2. すれ違う視線、すれ違う感情
昼休憩の終わり、翔と良規はいつものように教室を出たあと、廊下で立ち話をしていた。
翔は軽い調子で話しかける。
「なあ、お前、柊さんと話したことある?」
「……どうしてだ?」
「今日の昼休みさ、柊さんがちらっと何度かお前のこと見てた気がしたんだよ。まあ、気のせいかもしれないけどな」
良規は軽く眉をひそめる。
昼休みの終わり、教室を出たときに佳織とすれ違ったのは確かだ。
けれど、ほんの一瞬、視線が合っただけだったように思う。
別に、笑いかけられたという感覚もなかった。
「気のせいだろ」
「そうかねぇ。で、話したことあるの?」
良規は少し考え、簡潔に答えた。
「公園で猫を助けたときに、偶然見られてたらしい。それで、そのことを聞かれただけ」
「は?」
翔が目を見開く。
「猫?」
「ああ」
「お前が、猫を助けた? いや、それ初耳なんだけど?」
「話すようなことでもないしな」
翔は興奮した様子で手を振る。
「いやいや、それってかなりレア案件だろ! 良規が困ってる子猫助けてたとか、ギャップありすぎ!」
「……そういうの、どうでもいいけどな」
「しかも、それを柊さんが見てたんだろ? で、わざわざ話しかけてきたんだろ? いや、それもう完全に運命だわ」
良規は、翔の言葉を理解しかねるような顔をした。
「意味がわからない」
すると、すぐ近くにいた涼子が小さく笑って言う。
「でも確かに、柊さんがそうやって自分から男子に話しかけるって、ちょっと意外かも」
「そうそう!」
翔が乗っかるように言う。
「柊さんって、運動もできるし成績もいいし、ほんと隙がないよね。見た目だけじゃなくてさ」
涼子がさらっと言うと、翔が大げさに頷いた。
「そうそう、“完璧”って感じ。だから余計、良規に柊さんからってのがレアなんだよ」
「つまりだ、柊さんはお前にちょっと興味持ってるってことだよ!」
良規はわずかに首をかしげた。
「……いや、本当にちょっと猫の話をしただけだったけど」
彼の口調は淡々としていて、嘘もごまかしもなかった。
そのとき佳織が見せた真剣なまなざしは、「あの猫はどうなったのか」という、純粋な問いだったようにしか思えない。
(それ以外に意味なんて……あるか?)
「それに、なんでお前らそんなに話を大きくするんだ?」
翔と涼子が目を見合わせて苦笑する。
「ま、当人は気づかないもんだよな、そういうのって」
「ね。案外そういうとこがモテるのかもね」
「やめろ、気持ち悪いから」
良規は心底不思議そうに呟いた。
佳織の行動に特別な意味があるとは、まったく思っていない。
それなのに、翔や涼子がなぜそんなに騒ぐのか——そっちのほうが、よほど気になった。




