8 原石
続きです。
1分前。
自分に代わって足止めに徹するシオン。
察しよく技に集中し、一撃で1体撃破したハチク。
動かなくなったダイヤナの瞳に、2人の勇姿が映る。
(すごいな……もっとあの2人の事、知りたかったな。あれ? あんなに痛かったのに。ああ……あたし、死ぬんだ……嫌だ。やっと海が見れたのに。これからなのに。死にたくない。死にたくない。なんだか視界が眩しい…………)
彼女の目の前に、白い光を纏った小さなオーブが現れ、優しく体を包み込む。
「あ、まだ息があります。この方」
灰色の肌に白い髪、透き通る白い羽を纏った少年が現れ、ダイヤナの左胸に耳を当てる。
その後ろから、鉛色の肌に真っ白の長髪を結った、小さな"それ"が声をかける。
「では、精霊としての初仕事、1人でできそうですか」
「あの、初めてなので見ててもらえませんか。まず、傷を治せるかどうか」
少年の精霊が、瀕死のダイヤナに両手を向け、淡い光を放った。
すると、深傷を負っていたはずの彼女の体中が、みるみるうちに癒えていく。
「よし、できました。えっと、次は……今後どうしたいか聞かないと」
「いえ、それは私から。初仕事、ご苦労でした」
鉛色の精霊は音もなく宙を進み、ダイヤナの眼前で止まった。
「……あの、助けてくれてありがとうございま、……っ」
ダイヤナの言葉を遮り、折れそうな程細い指が、彼女の額に添えられる。
「貴方の選択肢は三つ。
1つ目。このまま生還し、日々ヒトモドキの討伐に勤しむか。
2つ目。彼と同じく、精霊へ生まれ変わるか。
そして3つ目。先程のマジナイを無効とし、魂となり────『魂の惑星』で暮らす。か」
「は、え!? 何、『魂の惑星』…………!?」
「悪しからず。貴方は彼のマジナイがなければ、既に魂のみの存在でした。選択肢があるだけ幸運と言えましょう」
普段ならば、ハキハキと自身の考えを発するダイヤナ。
しかし、精霊の生気のない瞳に畏怖し、混乱していた。
彼女は頭を抱えながら、しどろもどろに回答する。
「あの〜……勿論1つ目が望みです。が、その討伐の結果が先程の有様でして……再度生きるなら強くならなきゃ。それが無理なら、その魂の惑……」
「可能です。交渉成立です」
まだ話している途中の彼女の心臓目掛けて、光の矢を打ち込んだ。
「え? 死ぬ!! ……あれ、痛くない……。 ?! ウサキチが!!」
瞬く間に、ダイヤナの体は光に包まれ、傷だらけの甲冑ウサキチ2号は、ダイヤモンドをあしらった軽量の鎧へ生まれ変わり、彼女の体にぴたりと纏った。
「綺麗……」
「次は貴方が、あの2人を助けなさい。それでは、またどこかで」
「あ、僕も! またどこかで〜」
そう、2人の精霊は光と共に去っていった。
「待ってよ!! まだ聞きたいことだらけなのに!!」
ダイヤナが光の方へ伸ばした手には、針のように細いレイピア、もう片方の手には、小型の菱形の盾が握られていた。
数回武器を握っては離し、感触を確かめた。
海から、少年2人の叫び声と、異形の唸り声が聞こえる。
「……今はあの2人をって事ね。いいわ」
───────そして現在。
「ニガサナイ! ツマヲ、カエセ!!」
「たすけて〜〜〜!!」
「シオン! ごめん! あと少しなんだよ!」
2人は何とか無傷のまま、砂おにぎり高速握り作戦で凌いでいた。
大量の砂を食わされたヒトモドキは、口から黒く染まった砂を溢れさせながらシオンを追いかけていた。
そこへ、コツ。と海辺の岩からヒールの音がする。
「いい加減にして、ヒトモドキ」
声のする方へ目を向けると、眩しく生まれ変わったダイヤナが立っている。
ヒトモドキは腹を逸らし、砂混じりの涎を垂らしながら、彼女に襲いかかった。
「サッキノ、シニゾコナイ!!」
足元の欠けた岩が、ヒールに踏まれ砕け散る。
構えたレイピアに突っ込んだ奴の喉笛が、串刺しになった。
「ガ……ゴ……」
2体目のヒトモドキは刺さったまま、黒いモヤを散らして消滅していく。
レイピアの先には、錆びた指輪がはまっていた。
シオン、ハチク、ダイヤナの3人により、2体のヒトモドキは退治されたのであった。
ダイヤナは指輪を握り締め、座り込む2人へ駆け寄った。
