必ずしも恐れる訳ではない。まぁ、良い感情こそ抱いてはいないだろうが、な」


そう言って辺りを見渡せば、特に感情を示さぬヨハンとジルに、やや眉を顰めたニーナとケイルがいる。ヨハンやジルは、先の砦建設の際にあれだけ大勢の人間と相対したため、慣れもあるだろう。それに二人はいざとなれば自ら剣を手に取り戦う術もある。


しかし、いざ何かされれば抗う術を持たぬニーナとケイルは、やはりこれだけ近くに人間がいるのは不快なのだろう。ある程度の距離があれば、魔法を扱える二人に分があるが。


「そうね……今この場にいてくれる貴方たちには、本当に感謝しているわ。私達に良い感情を抱けない、その心情についても、原因が私達人間にある以上、責める事も出来ないもの。けれど、ゲオルグ殿が目指す新しい世界、常識を作り出す為には、互いの協力が不可欠だと思っているわ。少なくとも、この国が完全に人間の国家との交流断絶をしてもその独立と平和を維持できるようになるまでは、ね。勿論、ゲオルグ殿抜きで話よ。その頃に私が生きている保証はないけれど、それだけの国力を有するようになっていれば、どの国家でも無碍には出来ない筈。まぁ、恐らくディナント辺りは国家とは認めないでしょうけど、あの国は私達にとっても長年の仇敵。必ず力になれると思うわ」


リュドミラの力説にも、やはりニーナとケイルは表情を固くしたままだ。理解は出来るし、必要性も分かるが、人間を信用出来ない、といったところだろう。


「まぁ、まだそこまで未来のことは懸念するだけ無駄だろうよ。我々が実際、国家としてそこまで成長するまでにどれほど掛かるか、そしてその頃の大陸の情勢も、国家間の関係も、我らに対し友好的か敵対的かも分からない以上、想定のしようもない。帝国も、いつまでも友好的とは限らないしな?」


ゲオルグがそう言うと、リュドミラが苦笑しながら答える。


「それはそうだけど、何も私の前でそんな話をしなくてもいいんじゃないかしら?」


「なに、他意はないさ。可能性としてなくはないことではあるが、先ずはそうならないよう善処していくのが俺とリュドミラの仕事だろう?」


「そうね。私も、私の後継には出来るだけ気は払うわ。ガルディナの資源と技術は手放し難いもの」


「正直なのはなによりだ。まぁ、俺も帝国の技術や資源は当てにしている。主に海産物などな」


「そう言えば、塩はどうなっていいるの?」


「俺がなんとかしている、詳しくは省くがな。人口さえ増えれば、ちょっとした当てもある、しばらくは塩の心配は無用だ。取引にも持ち出すつもりはない」


ちなみに、なんとか、というのは、ゲオルグが定期的に海まで行き、海水を魔法で蒸発させそれを持ち帰り精製している。そのままでは不純物も多すぎるからだ。当てというのは、以前発見した岩塩が含まれている山であり、人口の増加と安全確保の問題が解決すればそこの開発もするつもりである。ただし、これは未だに目途が立たないのが現実だが、高価な塩を取引に用いられたくないゲオルグとしてはなんとしてでも開発まで漕ぎ着けたいというのが本音だ。


「なんとか……ね。まぁ、貴方がそう言うのなら本当に問題はないのでしょうけど。では、海産物に関してはこちらで色々検討してみるわ。なにせ海からの距離が距離だし、生では……ね。特に冬場は、一部の港は使い物にならなくなるし、流氷もあって漁も難しくなるから、あまり期待はしないで頂戴」


「無論だ。海産物に関してはそこまでのものは期待していない。どちらかと言うと技術面が主だ。酒造など、な。こちらは酒造りに関しては全くの素人しかいない。というより、経験者がそもそもいない。必要なものではないが、娯楽の少ない街だからな。酒くらいはあってもいいだろう」


