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ガルディナ王国興国記  作者: 桜木 海斗(桜朔)
第五章 北の大地と来訪者
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擦り合わせ

「それで、この街を見てどう思った?」


現在、ゲオルグはレオンと他二名の代表格のドラゴニュートを連れて、湖上の自宅広間にて話し合いの場を設けていた。


ゲオルグの後背には、フェリス、ヨハン、ジル、ニーナ、ケイルの5名が並んでいる。これからの話し合い次第では、彼らに要相談せねばならないであろうことが多々出てくる可能性があるからだ。


ちなみに、この場にいる3名以外のドラゴニュートやエルフに関しては、数名の警衛隊立ち合いの下、街を自由に散策して貰っている。


道中の買い物などについては、安価なもの、例えば軽食や果物などであれば同道している警衛隊の衛士に言えば立て替えてくれるよう言ってある。立て替えた分に関しては、後に申請をして貰えれば議会予算から落ちるように指示もしてある。


「はい、率直に申し上げて……素晴らしいです」


感動した様子のレオンが、そう拳を握りながら言うと、後ろの二人も大きく頷き同意を示している。


「整備された街並み、外敵の侵入を防げる高い城壁、表情豊かな住民に、これだけ大勢の人々が生活していけるだけの食糧、衣服、住居……どれもこれもが、我らには到底想像の及ばぬことばかり……」


レオンが熱く語る様子に、ゲオルグの後に立つ者達が感慨深い面持ちでゆっくりと頷いている。


「そしてなにより、それらをお治めしているお方が、ドラグニルたるスタンフォード様であるということ。貴方様の人望、手腕、そして熱意、この街はそれら全てを物語っております。そして、貴方様が我らに何をお望みなのかも、薄々は察しております」


「ほう…?」


「貴方様は、我らをこちらへ移住させ、その力を揮わせようとお考えなのでは?」


「………間違ってはないが、正直悩みどころではある」


ゲオルグはそこまで言ってから、ニーナとケイルを近くへと呼び寄せた。


「現在、魔法を使えるエルフの人員が必要な部門は?」


「はっ。土木建築、鉄工業、木工業、いずれも多ければ多いほど良いかと」


「同じく、農産業、畜産業、水産業、その他どこでも活躍の場は多いかと」


「と、言う具合だ。しかし、ドラゴニュートたる諸君となると、話が変わってくる。ヨハン」


「はっ、ここに」


「警衛隊の現予算で、50名を超える人員を補充する余裕は?」


「……厳しいかと」


「産業、工業は、ドラゴニュートを登用するとなった場合、どのように扱う?」


「……ドラゴニュート程の種族の方々となると、同列では部下達が委縮してしまうかと。また、突然上役に就いたとなれば、今まで取り仕切っていた者達や、彼らを慕う者達との軋轢は避けられないと思います」


「…工業も同じです」


「………フェリス、お前の意見は?」


「わ……私?…えと……うん、ちょっと、いきなり同僚とか、上司とか言われても困る……かも?…しばらく一緒に働いてみれば、認識も変わるかもだけど…」


言い方は様々だが、要はゲオルグが懸念していた事と全く同じである。


ドラゴニュート。もし彼らが最初期からの住民であれば、このような問題は発生しなかったであろうことは間違いない。だが、現実に彼らが来たのは、この成長期に突入した2000名を超える人口となったガルディナである。


様々な組織が発足し、それぞれに長と補佐がいて、ようやく街としての機能が充実してきた現段階では、彼らドラゴニュートは不確定要素にしか成り得ない、と言うのが現状である。


「それは……我らは不要…そう、仰いたいのですか…?」


レオンが、怒りや憤りではなく、むしろ悲しみを含めた声と表情とそう言い放つ。


「そうではない。むしろ、居てくれればこれほど心強い種族もいない、ということは疑いようのない事実だ。そうだろう?」


ゲオルグが周囲の者にそう問いかければ、口々に肯定の言葉、或いは態度を示す5人。


「要は、だ。行き場、居場所の問題でな。この街では、能力に基づいた組織編制がされているが、諸君らドラゴニュートがいかに能力が高いとは言え、いきなり上役に就かれても困惑する者が多く、また、かと言って多くの者のように下働きからでは、諸君らの力を遊ばせているようなものであるし、他の者達の混乱も招きかねない。これは分かってくれるな?」


