3 家族
続きです。よろしくお願いします。
前回のあらすじ。自宅の2階の自宅へ連れて行かれたシオンは、下の階まで筒抜ける程劈く、痛くてうるさい親のビンタを食らったのでした。
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2階のリビングにて。
「っ・・・。」
頬を叩かれ地べたで縮こまる息子に向け、仕置きの時間が始まった。
「シオン。自分が何をしたか分かるか。全てここから見てたぞ。包丁も出前のチャリも駄目にしやがって。」
母も声を震わせて続けた。
「現場にいたお客様達から聞いたわ。アイツの生贄になろうとしたんだってね。」
「だって、そうでもしないとハチクさんが、」
父は、言いかけたシオンの胸ぐらを掴み、息子の華奢な体を引き寄せた。2発目に怯え、目と歯を食いしばったシオンの瞼に、ぽちゃっと雫が落ちた。シオンが目を開けると、涙を目に貯めた父が手を震わせていた。
「・・・バケモンに食わせるためにお前を育てた覚えはない。二度とあんな真似するな。」
「お父さん・・・」
そこへ、コンコンとドアのノックが聞こえた。ノック音に混じり、ドアの外からチャプ。と音がした。
「失礼します。勝手で恐縮ですが、シオン君と話してもよろしいですか。」
シュウリだった。
父がシオンを手放し、涙を拭うのを確認した母がドアを開けると、ノックのポーズのまま立っているシュウリ、後ろに身を隠すイニチッチ、子皿に移されたシオンの分の賄いを持ったハチクが、廊下に立っていた。
「ごめんなさいねこんなとこ見せて。うちボロいから下まで筒抜けよね。うるさかったわね」
「いえ。僕はシオン君にお礼をしに参りました。2人も。」
手招きされたイニチッチとハチクは、狭いリビングにゾロゾロ上がり込んだ。
シオンの前に跪いたシュウリの眼鏡は、机に灯る蝋燭を映した。
「今回のヒトモドキ、シオン君とハチク君のご協力がなければ間に合いませんでした。全ては我々宝星会、そして、大統領スバルが至らなかったからです。僕達次第で、2人は無傷で済みました。宝星会を代表して、心から2人に感謝と謝罪をしたい。」
「・・・常連さん、頭を上げてくれよ。礼なんてこっちが言わなきゃ気が済まねえよ」
「そうですか。ではお父様。僕からもシオン君にひとつ言わせてください。」
シュウリは、赤くなったシオンの頬にチャプ。と手を添えた。
「僕は、あの時心臓が止まるかと思いました。被害者うち1人がシオン君と判明した時。・・・・・・もう二度と、傷一つつけさせない。」
潮が満ちた義手が、痛む頬をひんやりと鎮める。心地よい冷たさにとろんとシオンの顔が緩み、顔は元通りになっていた。
「・・・それでは、断りもなくご自宅へ上がってしまい申し訳ございません。今後とも、美味な食事を楽しみにしています。それとハチク君。」
ハチクは、立ち上がったシュウリの後ろで、神妙な面持ちで棒立ちしている。
「!?はい!」
「強さを求めるのであれば、力試しに"宝星会の入会試験"をおすすめします。師範・・・イチバンボシ:エイテンさんのようになりたいのでしょう?」
「え、いいんですか!?でも俺、まだ全然強くないし、足手纏いになるのでは。」
「当たり前です。実践経験を積んでいないからです。僕の手足を補った"水"のソウル、正しく磨けば、望む姿に近づけるでしょう。お望みであれば、大統領には僕から話をつけましょう。『彼は未来の英雄になるだろう』───と。これが僕なりの礼です。いかがでしょう。」
「っ、ぜ、是非!是非受けたいです!師範を超える武士になるのが、俺の夢ですから!お願いします!!くぅ〜あの時立ち向かってよかったあ!!見ててねー師範!!」
「・・・やはりそちらが本当の望みでしたか。」
意味深に呟く声は、威勢のいい歓喜の声にかき消されてしまった。
「・・・先生。明日もよろしくお願いしウス。」
「はい。夜も遅いので、お大事に。」
