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ソウルプラネット  作者: ボコしますわよ
フウガ共和国編
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7/12

6 兄妹

よろしくお願いします。

 フウガ共和国。13時過ぎ。

 急遽開かれた会議終了から数十分後。


 デパートのガラス扉が開き、左右に並ぶ自衛隊が焦って頭を下げる。

 甲冑に身を包んだ青年、宝星会のメタルクの退店である。


 リボンが施された箱を抱き抱えた彼は、ふんっと鼻息を荒くし、顔を顰めて建物から出てきた。

 

(あの店員………何が『娘さん喜ぶといいですね』である)

 

 頑固な性格が滲み出た顰めっ面が災いし、いつも実年齢より倍は老けて見られてしまうメタルク。

 小言を言いながら眉に皺を寄せる彼から、ざわざわと民衆が道を開ける。


(今日は本来、妹が大人への一歩を踏み出す大事な日なのだ。これを早急に我が家に届け、16時までに戻って来なければ)


 彼が指をカッと鳴らすと、緑の宝石が施された盾型の飛行艇が到着した。

 抱えていた箱をそっと置き、空高く舞い上がった。


(それにしても、この国は無防備すぎる。いつ奴らが現れるか分からぬと言うのに、女子供が1人で街を出歩くなど。…………っ!?)


 高くから民衆を一望した彼の視界が捕らえたのは。、花壇の端に座り込む、仰々しい艶を放つ甲冑であった。


「……何故だ─────何故我が家の『ウサキチ2号』が、ここにいるのだ!?」


 ウサキチ2号。メタルク家の門番、ウサキチ1号の片割れの鎧である。

 鎧が自我を持ち、1人でに国を飛び出すなどあり得ない。

 

 甲冑からは、特にヒトモドキの気配はない。

 人々は、昨日の騒動でヒトモドキに敏感になっており、露骨にウサキチ2号を避けながら行き交う。


 メタルクに気づいたウサキチ2号は、大急ぎで花壇から飛び上がり、甲冑に慣れない様子で走り出した。

 不器用に逃げ続けるウサキチ2号、高速で降下したメタルクの飛行艇が並ぶ。


「2号貴様、何があったのだ!! 話せ!! 1号と喧嘩でもしたのか!?」

「……っ!!ハァッハッ!ハァッハッ!ハァッハッ!」


ウサキチ2号は真横に現れたメタルクを無視し、息を整えガチャガチャとスピードを上げた。

メタルクの耳が、ピクピクと呼応する。


「……重装備に慣れぬ少女の鼓動! 浅い呼吸から伝わる華奢な体格! 何よりその息漏れ声!!」


 声に出して分析しながら、シールドから飛び降り、ウサキチ2号の目の前に着地した。

 視界が悪いウサキチ2号は、メタルクの胸にガシャアン!とぶつかった。

 頭部の甲冑がぽろっと外れ、そのまま音を立てて地面に転がってゆく。


 甲冑の正体は顔を露わにし、衝撃で地べたに倒れ込んだ。



「"ダイヤナ"よ!!! 何故こんな所へいるのだ!!! 見合いはどうした!!!」



 汗ばんだ翡翠色の長い三つ編みが、地べたに円を描く。

 兄を睨みつけるその瞳は、宝石のように澄み、七色に輝く。

 あれだけ冷ややかな視線を向けていた民衆たちは、掌を返して目を奪われていた。


 彼女は、メタルクに向かって刺すように言い放った。


「ハッ、言わせないでよ兄さん。家出よ。家出」

「い、え……?」


 鋼の如く固まったメタルクは、言葉を失い、その場に立ち尽くした。


────────


 兄妹は、とりあえず近くのレストランに入り茶を交わしていた。

 全身甲冑2人組に刺さる、客達の針のような視線が痛い。

 が、そんな視線など今の彼らにとって、さしたる問題ではない。


「よく聞くんだ、妹よ。お前にとって、今回はこれ以上ない良き誘いであったはずだ。それをドタキャンして飛び出すとは、あってはならぬ。風習を否定する以前の問題である」


 兄の言葉に腹を立てたダイヤナが、テーブルを強く叩く。


「何が良き誘いよ! 誰も結婚したいなんて言ってないでしょ! いつも勝手にお見合いの予定入れてさ! もううんざりだって言ってるの!」

「だとしてもドタキャンはいけない。相手方は今頃何事かと我々一家を心配しているであろう。何せ今回の見合い相手は、女王陛下の親戚である。一家のメンツに関わる話だ」

「毎回嫌って言っても聞いてくれないんだから、もうドタキャンするしかないじゃん! 大体なんで一般庶民の我が家がそんな人と見合いするのよ! あたし間違ってないから!」


