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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第五章 北の大地と来訪者
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近衛

ドラゴニュート達の来訪から2週間ばかり過ぎた頃、ガルディナには、いくつかの新たな組織、と言うよりは、既存の組織の名称が変わったものが誕生していた。


完全な新組織は一つだけ、「ガルディナ近衛猟兵団」だ。


言うまでもないだろうが、移住を決意し新たに加わった57名のドラゴニュートで編成された精強無比の集団である (取りあえずは男女問わず全員入団している)。騎士と呼ぶのは何か違う、と思ったゲオルグが、空から動物など獲物を仕留める彼らの姿を見て付けた名前だ。


正しく「猟兵」と呼ぶに相応しい勇姿であった。猟兵とは国によって由来などは変わってくるが、ゲオルグは「狩人から編成された部隊」という意味合いからとることにした。


運用方法としては、空中からの魔法や、急降下してからの剣や槍による攻撃。偵察、哨戒、あらゆる役割をカバーできる万能精鋭部隊である。


ガルディナに正規の軍が組織された際には、連携した軍事行動をとることで戦略的にかなり優位となれるであろうことは間違いない。なにせ、人の手の届かぬ高空からの攻撃や、気づいても迎撃も追跡も出来ない偵察など、厄介この上ないことだろう。


ただし、身体構造的に人間に近いからか、航続能力にやや難があるのが問題だ。ゲオルグは、竜の姿でも人間の姿でも、方法は違えどほぼ無制限に飛んでいられるのに対し、ドラゴニュートは90分から120分程で限界を迎える。そして限界まで飛行すると、何日間かは全身の筋肉痛や倦怠感が抜けず、まともな運用がほぼ不可能になる。倦怠感は、飛行に体力だけでなく魔力まで利用するのが理由の一つと思われる。鳥のような羽ばたく為の筋肉が少ない彼らは、その不足分を魔力で補っているようだ。当然ながら、飛行しながら魔法など使えば更に時間は縮まる。


(ちなみに、アンナのような腕利き人間魔法士がゲオルグの様に空を飛ぶとしたら、精々5分から10分が限度である。安定して空を飛ぶには、抵抗の軽減、体を浮遊させるだけの風圧の発生、それらの調整をして高度、速度を維持する魔法など、魔法を多重展開せねばならないからだ。あくまで、それらを平然と、しかも複数人、或いは大型の物に対して出来るゲオルグが異常なのである。)


恐らく、戦術的に効率よく運用するならば、飛行は一日60分から70分程度、中一日は休ませる、と言うようにしなければ、体力的にも魔力的にも難しいだろう。戦闘行動を行い、魔法も併用したとなれば、恐らくは30分程度が限界ではないかと思われる。


数日、あるいは数週間単位で戦闘が継続的に行われた場合、その数の少なさも相まって非常に繊細な運用が求まられる兵科である。とは言え、地上戦闘に限定すれば確実にどの種族よりも強い。視力、聴力、筋力、動体視力、瞬発力、あらゆる面において他種族を凌駕するのがドラゴニュートだ。現在はゲオルグや、ゲオルグから腕前を認められた警衛隊の面々から剣術の訓練を受けている所だが、すでにヨハンやジルと良い勝負が出来るレベルに達している者もいる。


「ただ、言わなくとも常に必死で取り組む姿勢はなんともな……あれは、上が上手く抑えてやらねば、壊れるまで仕事をするタイプだ」


とは、ゲオルグの言葉である。



その他にも、ニーナは産業統括官、ケイルは工業統括官と肩書が変わり、その下の部門でも、例えば農業担当のヘレンは「産業統括官補佐、農産業管理官」と言うように、かなり堅苦しい肩書がついた。


これは、仕事は変わっていないが、その地位が向上したのだと思って貰う為のものだ。その下には「管理官補佐」と「主任(複数名)」という役職も新たに増えた。


役職者には議会出席の権利の他、給金が通常のものに加え議会予算からも出るようになったが、その代わりに多くの責任を負うという形態となっている。


これを決めるまでに何度か議会で議論し、様々な意見を取り込み、最終的にこの形に落ち着くまで、ゲオルグはまさに不眠不休の努力を強いられた訳だが、ようやく形になって落ち着いてきたのが今日である。


「フェリス、こっちの書類はニーナ、こっちはヨハンだ。ヨハンの方は出来るだけ速やかにな。将来的に組織する軍の編成と予算の見積り、それと警衛隊から異動になる予定の人員一覧だ。以前、わざわざジルを寄越して急かしてきたからな、頼む」


「ちょ…ちょっと待って!私もまだケイルからの報告書が…」


「あぁ例の鉱石採掘部門の独立案か……リーシア!行けるか!?」


「はい!!直ちに!!」


重ね重ね言っておくが、これでも「落ち着いてきた」方なのだ。


ちなみに、リーシアというのは近衛猟兵団の一人で、議会により「ガルディナ森都統括執政官」となったゲオルグや「統括執政官補佐」のフェリスの身辺警護を任されている女性ドラゴニュートである。現在は専ら雑用係みたくなっているが。


「……フェリス」


「………なに?」


「ちょっと外の空気を…」


「ダメ」


「……………」


「一人で行くのは許さないからね」


「………そうだな。これが片付いたら、ちょっと休暇にしよう」


「………うん」


こうして、今日もこの兄弟の一日は仕事に追われて暮れていく。


余談だが、現在はどの部署へ行ってもこのような有様である。全てはドラゴニュートを連れてきたゲオルグの責任ではあるが、それを責めるようなことを言う者が一人も居ないことが唯一の救いと言えよう。


「………我が君、我々の率いてきたエルフ達の識字率を調査してきましたが、やはりほぼ全滅です。いや、我々もほとんど出来ませぬが……」


そんなことを報告してくるドラゴニュートに、虚ろな瞳を向けたゲオルグとフェリスだった。

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