「………はい」


意気消沈、まさしくその言葉が似つかわしい様子で項垂れるドラゴニュートを見れば、そこはかとなく罪悪感に襲われる。


まして、彼らは風貌だけでも大いに迫力ある存在であるが故に、落ち込んだ様子というのは余計に痛々しく感じるのだ。


「そこでなんだが……」


ゲオルグの言葉に、ハッと期待を込めた表情を向けるドラゴニュート達。


「ヨハン」


「はっ」


「警衛隊はこれより、俺の屋敷や俺自身の警護の任は解く」


「……まさか」


「あぁ、警衛隊は街と住民の財産、生命を護ることを第一とした組織とし、新たにドラゴニュート達を近衛として組織、俺の身辺や議会出席者、議事堂の警護の任に就いて貰いたい」


「そっ……それは!!」


「案ずるな。これはお前たち警衛隊のこれまでの忠節を疑うものではないし、まして遠ざけようとか、ドラゴニュートに劣るから、などという理由ではない。断じて違う」


「…………」


ドラゴニュート達と邂逅してから今まで、ずっとどうするか悩んでいた事案であるが、ゲオルグが導き出した解決案が、これだった。


「現在の警衛隊は、本来は軍が行うべき事も同時に行っている状態だ。俺の警護などがそれだな。だが、これは今はまだ街の規模が小さく、人口が少ないからこそ出来ることだ。それは分かるな?」


「はい……」


現在でも、喧嘩やいざこざが増え、警衛隊はその仕事が増えつつあるのが現状だ。


「いずれ街が大きく、人口も増えた時には結局は分離せねばならなかったことだ。その時期が少し早まったと思って貰いたい………それと、これはまだ言うつもりはなかったのだが……」


そこまで言ってから、周囲の反応を伺うと、ドラゴニュート達は嬉しさ半分、申し訳なさ半分と言った様子、ガルディナ側は少々納得がいかないながらも、ゲオルグの言い分に理解を示し、次の言葉を待っているように見えた。


「ヨハン、お前には、いずれ軍を創設した際、その総司令官として、つまり俺の代理としてそれを統率して貰いたい」


それは、まだいつになるかも分からない未来の話。


「わ……私が閣下の代理に!?」


「あぁ、お前のこれまでの働き振りと忠節に疑う余地など微塵も介在しない。現警衛隊は、一部を指揮官、幹部として新たに人員を補充し再編成、その他多くは新しく組織する軍の幹部として引き抜く形だ。ジル、お前は主席参謀としてヨハンを補佐し、俺との間を仲介する役にもなって貰う」


「私にもそのような大役を……」


「これが、現在予定している人事だ。何か異論は?」


「あ……あろうはずがございません!!必ずや閣下のご期待に沿う働きをしてご覧にいれます!!」


「同じく、私もかような大役を仰せつかり、身に余る光栄に存じます……必ずや、ゲオルグ様のお役に立って見せます、この身に代えましても、必ず…」


これが、ゲオルグの考えた案である。ドラゴニュートだけをいきなりゲオルグの側で働かせては、必ず警衛隊の面子からの反感を買う。


故に、現警衛隊全員を出世ないし、よりゲオルグに近しい職務に就ける事で、その反感を減じることにしたのだ。


「と、このような話となっている訳だが……レオン、諸君らは、ここに移り住む気はあるか?」


ここでようやく本題である。


「はい……皆と相談せねばなりませぬが………恐らく、答えは決まっておりましょう。我らも、誇り高きドラグニルにお仕え出来る栄誉、逃したくはありませぬ故」


「そうか、では、相談の後に再びここへ来ると良い。色よい返事を期待している。では、今日は適当な空き家を手配させる、そこでゆっくり休むなり、警衛隊に申し出てもう少し街を見て回るなり好きにするといい。くれぐれも、問題は起こさんでくれよ?」


「「「はい」」」


こうして、ガルディナに新たな住民が加わろうとしていた……










「兄さん」


「ん?」


皆が去った後、屋敷に残っていたフェリスとゲオルグの二人。今は夕食を終え、執務室で資料と睨めっこをしていたところである。


「ドラゴニュートの人たちをいきなり兄さんの側にって、やっぱり何か考えがあるの?」


「………まぁ、多少はな。なにせ、能力的に未知数な部分が多い。とはいえ、いきなり様々な部署に振るのも、さっきまで話していたようリスクが高い。故に、俺の側に置いて俺自身で見極めるしかない、と判断した結果だ。戦力的に逃したくないというのも事実だが」


「……やっぱり、兄さんに任せておけば安心だ」


「どういう意味かは知らんが、いつまでも甘えられても困るからな?」


「それは分かってるよ」


「なら構わんが……それより、警衛隊以外の面子をどう扱うか決めねばな…」


「あぁ、警衛隊の人だけ偉くなるって、ちょっと印象悪いかもだね」


「ん、とは言え、ただ肩書が変わるだけでもな…」


そんな、まだ来ぬ時の為の話し合いを、夜が更けるまで続ける二人だった……

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