隠れ里
ゲオルグがレオンの案内についていき、およそ小1時間。目の前に広がったのは、村と呼ぶにはあまりに簡素、と言うより、粗末なものだった。
柵は木の枝のようなものを繋ぎ合わせただけのものに、家も主に泥や適当に集めたとしか思えない材木の有り合わせ。そもそもその土地自体、ろくに手入れされておらずに、元のままと思しき木々が乱立していた。
<これだけの優れた魔法の使い手が居ながら………なぜ?>
そんな疑問を抱くのも無理はない出来栄えである。
「ここが、我らの暮らす場所です。畑などはほとんど作っておりませぬが……今くらいの人数でしたら、森の中にあるものでどうにかなりますので」
そうレオンは言うが、集落の中にいる多数のドラゴニュートやエルフは、少々痩せており健康的には見えなかった。
「魔法に長じる者達が集まっているにしては、どうにも……なんだ、寂しい作りのような気もするのだが……」
ゲオルグは、素直に疑問を口にした。するとレオンが。
「えぇ…まぁ、この辺りは魔物や獣も多く、あまり畑などを整備して、作物を増やすとそういったものが集まってくるようで………以前は何度か、食料になる獣の飼育や野菜の栽培なども行っていたのですが、それらの手入れよりも、魔物や獣の警戒の方が苦労したほどです。故に、このような有り様となっております…お恥ずかしい話ではありますが……」
レオンは俯きながらそう呟くように言った。
<成る程、いかに強力なドラゴニュートであっても、俺のような威圧スキルがなければ、安全圏の確保には苦労するという訳か>
そもそも、ゲオルグは本来、竜の姿の方が正しい在り様であり、生物の、食物連鎖の頂点に存在する生まれながらの強者にして支配者であることを、他の生物達も本能的に知っているのだ。
そして、その力を余すことなく発揮してつくられたガルディナの街は、その力の余波などを残している。それは、動物達が縄張りに自分の臭いなどをつけるようなものであり、言わば、ゲオルグの、竜の住み処であると主張しているようなものである。
誰が近寄ろうとするだろうか。
一方でドラゴニュートは、姿こそ人とは大きく異なるが、それでも、生物として人と竜、どちらに近いかと問われれば、間違いなく人である。
竜のような角、翼、尾を持つも、竜のような長距離飛行に耐えうる体力も、膨大な魔力も、圧倒的な防御力も持たない。それでも、人と比べれば遥かに強力な種族には違いないのだが、では竜と比べるとなると、こちらには大きく劣るのである。
故に、強力な魔物や、大型の肉食獣にとっては、獲物足り得る存在と見られてしまうことも少なくない、と言うことだ。
「ふむ………」
腕を組み、一人思案するゲオルグ。
<これは……案外ガルディナに呼んでもいいやもしれんな……>
これだけ危険と隣り合わせの生活ともなれば、あの街での生活はかなり喜ばれる可能性がある。しかし、問題はやはりドラゴニュートである。現在、あの街では能力に重きを置いて重要な役割を任せているが、そこにドラゴニュートという強力で知性も高い種族が加わるとなれば、一波乱起きそうな気配が濃厚である。
<とは言え、手放しがたい存在でもあるのだが…な……>
これだけ魔法や戦闘に長じた種族ともなれば、今後必ず有用になるはずである。
<警衛隊とは別に、ドラゴニュートだけで編成された部隊を組織してみるか…?>
ゲオルグ直轄の戦闘部隊として、航空戦闘も可能なドラゴニュート部隊。かなりの精強さになろうことは疑うべくもない。問題は、警衛隊の面々があまり良い反応をしなそうというところだ。
彼らは彼らなりに、ゲオルグ直轄の組織としての自負と誇りを持ち、日々厳しい訓練に耐え、街の治安維持への貢献をしてくれている。そんな彼らを蔑ろにするような行いは出来ない。それは、これまで積み重ねてきた信頼に少なからぬ傷を与えかねないからだ。
<これは、一度街で協議せねばならんな……>
ゲオルグは、横目にレオンを伺う。彼は思案に耽り言葉を発さなくなったゲオルグを、不安気に見守っている。彼は謙虚な性格そうなので、およそ問題にはならなそうではあるが、すべてのドラゴニュートがそうとは限らない。そもそも、この土地に愛着などあると言われてしまえば、ゲオルグとて無闇に連れていくことなど出来ないのだが。
「………レオン」
「はい、なんでしょう」
「少し提案があるのだが、良いだろうか」
「提案…ですか?」
「あぁ……まぁ、お前だけでなく、ここに住む全員に、だが」
結果的に、ゲオルグはまず、ガルディナを見てもらうことから始めることにした。
あの街を見て、どのような所か見定めて貰ってから、一度ここへ送り返し、その間に街の重役達と協議を行い、ドラゴニュートの対応について話し合う。今回の一件は、完全なイレギュラーであるし、もし彼らがガルディナに来てくれれば、ゲオルグの気苦労が多少増えるだけ、もし来なくとも、ガルディナにはなんのマイナスもない。どちらに転んでもあの街に悪いようにはならないとの判断からだ。
<まぁ、気苦労から解放されようと来た土地で、また気苦労を増やそうとしているのだから、俺も大概本末転倒だがな>
苦笑を浮かべながら、彼らにどう話を切りだそうか言葉を考えるゲオルグであった。