そうイニチッチに手を振り、シオン一家に会釈をして、シュウリは店を後にした。
シオン一家、ハチクとイニチッチの5人が残ったリビングは、試験に燃えるハチクを残し静かになった。
「よし、今日のお給料を渡さないとね。・・・まずはイニチッチちゃん来てくれる?ついでにお家まで送っていくわ。こんな遅くまでありがとうね。」
「お給料!お給料!オイラの大好きな言葉!とーちゃんもかーちゃんも喜ぶウス!」
シオンの母は、父に「引き出し1番上」のジェスチャーを送り、足早に階段を降りていった。
イニチッチは、懐から貯金箱を取り出し、耳をぴこぴこと跳ねさせ、ぴょんぴょん着いて行った。
「・・・あぁあ〜あ。短い夢だったなあ。お偉いさんなのによくこんな汚い店手伝ってくれたなあ。ハチク様。」
父はそうため息をつき、思い切り引き出しを開けた。Gが擦り合う音とは違う、金と銀の詰まった重厚な金属音が、古い部屋に似つかわしくないリビングに響く。シオンは、気まずそうに父から目を逸らしながら、冷えた賄いをモソモソと頬張っていた。
「どうして皆さん俺の名前をご存知なんですか。」
何も気づいていないハチクの顔の前に、青い巾着袋がぶらりと宙に現れた。
「そりゃこいつに聞いてくれ。」
「・・・え。・・・っ!うああああ!!俺の財布入ってた!!しかも中身Gだって父上言ってたのに!!え、何この手紙。ハチクへ・・・・・・家出る時直接言えよ!変な演出すんな!!」
中身を確認したハチクは、取り乱して野太い悲鳴を上げた。そして、同封された父:ツバタからの手紙を読むなり、床にバシッと叩きつけた。
「シー・・・常連さんに聞こえちゃう。」
「ちなみに中身は1つも盗ってないからな。普通返ってこねえぞ。うちの店で本当によかったなあ。」
「お父さん。」
つい数時間前まで『これで働かなくていい』と言っていた父の掌返しを牽制するシオン。
ハチクはサッと巾着袋を懐に仕舞い、座ったまま、ダンッと床に額をつけた。
「シオン殿に命を助けて頂き、渡したとはいえ俺の金品も保管して頂き、挙句金がない俺を1日でも雇って頂き、頭が上がりません。・・・もしまた今日のように人手が足りなくなったら、俺でよければいつでも呼んでください。その辺で野宿でもしております故。」
「馬鹿野郎!!貴族が野宿なんかすんな!!・・・他に行くとこないのか。」
「ないです!ないので野宿します!」
ハチクは床に額をつけたまま、キリッと言い放った。
「・・・僕の部屋でよければ、一緒に住みませんか。」
シオンは、握り飯を片手に提案した。ハチクの床につけた手が震える。
「お母様を治すお薬、きっとお高いでしょうし。忙しい時はお店手伝っていただいて、アルバイト代を足しにしてもらえたら嬉しいです。うちのブームがいつまで続くかは分かりませんが。っおっとっと!おにぎり落ちる・・・ハチク・・・さん?」
ハチクは、シオンにぎゅううううっと抱きついて、ボロボロと涙を流し始めた。
「君はどうしてそんなに・・・俺に必要なものばかり的確にくれるんだ。何したら恩を返せる?言ってくれ。こんなに貰ってばかりじゃ、俺の気が済まない。」
「・・・恩なら、初めて会ったあの時貰いました。その恩を返ししたくて家を飛び出したんです。だから、この話はおしまいです。」
そう言って、シオンは抱きつくハチクから身を解き、残りの握り飯を口へ放り込んだ。
すると、階段が軋む音が聞こえた。
「ただいま〜。ちょっと聞いて!イニチッチちゃん家のご両親、2人揃ってイニチッチちゃんそっくりだったの!ぬいぐるみみたいで可愛かったわあ〜。しかもコンロがマズい時はまた頼ってくれって逞しくて。あら?ハチク君。」
「お母さんおかえり。しばらく僕の部屋で一緒に暮らすことになったんだ。住むとこないんだって。」
「お世話になります!」
帰ってきた母に、ハチクはビシッと直角の体制で頭を下げた。
