テンプレは突然に
「それでは、目録の交換といこうか」
「そうね、バスネル」
「リーシア」
「はっ」
「はい」
二人の言葉に、バスネルとリーシアがそれぞれ目録を相手に差し出し、それを各々の主へと渡す。ちなみに、その他の面子は目下交友を深めている最中だ。
警衛隊は連れてこられた5000人の亜人達に、己の鎧や剣を自慢げに見せ、時には触らせたりしており、近衛は人間達から詰め寄られ質問責めにされてあたふたしている。
なんとも微笑ましい光景だが、警衛隊が人間達に近寄ろうとしないあたり、やはり少なからず思う所があるのだろうととれる。ゲオルグも現状でそこまでの友好的な態度を求めるつもりもないので、別段気には留めていないが。
「ほう、獣人が4177、エルフが327に、ドワーフが612、合計で5116人か、大した数だ。エルフがやけに少ないのが気になるが」
「エルフはこの国、というより、北方ではほとんどいないもの。体質なのかは分からないけど、寒い所ではあまり長生きしないみたいね」
「なるほど……」
確かに、元から他種族に比べて線も細い上、病気などにかかるとそれが悪化したり長引いたりしやすい、というのが特徴として挙げられる。本来は魔法の適正の高さを利用し、魔法を用いた治療などでそれらを防いでいたのだろうが、人間に使われているエルフはそれもままならず、短命に終わるのだろう。逆に言えば、この場にいる300名以上のエルフはエルフの中でも特に頑強な者か、治療関係の魔法が使える者、あるいは意外に大切に扱われていた者である可能性が高い。まぁ、最後のはそうそうないであろうが。
<そう言えば、ドラゴニュートと共に暮らしていたエルフ達も魔法には長けていたな……>
なにせ、初対面で魔法を放たれた本人が言うのだから間違いない。
「ドワーフが少ないのは?」
「それはしょうがないわ。ドワーフは鍛冶職人にとっては大切な働き手だもの。重いものも簡単に運んでくれるし、熱にも強いから、鍛冶以外にもガラス作りにも従事する者も多いわ。特に、帝都近辺は職人も多いから、それだけ工房も多いし、必然的に需要も上がるものよ。ここにいるのは元々辺境とかにいた者達ね。職に就けなかったり年老いて働けなくなったりした者も多いけど。もう少し時間があれば、こちらから辺境まで集めに行く余裕もあったでしょうけどね」
「……時間のことを言われると耳が痛いな」
「ふふ、別に責めている訳じゃないわよ。こちらの都合もあったことだし、ね」
「そう言って貰えると助かる。他には……食糧が一か月分に、衣服1万着……これは、随分奮発したのではないのか?」
「そうでもないわよ。食料は一日二食計算で量も最低限、衣服はほとんどが古くなったものを再利用させて貰っただけだもの。カーテンなんかを服にしたものもあるわよ?」
「……そこまで正直に打ち明けられると、感謝すべきなのか迷うのだが?」
「要らないわよ、正直、こちらの利が大きすぎるもの」
手元の目録を見ながらリュドミラが言う。
「金細工や無加工の金の原石が合計で馬車10台分、加えて砦の建設用資材に、実際の建設までそちら持ちなのだから、ちょっと貰いすぎかもしれないわね。無加工の物は、資源を私たちが掘り出していると思わせる為なのでしょう?」
「あぁ、加工品しか持ち込まれなければ、当然疑わしくもなるだろうしな」
ちなみに、割合としては加工品が4台、無加工の原石が6台だ。無加工のものは金の含有率が低く、銀が多く含まれている。これに関してはちゃんと目録にも明記されているが、特に不満はなさそうだ。
「気遣いに感謝するわ。これだけの物があれば、色々と手を付けられるわね」
「喜んで貰えたなら何よりだ。もし次の取引で要望があるならば、それにも出来うる限り応えよう。当然、こちらもそれなりの要求をすることになるがな」
