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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第七章 外交 ~融和に向けて~
92/153

運命というもの

89,90,91話を一部改訂しました。ストーリーに影響はありません。

「閣下、よろしいでしょうか」


砦の確認が終わり、帝国が亜人達を整列させ纏まるよう行動していた時、一人(厳密にはリーシアが傍に控えているが)になったゲオルグの元へ、ヨハンとジルがやってきた。


「なんだ?」


「閣下、帝国に少々譲歩し過ぎではないかと……確かに我らは未だ弱小、されど、金や原石、木材、砦の建設に、武具まで……」


「閣下、私もそう思います。確かに5000人もの獣人達の対価と思えば、私個人としてはいくら払っても安いものかと思いますが……現実には、彼らは想像以上に安い金銭で取引されているのかと思われます。それにここまでの物を与えるのは、いかがなものかと」


二人はどうやら、ゲオルグの言動や行動を諫めに来たらしい。この二人は、ガルディナでも数少ないゲオルグを諫めることが出来る存在だ。間違っていると思えば躊躇わず言うように、とは、普段から言い聞かせている。それ故の発言だろう。


「そうか、お前たちは、これを高いと思うか」


その二人の発言を受け、ゲオルグは視線を、出来たばかりの砦や亜人達に向ける。その表情は二人からは伺えないが、恐らく、いつもと変わらぬ優しげな表情を浮かべているのであろう、そういう雰囲気だ。


「ヨハン」


「はっ」


「これから、ガルディナは少しずつだが、歴史の表舞台に立っていくことになる」


「……はい」


「その時、必ずいくつかの国家と敵対関係になるだろう。いくつかは日和見をするだろう。いくつかは或いは味方になるかもしれん、が、恐らくそれは敵対国よりも確実に少ない」


「仰ることは分かります。ですが、この一件と何の……」


関係が、と言いたかったのだろうが、それを遮るようにジルが発言する。


「つまり、大陸でも列強と名高い帝国を味方につけ、要請を断り辛い状況に持ち込むために、今の内から恩を売るように気前よく振舞うのですね」


「正解だ」


ジルの言葉に、ヨハンが目を見開いて何度か頷く。


「帝国とこうして和平を結んだのは偶然に過ぎないが、だが、これを活かさぬ手はない。本来、もう少し先になるはずだった人間との交流が前倒しになった以上、それに合わせて全てを動かしていかなければならない。恐らく、我らが公表せずとも、帝国内で我らの存在が少しずつでも明るみに出れば、他国の間者に気取られるのは必定。いや、或いはどこかで既に伝わっているかもしれん」


ゲオルグの雰囲気が、少しずつ固くなっていくのを二人は感じた。そして二人も、ゲオルグの言葉を一言一句聞き逃すまいとしている。


「運命は、より合わせた縄のようなものだ。バラバラのようでその実、全てが繋がっている。どこかが緩めばすべてが緩み、そして崩れる。だが縄と違うのは、縄は締め直せばまた元に戻せるが、運命は一度変われば元には戻せないことだ。我々は、常に脆く細い橋の上を歩いている。一歩を踏み出すのに、何度となく確認せねばならぬ程、危うい橋だ。だが、それ以外に道がない以上、我らはそこを歩まねばならん。そして俺は、常にその先頭を歩く義務がある」


それが、世界の常識に喧嘩を売るということ。それが、世界の在り様を変えるということ。


「……だが、運命には常に、抜け道も用意されているものだ」


そこで突然ゲオルグが振り返り、二人に笑顔を見せる。その笑顔は決して優しげなものでなく、どちらかと言えば、悪戯を思いついた童のようなものである。


「確かに、我らが歩かねばならない橋は脆い。だが、それを補強するのは駄目というルールはない。もしくは、自分たちで別の橋を作ったって良い」


そう、一度変わった運命は元には戻らない。だが、変わったならばまた変えればいい。自分たちの理想に近付くように。


「今、帝国との間でこれだけの譲歩を見せた以上、帝国は誠意を以てそれを返す義務がある。それが、対等な付き合いというものだ。ディナントが再び攻め寄せた時、国境に軍を送って貰い陽動して貰っても良い。或いは本当に攻め込んで領地を切り取ろうが、我々は関与しない。もしくはガルディナで食糧難が起こればその援助を願っても良い、または技術の提供、人材の派遣、軍を拡張した際に武具が不足すればそれを要求してもいい。向こうが我らに義理を感じるならば、交渉も進めやすい。ガルディナがある程度の水準にまで成長する、それまでの特に重要な期間、いわば成長期を支えてもらうことが肝要なのだからな」


ガルディナが本当の意味で国家として対等となれるまで、精々恩を売り、それを取り立ててやろう。そう続けていったゲオルグは、何とも楽しそうな表情だった。


「真っ当な取引だけでは引き合いに出せぬことも多いが、向こうが義理立てせざるを得ない状況に持ち込めれば我らの勝ちだ。それを無碍にするようであれば、こちらとてやりようはある。それが分からぬ国でもあるまい」


短期的に見れば、多少不和になったところでガルディナの取引相手は帝国しかいないのだから、帝国も多少強気に出れるだろう。


だが長期的に見た時、ガルディナが帝国以外で今回のような取引が可能になれば、立場は一転する。金や銀をはじめとする多くの資源、誰よりも優れた製鉄、彫金技術を自ら手放すことになり得る帝国が、とは言えドラグニルを敵に回せる訳もなく、ましてガルディナという危険地帯に軍も送れない状況で、完全な決別。


それは、労なく数多の資源を手に入れられるという自国のアドバンテージを、敵に成り得る国家に無償で譲ると言っているのと同じだ。そして更に言えば、その国が帝国に侵略をせんとした時、ガルディナが乗じる動きを見せれば、それだけで行動が大きく制限されるだろう。ゲオルグだけでも十分な脅威になり得るが、そこに増強され優れた武具を配備されたガルディナの軍まで出てくるのだ。


「まぁ、お互いに良い関係を築いていくことが、我らにとっても、帝国にとっても最も良い選択肢なのは疑いない、ということだ。ガルディナにとっても、大陸でも随一の大国の後ろ盾というのは中々捨てがたい」


共存共栄、それこそが理想の姿であることは、両国の共通認識だろう。それを利用する様なやり方ではあるが、これも国家同士の外交というものだろう。どれだけ友好を謳ったところで、所詮は他国。自国を最優先するのは当たり前の事だ。ただ、それの度が過ぎれば国家間に溝が出来るため、あまりに露骨なことは出来ないが、これぐらいは構わないだろう。なにせ、ゲオルグからの譲歩、施しを受ける受けないを選べる立場にあり、受け取ることを選んだのは帝国なのだから。


「閣下、差し出がましいことを申し上げ、申し訳ございませんでした」


「我らの無知、深くお詫びを……」


「構わんよ。俺がお前たちの立場でも同じことを危惧しただろう。それに、これも必ずしも上手くいくと決まった訳でもない。これから、様々な可能性を考慮し、それに合わせた対策を練り、そしてそれを実行する準備をしなければならない。それには、ヨハン、ジル、二人の力も必ず必要になる。忙しくなるが、他の者には任せられない事が多い、頼んだぞ」


「はっ!!」


「必ずや、ご期待に応えてみせます」


こうして。警衛隊の二人が決意を新たにした頃、ゲオルグの元へ帝国から準備が終わった旨を伝える伝令がやってくる。時間が掛かったが、ようやく新たな住民を迎える時が来たのだ。

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