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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第六章 避け得ぬ争い、未来の為に
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女帝

「…………すまんが、もう一度言ってくれ」


「は……その、ドラグニルが、陛下にお会いしたいと城門に参っております」


「……間違いないのか?」


「恐らく……銀髪碧眼の容姿を持つ者が、他にいなければ……」


「……………」


「い……いかが致しましょう」


「……通せ、いや、お通ししろ。くれぐれも丁重にな。万が一逆鱗に触れてみろ、この国の存亡の危機だ」


「は……ははっ!」


顔を青くした兵士が広間から出ていくのを見送り、リュドミラは深く息を吐いた。


「オーリャ、一体何事だ……?」


「そ、そう言われましても……私にもさっぱりです。しかもわざわざ正面から訪ねてくるなど……」


「うむ……話があると言うが……」


「…………」


「聞く他あるまい。一体どれほどの実力を持つドラグニルかは分からぬが、この城にいる兵だけではどうにもならないのは間違いあるまい」


「え……えぇ、恐らく、一蹴どころか、欠伸をしながら片手間に屠ることでしょう」


これが、ドラグニルという生物に対する人間の評価である。


なまじ実在するだけに、噂や伝説でなく事実として広まっているのというのが恐ろしいところである。


「すぐに臣下を招集しろ。寝ていようが仕事中だろうが構わん、引きずってでも連れてこい」


「はい!」


「…………それでなくともこの忙しい時に、かような災害まで舞い込むとは、私も運が無い」


その忙しさ故にその災害が訪れたのだと言うことを知るのは、割とすぐのことである。











「よくぞ参られた、ドラグニルの貴き君。私がヴィルヘルム帝国の皇帝、リュドミラ・スラミフィ・ヴィルヘルムだ。貴君の来城、心より歓迎しよう」


「丁寧な挨拶痛み入る。俺はゲオルグ・スタンフォード。見ての通りドラグニルだ。そして、本題にはいる前に言っておくが、言葉遣いにそのような気遣いは不要。おべっかも、ご機嫌伺いも要らん。どうにもそういったものを見ていると不愉快でならん」


ゲオルグの言葉に、何人かの家臣らしき者達がいきり立つのを感じたが、そちらに視線を向けてやるとすぐに消沈する。


「なんだ、いっそ斬りかかってくれば、貸しの一つでも作れたものを」


「スタンフォード殿、どうかその辺りでご容赦願いたい。あれもまた、私に忠義を捧げてくれる貴重な臣なので」


「なに、冗談だ。それから、ゲオルグで構わない、姓に大した意味などないからな。それにしても、このような大国の主が女性とは、些か驚いた」


「おや、ゲオルグ殿は男性上位主義者でしたか?」


「そのようなことはない。男だろうが女だろうが、能ある者がその能を生かせる仕事、地位に就くべきだ。家格や血筋に囚われているうちは、成長は望めんよ」


「なるほど、貴殿とはうまい酒が飲めそうだ」


「ふ、貴公も、なかなかどうして、大した胆力だ。その不敵な話し方も、嫌いではない。俺を前にしてなおその態度、気に入った」


「これでも、一国を背負う身なのでね。そうそう卑屈にはなれんのですよ」


「ふむ、この大国を一手に取りまとめるほどの女傑か、なるほど、その手腕には敬服せざるを得ない」


「お褒めに預り光栄だ」


「ふ……」


「ふふふ……」


この時、周囲は思った。


「あれ、この二人やたら馬が合ってる……?」


と。













「して、肝心の本題なのだが」


広間に用意された椅子に腰かけながらゲオルグがそう言った。


広間の真ん中に置かれたテーブル、その左右に向かい合って座っているのは、ゲオルグからの提案によるものだ。上下関係はなく、対等な立場での話し合いから始めよう、という意見が通った形である。


周囲にはいまだ多数の家臣がいるが、ゲオルグがそれを気に留める様子はない。


「えぇ、その前に、まずは酒でも持たせましょう」


「いや、酒はやめておこう。恥ずかしい話だが、まだ酒を嗜んだことが無いのでな」


これは半ば事実、半ば嘘である。


日本にいた頃、学生ながらも多少飲んだことはある。年末年始などで舐める程度ではあるが、親がそういう日くらい、と容認していたからだ。


だがこちらに来てからは全くの未経験、酒場に情報を集めに行く時も、一切酒類には手は出さなかった。もし酔って暴れるようなことがあれば、それこそ一大事であることは間違いない。スキルもあるので恐らくは酔うということはないだろうが、それでも万が一ということもある。


「この国に来て酒を飲まぬとは、少々勿体無いことで。自慢ではありませぬが、この国の酒は大陸でも随一だと思いますが?」


「かもしれんがな、万が一俺に酒乱の気があれば、ただでは済まんぞ?」


「ふふ、それは怖い。では、茶でも持たせましょう」


「あぁ、頼む」


リュドミラが侍女に茶を頼み、それが届くまでの間、二人は他愛もない話に花を咲かせる。


双方が、その笑顔の裏に猛禽類の如き鋭い瞳を宿していることなど、微塵も感じさせぬほど、良い笑顔で。


これからどのような話が持ちかけられるか分からず警戒するリュドミラ。いかにしてこの女傑に己の提案を飲ませるか思案するゲオルグ。


それはともすれば、竜虎の対峙にも似ているかもしれない。



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