「分かっているわよ。それで、これだけの物を取り揃えて貰いながら心苦しいのだけれど、貴方の兵士達、彼らが身に付けている武器や防具をいくらか譲って欲しいわ。厚かましいことだとは思うけど、我が国とは製造の過程に差異がありそうに見えたから、興味があるの。製鉄は我が国の特産と言っても過言ではないだけに、ね」
唐突な要求ではあるが、想定はしていたことだった。ガルディナの兵士が身に着けている武具は、装甲が帝国のものより薄手でありながら、不純物が少ない為色合いが違う。それを見れば、製法、或いは製鉄技術が違うのだろうと予想することは難しくないからだ。
「普通の物ならば考えておこう。ただし、一部の者は俺が作った物を装備しているのだが、それは間違っても譲れない。譲ったところで、人間に同じ物が作れるとも思えんのでな。それと、武具関係に関しては基本的に、良質なものはまだこちらでも不足しているのが現状だ。これから軍備の拡張もすることになる以上、いつ頃取引の品目に載せられるかは分からんぞ」
「それは承知の上よ。まだ十分な信用を得られたとも思ってはいないし、それなのに武具を優先的に要求しようなんて言わないわ。数も、見本としていくつか貰えれば、という程度の話よ。それより……貴方が作ったの?」
「ならば良いが。それと、俺が作った武具は、創設初期の者達にだけだ。なにせ、鍛冶屋なんぞ無かった時期のものだ。俺がどうにか作るしかなかったのでな、見た目は軽鎧だが、強度はプレートアーマーをも凌ぐだろうよ」
この時代のプレートアーマーは、製鋼技術が未熟なために、嫌でも厚さで強度を確保せねばならず、重量的にも値段的にも負担が大きい。更に言えば、プレートアーマーはギャンベゾン、所謂「鎧下」という布や革などで作られた物の上からチェインメイルなどの重ね着をするのが一般的で、更に全身の各部位にプレート、つまり鉄板にような鎧を着る。
当然ながらその重量も非常に重く、30箇所以上にもなる各部位に武器、チェインメイルやギャンベゾンなどを含めれば35kgから50kgにもなる。しかも、甲冑というのは基本的に個人に合わせてサイズを調整せねばならず、フルセットを一つ作るのに三か月という月日も必要になる。その為、全身鎧とかフルプレートと言われる(最も、フルプレートというのは造語であるが)ものを着用出来るのは富裕層、つまり貴族や騎士に限られることが多い。
故に、多くの兵士は革鎧や、スケイルメイルと呼ばれる金属の小片を綴り合せた物を着用するのがほとんどだ。
それに対し、ゲオルグの製作した鎧は、胸や腕、足などといった重要な部分しか守れないが、製鋼された鋼に更に硬質化魔法を掛けられたそれは、まず普通の鉄剣くらいでは傷付けるのが精一杯である。ドワーフ作成の物にしても、製鋼技術を獲得した現在では、少なくとも人間が使うプレートメイルよりかは優れた性能だ。内側にも革を張り、フィット感と防御性能を向上させた逸品。使用する鉄も抑えられ、かつ機動力も確保でき、致命傷となりえる部位の保護も出来る。
「……また恐ろしいものを…………まぁいいわ。貴方の行動に驚くのも慣れてきたし。それに、貴方の作った物でなくとも、強度はかなりの物なのでしょう?」
「そうだな、それは保障しよう。生半可な剣や槍では先ず貫けはしない。手甲部分には複数の突起が滑り止め代わりについていて、いざとなれば敵の剣を防ぐ盾代わりにもなる」
「そう言えば、貴方の兵士は誰も盾を持っていないわね」
「強制はしていないのだがな。なにせ、剣を教えるのが俺しかいなかったのでな、必然的に俺と同じ戦い方になってしまった、というだけだ」
「ほう、スタンフォード公が手ずから教授なさっておられるのですか」
突然、横にいたラシードが目を光らせる。漫画ならば「キュピーン」とでも擬音が付きそうな勢いだ。
<これは面倒になりそうなパターン……>
そして、その予想は正しかった。




