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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第六章 避け得ぬ争い、未来の為に
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会談

「さて、気を取り直して本題といこう」


「そうですね」


運ばれてきた茶に手をつけ、一息ついたところでゲオルグが切り出す。


「では、短刀直入に言おう。今、ガルディナに向け出兵の準備を整えているらしいが?」


「ん?……あぁ、確かに、私がそう命じましたから」


「それを即刻撤回し、ガルディナへの出兵を取りやめて貰いたい。ガルディナに向かわないのであれば構わないが」


ゲオルグの言葉に、周囲が大きくどよめく。当たり前だ、いかにドラグニルとは言え、これは国への内政干渉と言っても差し支えないレベルなのだから。


「……理由を聞いても?」


「あそこに、軍隊が、それも二国のそれが近付くというのは、俺個人として少々困った事態だから、と言ったところだ」


「……済まないが、いかにドラグニルたるゲオルグ殿の頼みと言えど、一国の元首として、個人の都合で軍を動かすことはできない」


そう言い放ったリュドミラの表情は、殺されても構わない、とでも言いたげな凛々しいものであった。


「……で、あろうな。流石に、そう都合よくいくとは思っていなかったさ。俺の一言でどうにかなるなら、一晩悩んだ俺の時間を返せと言う所だ」


そう言って苦笑するゲオルグの様子に、明らかに安堵した空気が流れた。


「では……」


「あぁ、当然ながら、何の見返りもなしに、などと言うつもりはない。先ず、ディナントの軍だが、ガルディナに向かってくるようならば、これは俺がなんとかしよう。この国の国境に向かう分には関与しない」


「なんとか……?」


「詳しくは後でな。それから、これを見て欲しいのだが……」


そう言いながら懐から取り出したのは、商人や有力者相手に交渉道具として利用していた金細工。


小さな木箱に収まっていたそれは、ネックレスとして着用出来る作りになっており、金を細くして編み上げたチェーン部分に、親指程の大きさの竜を模したヘッド。細やかな彫刻の掘られたその部分には、まばらながらも宝石も散りばめられており、見るからに価値の高いものだとわかる。


「こ……これは……」


「見事なものだろう?」


「え……えぇ、これほどの金細工、見たことが無い……」


リュドミラの様子に、まず一番近くにいた女性が覗き込み「わ……」と小さな感嘆の声を漏らし、離れた所にいる家臣たちも何事かと様子を伺う。そしてその金細工を確認しては、やはり感嘆の声をあげるのだった。


「それは、あくまでも俺が……と言うと語弊があるが、保有する金の一部だ」


「こっ……これほどのものを他にも!?」


「あぁ、ネックレス、ブレスレット、指輪、大皿、壺、なんでもござれだ」


「………………」


文字通り、開いた口が塞がらない状態のリュドミラと家臣団。それを見て満足げに頷きながら、言葉を続けた。


「言っておくが、これは流石に軍の命令撤回のみで取引できるものではない。これらを求めるのであれば当然ながらこちらからも要求が増えると心得て貰いたい」


「……要求とは?」


この時代、金というのは正しく宝物である。富と権力の象徴といっても差し支えない。簡単な装飾の施された大皿などでも、金そのものの価値に更に付加価値が付き、庶民からすれば信じられない額で取引されることも多々ある。


しかし、今リュドミラが手に取ったこの首飾りは、これまで見た物の中で明らかに群を抜いたものだった。これほど精巧な彫刻が施された金細工など、この大国の元首として生きてきた数年でもお目にかかったことがない。しかも宝石まで散りばめるなど、一体どのような手法ならばここまでの物が作れるのか、想像もつかない。


<これ一つで簡素な家が建つんじゃなかろうか……>


リュドミラをして、そう思わせるだけの物を、まだいくつも保有するというドラグニル。彼は一体何者なのか。


「なに、そう難しいものではない、と、信じたいところだが、それは貴国次第だな」


「…………もし断った場合は?」


「金細工はもとより、全面戦争も辞さない、と言ったら?」


にこやかに、しかしはっきりとした声音でそう告げるゲオルグに、再び喧噪に包み込まれる広間。


「……それは、脅迫ですか?」


「いや、事実だ。はっきり言って、この要求が断られた場合、俺としても色々と後がないのでな」


これは、ゲオルグがいかに交渉下手かを表している一言だ。


序盤から率直に「後が無い」などと言えば、足元を見られる可能性が大であることは、経験を積んだ外交官ならば誰しもわかる事だろう。


だが、足元を掬うには強大過ぎるのが、ドラグニルだ。今回はそれが幸いした形であろう。


「後がない」という発言で、リュドミラの心にも多少のゆとりが生まれたのだから。


「…………ドラグニルともあろうお方が、そのようなことを仰るとは、何か事情がお有りのようで」


「まぁな。だが、今回、貴国に対する要求が通るのであれば、およそ解決するだろう」


リュドミラの瞳を正面から見据え、そう告げるゲオルグに、彼女も意を決して言葉を発した。


「……要求とは?」


その声に、ドラグニルは朗らかに笑みを浮かべながら答える。


「和平さ」

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