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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第七章 外交 ~融和に向けて~
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真の融和、第一歩

「……来たな」


先日の会合からはや二週間。ゲオルグは警衛隊と近衛猟兵団を率いて、ガルディナ森林北東部、つまり帝国との国境に布陣していた。その背後には、いくらかの砦建設用の資材と、金細工を満載した馬車が10台置かれている。


タダ同然の亜人五千人に対する対価としては少々高く見積もってあるが、食糧支援に対する礼と、今後の付き合いも考慮しての事だ。それに、衣服の類もそれなりに用意してくれたとのことなので、それの分もだ。砦用の資材は、事前の打ち合わせで確認したところ、外壁と堀の分は十分に確保出来たが1000もの兵が寝泊まりする宿舎や食堂、また本部となる建物を作るにはまだ心もとなく、多くのテントのようなものを用意していたからだ。


それでは少々可哀想だろうと思い、ガルディナから伐採した木材や釘などを大量に運んできたのだ。ガルディナの街の拡張を行い、3倍近くまで切り開かれた森の資源が少し余っていたというのもあるが。


そして、ここに来るまでにも、周辺の魔物などの掃討も行っている。強力なものはゲオルグが、その他多くの小型の魔物などは、警衛隊と近衛が駆逐し、北部一帯の安全を確保した。


実戦経験も積むことができ、帝国に恩も売れる、まさに一石二鳥である。負傷者が何名か出たものの、鎧の傷なども含め全てゲオルグが治したため、ぱっと見にはとても一戦を交えてきたようには見えないだろう。



やがて、例の暑苦しさ満載の男を先頭にした集団が、顔まではっきり見える距離に近づく。先頭を行くラシードが、満面の笑みで手を振っている姿に溜め息をつきながら、ゲオルグ達はそれを出迎えた。















「気を付けぇっ!!」


ヨハンの掛け声に、整列していた警衛隊と近衛が「ザッ!」と一斉に気を付けの姿勢を取り。


「捧げぇー剣!!」


続くその声に、腰に差した二振りの剣を抜き、腕を組むように交差させ、天に向けて構える。


これは、ゲオルグが教えたという訳ではなく、自分たちで考え練習を重ねた敬礼であるらしい。敬礼の存在そのものは知っているが、そこまで叩き込むのはまだ必要ないだろうと思っていたのだが、そう思っていたのはゲオルグだけだったらしい。今回、帝国の皇帝を迎えるにあたり、それを説得しに行ったところ、突然これを披露されたゲオルグの驚きは大層なものだった。


なんでも、日頃ゲオルグに対し敬意を払っている彼らではあるが、個人としてではなく、組織としてそれを明確に示す行為がなんなのかと一時話し合いが設けられ、敬礼が一番明確で分かりやすいだろうと思い至ったそうだ。


突然の纏まっての敬礼に、言葉を失ったゲオルグだったが、やがて「その、なんと言うべきか……言葉が見つからん。ありがとう……でいいのか?」とだけ搾り出した。ゲオルグからの感謝の言葉に、彼らが喜んだのは言うまでもない。


兎に角、そんなやりとりの結果正式採用された敬礼と、その一糸乱れぬ動きに、帝国の兵士や亜人達が茫然とする中、一人歩み出てきたリュドミラが。


「ガルディナの民の歓迎、嬉しく思う。私がヴィルヘルム帝国皇帝、リュドミラ・スラミフィ・ヴィルヘルムだ。人間に対し思う所もあるだろうが、今日という日が、諸君らと我ら人間の和解への第一歩となることを願っている」


と、声高々に告げた。彼女が「亜人」という言葉を使わなかったのは、きっと意識しての事だ。「諸君」という言葉は、対等かそれ以下の者達に親しみを込めて用いるものだ。そして、警衛隊の衛士、つまりディナントで激しい弾圧を受け続けていた者達にとって、人間の、しかも大国のトップのその言葉は大きな意味があったことだろう。


自由も権利も許されず、最低限の尊厳すら奪われ、人間から家畜として扱われてきた彼らに、人間がその言葉を用いて語り掛けるというのは、複雑な気持ちかもしれない。だが、今この瞬間、例え言葉だけとはいえ、確かに人間から人間と同じような扱いを受けたという事実は、胸にしっかりと刻まれたことだろう。


「いやはや、見事なものですな。ここまで統制のされた部隊ともなれば、その錬度も推して知るべし、といったところですかな。これも、まさしくスタンフォード公の教えの賜物ですかな?」


リュドミラに続いてラシードまでもが、そんな褒め言葉を口にする。そして後背の兵士達も。


「あれが獣人かよ……」

「いいガタイしてんな」

「てか、普通剣を二本も持てねぇよ」

「普段は魔物を相手にしてんだろ?」

「ありえねぇ……」

「おい、誰か手合せして貰えよ」

「面白そうだな、ちょっと隊長に掛け合ってみようぜ」

「俺は獣人にかけるね」

「いや、それより後ろにいるの……ドラゴニュートか?」

「へ?……うわ、マジか」

「無理無理、勝てねぇって」


と、興味津々の様子である。


彼らは、リュドミラの命令でこの一か月、連れてきていた亜人達と共に食事をしたり会話をしたりと、普通では考えられない行動を重ねてきていた。最初こそお互いに不信感を隠さなかったが、人間からすれば、5倍にもなる亜人と仲違いなどすれば危険極まりないし、亜人からしても、人間と不仲になり食糧などの配給で意地の悪いことをされるかもしれないとなれば、互いに、よそよそしくも友好的に振舞おうと努力した。結果、こうして偏見の意識が少しずつ薄れてきていたのだ。


元より、亜人差別意識の薄い者達ばかりを連れてきていたというのもあるだろうが、これは大きな進歩と言っていいだろう。ともすれば、大乱闘にもなりかねない危険な賭けではあったが、リュドミラはその賭けに勝ったのだ。最も、その大きなきっかけは、前回ゲオルグが陣中見舞いをしたことのようだが。


曰く「ドラグニルが本当に亜人を保護しているのなら、亜人に何かしたら恐ろしい目に遭うに違いない」


曰く「ドラグニルが俺たちみたいな獣人やエルフ達を守ってくれるなら、人間に怯える必要はない」


だ、そうだ。人間がやや畏まり、亜人が少し尊大になった結果、ほとんど対等な関係になったらしい。


そして腹を割って話してみれば、亜人と呼ばれた者達の中にも、普通に話せる奴もいると分かり、徐々に打ち解け、ここにきてようやくまともな関係を築けた、という訳だ。


たかが1000人、されど1000人だ。ゲオルグは、ここにきてようやく、自分の行動が認められ始めたような気がして、感極まりそうな心持ちである。


「ヨハン」


「はっ、直れっ!!」


号令に沿い、抜いた剣を鞘に納めて再び直立不動の姿勢を取る彼らを、ゲオルグは誇らしい気持ちで眺めた。


まだ人間に対するわだかまりも有ろう。恨みも有ろう、憎しみも有ろう。だが、目の前の、人間と多少なりとも打ち解けた獣人が、エルフが、ドワーフが、彼らと人間を繋ぐ架け橋となってくれることを、ゲオルグは祈って止まない。

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