 妹が駄々を捏ねるたび、ウサキチ2号はキイキイと音を立てる。


「とりあえず、そのウサキチ2号を脱いでくれないか。甲冑とは、寸法が合わぬ者が着用すると関節部位が傷むのだ」

「脱がない!」

「脱ぎなさい妹よ」

「脱がないったら脱がない! あたしは女騎士になる!」

「今すぐこの場で脱ぎなさい妹よ! ウサキチ2号が泣いている!」


 客達は静かに会計を済ませて店を出ていく。

 それでも堂々巡りは止まらなかった。


「だいたい兄さん、小さい頃はあたしの夢応援してくれたじゃない! 『お前はもう立派な騎士だ』って」

「それはっ……」


幼き頃の、2人の記憶が蘇る。


─────


「兄さん。せっかくのバースデープレゼント、嬉しくないの?高かったってお父様言ってたよ。いいなー。あたしも欲しかったなあ。なんであたし甲冑貰えないんだろう」

「……そうか」

「兄さん? なんか今日変だよ」

「……ダイヤナ、絶対誰にも言わないって約束してくれるか」

「うん。……どうしたの?」

「……俺本当は、お前がバースデーに貰ったウサキチのぬいぐるみが欲しかったんだ。でも、俺は男だから。そんな事言い出せなかった。お父様とお母様も。俺が……『女』みたいなもの欲しがったら、悲しむと思って……」

「……兄さん」

「っすまない!やっぱり聞かなかった事に」

「あたしのぬいぐるみとこの甲冑、交換しようよ」

「え?……そんなことしたら」

「交換したってバレないように、甲冑は玄関に飾ろ! 家族みんなの宝物になるよ。どうかな?」

「っ、妹よ……お前の心は、もう立派な騎士だ」

「ふふっ、大げさだなあ兄さんは。そうだ! この甲冑に名前つけよ。名前は────」


────


「このウサキチ2号も、次のバースデーに兄さんと交換したんだもん。あたしのだもん」


 ダイヤナは、落ちたウサキチ2号の頭部を撫でながら抱きしめていた。

 そんな妹にメタルクはそっぽを向いて、注文したアイスココアを飲み干した。


「……妹よ。俺は、お前を騎士とは認めていない。ただ、あの時は騎士と見間違う程のその心意気に救われた、ただそれだけだ。何年も前の話だ、もう忘れてくれ。家まで飛行艇で送る。一緒に相手様に謝ろう」


 ダイヤナは立ち上がらず、俯いていた。


「……大っ嫌い」

「ん?」

「──────母国も、兄さんも、大っ嫌い」


 彼女はウサキチ2号を纏ったまま、会計を済まし店を後にした。


次の瞬間───────雷鳴が落ちるような轟音がフウガ共和国を包み込んだ。


「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおーーーん!!!!!!!」

「お客様!?」


兄、メタルク。

 号泣しながらテーブルに頭突きを始めた。


「困りますお客様! お客様!」

「うおおおおおおおーーーん!!!」

「誰か! 自衛隊呼べ! こんな巨漢、俺らだけじゃ無理だ!」


 店内から、混沌とした叫び声が漏れ出す。


「泣きたいのはこっちだよ。バカな兄さん」


 人混みに紛れ、寂れた商店街へ向かっていった。


────────


 ダイヤナが向かった先の寂れた商店街。

 先日のシオンの弁当屋『シオカラ亭』ブームにより、周辺の店も活気をみせていた。

 個人店ならではの、安値で芸の細かい商品が注目を集めつつあった。


「ここなら1人になれそうと思ったのに、案外人が多いのね……」


 ダイヤナがキョロキョロと歩いていると、商店街から飛び出してきた2人の少年の会話が耳に入った。


「海ですか。いいですね。今の時間なら漁船も来てないはずです」

「じゃ鍛錬にピッタリだ! よーし!」

「16時までには戻ってもいいですか。店の準備があるので」


話を弾ませながら進む2人の背中を、ダイヤナはぼーっと見つめていた。


「海、かあ。ちゃんと見てなかったな」


彼女は彼らの後を遠巻きにつけながら、商店街の果てへ進んでいった。



私も専用の飛行艇ほしい。

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