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3. 賑やかな誘い

放課後の教室には、部活に向かう生徒たちの気配が少しずつ減っていく静けさが漂っていた。


窓際の席に腰を下ろしたまま、翔は鞄の中をごそごそと探りながら呟いた。


「なあ、良規。今度、カラオケ行かね?」


唐突な一言に、良規はノートを閉じ、ゆっくりと顔を上げる。


「……俺?」


「そう。お前以外に誰がいんだよ」


翔は当然のように言う。

近くの席では、涼子が課題のプリントを揃えながら小さく笑った。


「珍しいね、翔からカラオケ誘うなんて」


「たまにはさ、遊びたくなるんだよ。な? 良規も行こうぜ。俺と涼子と、お前で三人。久しぶりに」


良規は、二人の顔を順番に見た。


「……さっきの話の続きなら行かないぞ」


「さっきの話?」


翔が一瞬きょとんとする。


「柊さんのこと。どうせまた、あれこれ聞くつもりなんだろ」


「あー……」


翔は気まずそうに視線を逸らした。

涼子も少しだけ苦笑する。


「いや、もうしないって。な、涼子」


「うん。しつこく聞くつもりはないよ」


涼子はそう言ってから、ほんの少しだけ間を置いた。


「……でも、柊さんが自分から男子に話しかけるのは、やっぱり珍しいと思うけど」


「涼子」


翔がすぐに止める。


良規は静かにノートを鞄へ入れ直した。


「じゃあ、行かない」


「待て待て待て! 今のは違う! ほら、涼子も悪い!」


「え、私?」


「今の流れでそれ言ったら、良規が面倒くさがるだろ!」


「まあ……それはそうかも」


涼子が小さく肩をすくめると、良規はため息をついた。


「やっぱり、面倒そうだな」


「面倒じゃない! もう聞かない! カラオケでは猫も柊さんも禁止!」


「猫も禁止なのか」


「必要なら猫は許可制!」


「意味がわからない」


良規が呆れたように言うと、翔は両手を合わせるようにして身を乗り出した。


「とにかく、普通に遊びに行くだけだから。な? 俺と涼子と、お前で三人。久しぶりに」


涼子も、今度は余計なことを言わずに頷いた。


「別に無理に盛り上がる必要ないし、三人でまったり歌うだけでも十分でしょ?」


良規は少しだけ肩をすくめた。


(……どうせ断っても、また言ってくるだろうな)


翔と涼子の、こういうときの押しの強さはよく知っている。


それに、翔と涼子と一緒にいる時間は——気楽だった。


「……わかった。行くよ」


その言葉に、翔がすぐさま顔を明るくした。


「よっしゃ、決まり! じゃあ、週末な」


「……本当に三人だけか?」


良規が確認するように聞くと、翔は軽く笑って言った。


「今んとこは、な」


「……その“今んとこ”が信用ならないんだよな」


「ん? なんか言ったか?」


「別に」


教室に差し込む夕日が、三人の間にやわらかな影を作っていた。

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