4. 仕草と違和感
夕日がオレンジ色に染めた廊下には、下校の支度をする生徒たちの声が響き、窓の外は少しずつ夕闇に染まり始めていた。
佳織は教室で荷物をまとめ、鞄を肩にかけながらふと廊下へ出る。
その視線の先、昇降口へと続く廊下を歩くふたりの男子の姿が目に入った。
(……柳井くん)
無意識に足を止める。
前を歩いているのは、翔と良規。
ふたりとも楽しげに話しながら、昇降口へ向かっていた。
その背中を見つめているうちに、良規がふと横を向いた。
わずかに視線が交差する。
佳織は思わず、ほんの少しだけ口元を緩めた。
——けれど。
良規は特に反応を見せることもなく、そのまま前を向いて歩き続ける。
(……あれ?)
一瞬目が合ったと思ったのは、気のせいだったのか。
せめて軽く頷くくらいしてくれてもいいのに、と思ってしまった自分が恥ずかしくなる。
「おい、良規。今、柊さんと目が合ったろ」
翔の声が背後から響く。
「……いや?」
「いやいや、あれ、笑いかけてたぞ? たぶんお前に」
「……猫のこと、気にしてただけじゃないのか」
「まだそれ言うか。どんだけ猫の恩に縛られてんだよ」
翔が肩をすくめると、良規はやれやれといった様子で首をひねった。
「気のせいだ」
「お前なあ……」
翔は呆れながらも、どこか楽しげに笑っていた。
——そんな会話が交わされていることなど知らず、佳織は少し遅れて廊下を歩き出していた。
(やっぱり、気づいてなかったのかな)
それだけのことなのに、胸の奥がじわりとざわつく。
(私……なんで、こんなに気にしてるんだろう)
自分でも理由の分からない感情に、そっと息をついた。
そのとき——。
「佳織、帰ろ!」
沙織の明るい声が、少し先の廊下から響いた。
佳織ははっとして顔を上げる。
「うん、今行く」
気を取り直すように歩き出す。
沙織のほうへ向かって、自然な笑みを浮かべながら。
けれど、近づいてきた沙織は、その笑みを見てほんの少しだけ目を細めた。
「……佳織?」
「え?」
「ううん、なんでもない」
沙織はそう言いながら、佳織の背後――昇降口へ向かう廊下の先へ、ふと視線を向ける。
そこには、翔と良規の後ろ姿があった。
二人は何かを話しながら、並んで歩いている。
沙織は一瞬だけその背中を見て、それから佳織に視線を戻した。
佳織は、何もなかったように小さく息を整える。
「行こっか」
「うん」
沙織は、それ以上は何も聞かなかった。
ただ、佳織の隣に並んで歩き出す。
いつものように。
けれど、ほんの少しだけ、いつもとは違う何かを感じながら——。
気を取り直すように歩き出す。
沙織のほうへ向かって、自然な笑みを浮かべながら。
いつものように、何もなかったように——