「そうね……技術者の派遣は難しいけれど、書面にして伝えることくらいなら出来そうね。後は完成品をいくつか送るわ。無論、タダではないわよ?」


「分かっている。仮にもその国の特産の技術を貰おうと言うのだから、相応の対価は用意しよう。とは言え、現状では金か宝石程度だが」


「……製鉄技術、なんていうのはどうかしら?」


それは、あまりにもあからさまな提案。


「……あまり侮ってくれるなよ。確かに、酒造の技術は欲しいが、必ずしも必要なものではない。そして、ここの製鉄技術は確かに高度だが、それは我が国が軍の装備を質で補わなければならないからだ。製鉄技術は常に軍の質に影響を与える。未だ正式な国交を結べぬ国家にそれを教えると思うか?」


ガルディナは恐らく、この大陸で唯一、製鋼技術を保有している。製鉄に関してはどの国も技術は有しているが、炭素含有量を調べる為の方法が確立されていないし、そもそも鉄に「炭素」というものが含まれそれが性質に大きく影響する、ということも認知されていない可能性が高い。


ガルディナでは現在、反射炉とパドル法の組合せを用い製鋼しているが、これは大体18世紀頃に確立されたものである。


反射炉とは、詳しくは省くが、要は石炭を鋳鉄と接することなく燃焼させて石炭の持つ不純物が鉄に混入することを防ぐことを目的とされた特殊な炉であり、パドル法とは、鉄は炭素を失うにつれて純度が増し熔融点が高くなり流動性を失う為、だんだん粘くなって反応が不均一になり、そのままでは反応が進行しなくなるため、反射炉に開けた小さな窓から鉄のパドルを差し込んでかき回して反応を進行させる事だ。ちなみに、パドルとは船を漕ぐかいからきているらしい。


高校の授業で習ったうろ覚えの知識を再現してくれたドワーフの職人達にゲオルグは大いに感謝している。だが、それは明らかにこの時代には過ぎたる技術。故に積極的に広めるつもりはないし、自国のアドバンテージとして最後まで極力独占しておきたいという思惑がある。


いずれは製鋼後の鋼を製品として取引することはあるかもしれないが、それは今この場で言うつもりもない。今まで、大陸でも随一の製鉄技術を持っていた帝国の前でそんなことを言うのは流石に憚られるからだ。


「……なるほど、流石にそこまでお人好しではないのね」


リュドミラが、俯いて小さく呟く。それはこちらに聞こえないようにしているのだろうが、ゲオルグの耳にはしっかりと聞こえている。そこに触れるようなことはしないが。腕を組み考え込むような姿勢も恐らくは演技だろう。


「言っておくが、彫金に関しても同様だ。こちらはいずれは考えてもいいが、それはガルディナの人口が必要十分になり、産業と工業、そして経済が安定状態になってからだ」


このセリフもまた、牽制である。つい先日、リュドミラが自分で「ドワーフは帝国内でもよく雇用される」という旨の発言をしていた以上、彫金技術が模倣されるのはそう遠くないと思われるからだ。なにせ、ゲオルグ自身が「その金細工を作ったのはドワーフだ」と明言している。帝国が彼らの手先の器用さと職人気質に気付いているかは分からないが、同じドワーフで出来ない事はない、とはすぐに気付くだろう。故に、ドワーフを帝国が出し渋ることがないよう、「人口が必要十分になるまで」と言ったのだ。それでも、多少はドワーフの割合を減らしてくるくらいはするだろうが。


「……ふふ、気づいていたのね」


こちらは想定していたのか、顔を上げてそう言うリュドミラの表情に、嘘や誤魔化しは見受けられない。


「確かに、立場としてはこちらの方が些か弱い。個人ではなく、国家として見ればな。だが、帝国に勝る技術を保有している以上、隙は見せようとも、それが文字通りただの「隙」であるなどとは思わんことだ」


「そうね、少々、見くびっていた事は認めるわ。流石は古の種族、この大陸で最も古き貴い血脈と言われるだけのことはあるのね。無礼に関しては、深くお詫びするわ。貴方を、貴方の国を試すようなことをしてごめんなさい」


「なに、構わんさ。腹の探り合いは好まないが、それでも、国家の主となればそれも仕事のうちだろうよ。最も、これからはもう少し率直なやりとりが出来る事が望ましいが、な」


「そうね、善処するわ」


そうして含み笑いを交わす二人を、周囲はどこか恐ろしげに見ていた。


かたや大国の主、かたや大陸最強の戦力、ドラグニル。この二人のやりとり如何では、この大陸の未来に大きく影響を与える事になるのだから、その気持ちも分からなくはないだろう。

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