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2.カラオケ

「なんか、聞いてたよりカラオケの人数、増えたよね」


昼休み、佳織が少し困ったように言うと、沙織は苦笑しながら頷いた。


「だよね。最初は数人って聞いてたのに、気づいたらクラスの半分以上が参加する感じだもん」


「これだけ増えると、ちょっと……」


佳織は言葉を濁した。

大人数の中に入るだけでも、自然と視線が集まることはこれまで何度も経験している。


沙織は、そんな佳織の表情を見て、ほんの少しだけ目を細めた。

人数が増えた理由に、心当たりがないわけではない。


けれど、それをそのまま口にすれば、佳織はきっと余計に気を張ってしまう。


だから沙織は、軽く肩をすくめて笑った。


「まあ、新しいクラスになってから、まだこういうイベントらしいイベントってなかったでしょ? 最初の集まりみたいな感じで、みんな乗りやすかったんじゃない?」


「……そうだよね」


「うん。たぶん、みんな何かきっかけが欲しかったんだよ」


沙織が明るく言うと、佳織は小さく息を吐いた。


「さすがに、もう行かないとかは無理だよね」


「それはちょっと難しいかも」


沙織が困ったように笑う。


佳織もつられるように苦笑した。


(大勢のカラオケとか、得意じゃないんだけどな……)


歌うこと自体は嫌いじゃない。

でも、みんなの前で披露するのは気恥ずかしい。

特に、男子たちの視線が集まる場所では、どうしても“見られている”ことを意識してしまう。


(また、色々と思われたり、陰で言われたりするのかな)


頭では気にしないようにしていても、心はそう簡単に割り切れない。


「でもまあ、決まっちゃったものは仕方ないか」


「そうそう。適度に流して、適度に楽しもう。あたしも歌はそんなに自信ないしさ」


「沙織はうまいよ。いつも合唱のときも……」


「佳織こそでしょ? 去年の合唱コンクール、覚えてる? あの時のソロ、めっちゃ良かったって評判だったじゃん」


「え、うそ……」


沙織に軽く肩を叩かれ、佳織は思わず苦笑する。

でも、こうして隣で自然体でいてくれる沙織の存在は、本当にありがたいと思う。


——沙織がいなかったら、“誰かとカラオケに一緒に行こう”なんて考えなかったかもしれない。

沙織がいるから、少しだけ肩の力が抜ける気がする。


***


カラオケ店の前には、すでに何人ものクラスメイトが集まっていた。

夕暮れの空がオレンジに染まりはじめ、楽しげな笑い声が街に溶けていく。


「全員そろったな!」


翔が手を挙げて声をかける。


「いや、こんなに集まるとは思わなかったね」


涼子が苦笑しながら言う。


少し離れたところで、良規は集まった人数を見て、静かに翔へ視線を向けた。


「……多いな」


「いや、これでも増えすぎないようにはしたんだって」


「そうか」


「その“そうか”が怖い」


翔が小さく身を引くと、涼子が横で笑った。


店内に入ると、広めのパーティールームに案内された。

ソファは壁際をぐるりと囲むように配置されていて、中央には低めのテーブル。

すぐに誰かがリモコンを取り、曲を次々と予約し始める。


男子たちは前方のマイク周辺に集まり、すでにテンションが高い。

一方で、女子たちは少し距離を取って座り、にぎやかさを見守るような構図になっていた。


佳織は沙織と並んで、部屋の隅に腰を下ろす。

視線の先では、翔と涼子がマイクを持ってデュエットを始めていた。


(……楽しそう)


そう思いながらも、胸の奥に小さな緊張感が残っている。

それでも、沙織が時おり話しかけてくれることで、空気が和らいでいく。


「ねえ、飲み物なに頼む?」


「じゃあ……柚子ソーダとか」


「おっ、さっぱり系ね。じゃああたしも合わせようかな」


沙織と他愛のない話をしているうちに、

張り詰めていた気持ちが、少しずつ緩んでいくのを感じた。


(……こうしてると、ちょっとだけ楽になれる)


賑やかな空間の中で、誰にも気を張らずにいられる相手が隣にいること。

その事実が、佳織の心をゆっくりと落ち着かせていた。

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