「お2人共、お怪我はありませんか?」
「こっちのセリフだよおおおお!」
ハチクは震えながら、目から滝のような涙を流す。
シオンは彼をさすりながら、ダイヤナをまじまじと見つめた。
「あの、僕達が眼を離した隙に、貴方の体が、血の一滴もなくその場から消えたんです。それにその格好……一体?」
「それは……」
ダイヤナは少し黙った後、笑顔で顔を上げた。
「妖精の仕業ってやつですかね」
ハチクとシオンはポカンと黙っていた。
「……頭を酷く打ったみたいですし、うちで手当しましょうか。ひどい怪我を負ったのは本当でしょう?」
シオンの提案に、彼女は首を横に振る。
「お気遣いありがとうございます。でもあたし、帰らなきゃいけないんです」
そのままダイヤナは砂埃を払い、
「またどこかで!! エプロンの方! 剣士さん!」
走って去ってしまった。
「……なんだか、不思議な人だったね、すごい元気に走ってくし。お礼言えなかったな」
「僕達も帰りましょう。鍛錬のつもりが実践になるなんて。またお父さんに怒られちゃう……」
──────────
レストラン店内。
「器物破損、奇声による業務妨害、度重なる従業員への抵抗。トリプルペナルティ。14時20分、確保」
店員の通報を受け、メタルクは甲冑を脱がされ、複数の自衛隊によりテーブルへ押さえつけられていた。
「頼む! 海岸方面から妹の音が聞こえたんだ! 離してくれたまえ!」
ジタバタと暴れるメタルク。
『鋼』の見ぐるみを剥がされ、木製のテーブルに抑えられた彼の剛力は、半分以下に弱っていた。
「宝星会メタルク。今回は大目に見れません。大統領のお達しまで、ここで」
「無意味である! 俺は16時に大統領から呼び出されているのだ! ダイヤナー! ダイヤナー!」
騒がしいレストランのドアから、カツ、と軽い合金の足音がする。
「ダイヤナは無事だよ。兄さん」
「…………ダイヤナの声!!」
正真正銘、生還したダイヤナである。
「皆さん。兄妹共々、大変お騒がせしました。兄はもう暴れませんので、拘束を解いていただけませんか。もし暴れたら、あたしを連れてって」
メタルクは妹を連行させまいと、先程の醜態が嘘のように大人しくなった。
自衛隊により縛られていた後ろ手が解かれる。
「妹よ、何故無事である!? 全て"聞こえて"いたぞ! 貴様の骨が折れる音も、ウサキチ2号が歪む音……も…………おい、2号はどうした」
「これだよ」
ダイヤナが、兄の前で両手を広げ、くるりと回る。
胸元のリボンの中央に、ダイヤモンドが添えられた小さな鎧。ハート型のグリップが覗くレイピア。背負った菱形の盾は、中央に巨大なダイヤモンドが嵌っている。
それはもう、メタルクの知るウサキチ2号ではない。
「兄さん、ごめん。ひどいこと言って。でも、あたし騎士になりたいの。お嫁には行けない。気持ちは変わらないの」
「……」
「あたしがヒトモドキに襲われる音、ここでずっと聞いててくれたんだよね。そいつなら、もういないわ」
彼女の懐から、標的が落としていった指輪がそっとテーブルに置かれる。
「……な! 金属の音がしない。奴らの"オトシモノ"で間違いない……! ……まさかやったのか、妹よ」
ダイヤナは兄の瞳を見つめ、静かに頷いた。
「これが、あたしの『大人への第一歩』だよ。認めてくれる?」
沈黙が続く。
「くっ……」
「っお待ちください! 離れるのは……。っ!」
ダイヤナが自衛隊の目を見つめ頷いて止める。
彼女の目配せ通り、メタルクはすぐさま店内へ帰ってきた。
彼の手には、リボンが施された小さな箱があった。
「認めよう」
「!」
メタルクは跪き、リボンを解いて、震える手で箱をそっと開けた。
「──────遅れてすまない。誕生日おめでとう。ダイヤナ」
「っ兄さん!!」
中には、プラチナ製のネックレスが入っていた。
「つけていい!? つけていい!?」
「ああ。成人の証だ」
プラチナのネックレスは、生まれ変わったウサキチ2号と合わさり、取り返しがつかない程に似合っていた。
「兄さん、どう?」
妹の勇姿を見つめる鉛色の瞳が、潤みを増していく。
「…………俺には眩しすぎる」
続く
よかったね!テーブル弁償しろ!




