来訪
ドラゴニュートとの邂逅の翌日。結局、率直な物言いをしたゲオルグは今、彼らを引き連れ空の上にいた。
いつもの地面ごと移動である。
あの集落にいた者達を全員集めての話し合いは、序盤は大騒動となった。エルフは兎も角、ドラゴニュート達の反応が凄まじかったのである。
ゲオルグもそこで初めて知ったのだが、彼らドラゴニュートにとってドラグニルとは、ただの畏敬の存在ではなく、崇拝に近い憧憬を抱いているのだそうだ。
ドラグニルもドラゴニュートも、古に滅びたとされる竜の血脈と言われているが、ドラゴニュートが竜よりは人に近いのに対し、限りなく竜に近いのがドラグニルだ。寧ろ、本来の姿、力は竜のままであるのに、人の姿をとることも出来るようになった、進化系であるという考え方まであるそうだ。
竜の血を継承しながら竜に成りきれなかった者であるドラゴニュートにとって、ドラグニルとは特別な存在、自分達では辿り着き得ぬ高みに居る者、絶対的支配者、崇拝の対象、そのような感覚なのだそうだ。
レオンに関しては、いきなり攻撃を仕掛けたという負い目があることと、恐らくは持ち前の謙虚な性格故に、常に一歩引いた状態であったために露骨な態度が見受けられなかったのだが。
「ゲ……ゲオルグ様!!もう少しゆっくり行けませぬか!?」
「空を飛ぶ種族が何を言う」
「いえ我々ではなく、エルフ達が!!」
レオンのそんな言葉に振り返れば、40名近いエルフ達は肩身を寄せ合って震えているように見受けられた。
「……魔法の規模が規模だからな。微調整は難しい、下手にそちらに意識を割いて急降下、というのは嫌だろう?」
「……皆を安心させてきます」
「…頼む」
そんなやりとりをしながら、総勢105名はガルディナ森都へと向かうのだった……
「ど……ドラゴニュート…」
「………なんというか…」
「流石ゲオルグ様…?」
到着した時のガルディナ住民の反応は、驚き半分、呆れ半分と言った様子である。呆れについては、ゲオルグの日頃の行い故に、としか言いようがない。
対して、ドラゴニュート達の反応はと言えば。
「こ……こんなところにこんな街が!?」
「獣人…エルフ…ドワーフ……」
「人間がいない…?」
「あちこちに看板見たいのが立ってるけど……まさかみんな読めるのか?」
「まさか…人間だって全員が全員読み書きができる訳じゃないのよ」
「それより、皆血色も良いし着ている服も上等って…」
「信じられない…」
と、このような具合となっている。
「ようこそガルディナへ。ここが俺の拠点、俺達の街、俺達の家。人間が一人もいない、獣人やエルフ、ドワーフが自由と権利を有する世界。どうだ? なかなか面白い街だろう?」
「「「「「「…………」」」」」」
唖然とする面々。それを見て満足げに頷き、ゲオルグは言葉を続ける。
「いずれは……そうだな、150年か200年かけて、この街の住民を10万……いや、20万程度まで増やし、防衛力として7000か8000程度の常備軍の確保、それを支え得る生産力、経済力、それらの取りまとめる人材の育成、その他多くの課題をクリアし、いずれは国家として大陸に認知させたい。それが俺の目下の目標だな」
「国家……」
「人間のいない?」
「……200年か…」
「私達にとっては生涯の半分にも満たないわね」
「ちょっと見てみたいかも…」
各々様々な反応を示しているところに、議事堂の方から慌てた様子のフェリスやニーナ、ケイル、また警衛隊を引き連れたヨハンとジルがやってくる。
「兄さん!!」
「おぉフェリス、元気だったか?」
「元気だったか? じゃないよ!! 鉄工業の人とかずっと待ってたんだからね!!」
「閣下、あまり心配をさせないで下さい。特にジルが…」
「隊長!!その先は結構です!!」
「ヨハンもジルも、何事もなさそうでなによりだ。街に問題は?」
「はっ、閣下がご不在の間、何度か喧嘩があった程度です。まぁ、いつも通りと言えばそれまでですが」
「喧嘩な……そろそろ、明確に罰さねばならないか」
「えぇ、今までは注意に留めておりましたが、中には怪我をした者もおります。とは言え、傷害罪を適用して追放するのは……」
「およそ喧嘩は両成敗で良いものばかり。度が過ぎれば第2級の適用も有り得るが、現段階でそこまでの者もおらんだろう?」
「はい、どっちもどっちとしか言いようのないものばかりで……私達は専ら仲裁、言って聞かなければ拘束してしばらく反省してもらう事もありますが、それ以上の処罰には……」
「良い、そちらは後々考えよう」
「閣下、水産業の方からも連絡が…」
「土木建築部門の方からもございまして…」
ゲオルグを兄と呼び慕う虎人族、武装した多数の獣人や、それを取りまとめているらしい狼人族の男と豹人族の女、なにやら難しい表情をしながら相談を始める二人のエルフ。
何もかもに驚きを露わにするドラゴニュートとエルフ達。
そこに広がる光景は、なんとも形容しがたいものであった。