「いいのよいいのよ!逆にうち狭くて綺麗じゃないから申し訳ないわ。さ、沢山動いて疲れたでしょ。一緒にお風呂入ってらっしゃい!」
言われるがまま、共に風呂に放り込まれたシオンとハチク。
シオンは数年ぶりの人との入浴が小っ恥ずかしく、のろのろ服を脱いでいた。
対して、ハチクは颯爽と装備を脱ぎ、タオルを腰に巻いて上裸で立っていた。
「今日会っていきなり一緒にお風呂って。はは。すみません、節水しなきゃいけなく、て・・・。」
そう言いかけて、ハチクの体を見て、ぎょっと固まった。
「全然!俺気にしないよ!・・・でもそんなに見られると恥ずかしいなあ。」
「っごめんなさい・・・!」
────ハチクの身体は、首から下の至る所に、刺青が入っていた。
両腕、両脚、そして背中一面に、青色基調の虎と水面が刻まれていたのだ。
丸腰で目を逸らすシオンを見て、ハチクは凝視の理由に気づいた。
「あ。ああそっか。びっくりするよね。レイメイの貴族出身の俺らはね、儀式の一環で生まれてすぐ全身に彫られるの。だから痛かったとか覚えてないよ。」
「ほ、彫・・・?」
シオンにとって、彼が痛かったかどうかは問題ではない。生まれて初めて見る身体中に刻まれたそれに恐れ慄いてしまったのだ。
「あは、ごめんごめん。初めて見る人からしたら怖いよね。でも俺にとってはほくろみたいなもんだから。生まれつき?だし?ははは。」
あっけらかんと笑うハチクに何だかほっとして、シオンも続いて服を脱いだ。
先に体を流してぬるい湯船に浸かるハチクは、ふーっと深い深呼吸をしながら、湯船の縁に顎を乗せて、体を洗うシオンをじいーっとくまなく見つめた。
「何も彫られてない体って初めて見たかも。へえーこんな感じなんだ。綺麗〜。」
「・・・あはは。」
シオンは体を洗いながら、彼の顔をチラッと見た。
虎のように鋭い琥珀色の吊り目に長いまつ毛、スッと通った鼻筋、凛々しいが水色で儚い太眉、纏めた髪からはみ出た後れ毛だけでも分かる、透き通った水のような長髪。様々な事が続いてよく見ていなかったが、ハチクは貴族の名に恥じない、正真正銘の美少年だった。
「・・・ハチク君の髪も、綺麗ですね。」
「へへっ、ありがとっ。この髪、母上似なんだって。今は母上、髪抜けちゃってるんだけどね。」
彼は褒められ慣れた様子で、あっけらかんと語った。
「・・・お母様。早くいい薬が手に入るといいですね。」
「うん!・・・あ、髪が綺麗で思い出したけど、俺の師範も負けないくらいツヤツヤだよ!みんな言ってる!羨ましいって!」
「そうなんですね。レイメイって綺麗な人多いんですね。」
「師範はね、すごいよ!!強いだけじゃないんだ!会う人会う人みーんな美人って言うんだ!」
「宝星会でしたっけ。師範さん。」
「そうだよ!"イチバンボシ:エイテン"!みんなの英雄!今何してるんだろ。新たな功績作ってるんだろうな〜。」
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同時刻。レイメイ皇国領:スイレン泉水洞。
辺りは血の臭いが混じった湿気が漂い、黒い煙が真っ暗な泉水洞を更に覆い潰していた。
刀を持った長身の女性が、泉水洞の湿った岩壁に、勢いよく背中を強打した。
岩に引っかかり千切れた羽織から、血で濡れた虎の刺青が覗く。
「カハッ」と血を吐きつつも、震える手でブローチに手を添えた。
「っこちらエイテン!レイメイ皇国のスイレン泉水洞、女性1人がヒトモドキに襲われた。至急応援を。」
静寂。
「繰り返す。レイメイ皇国のスイレン泉水洞、女性1人がヒトモドキに襲われた。至急応援を。」
静寂。
「・・・頼むて!公爵夫人が襲われたんだで!ちゃっと来いや!」
初期不良で錆びた通信機ブローチに、誰も応答はなかった。
「っ、なんやねん!このガラクタ!!・・・っ、アホンダラがぁ!!」
エイテンと名乗った女性は、荒々しい口調でブローチを羽織から毟って投げ捨てた。
ブローチは、キンと軽い音を立て、縦に立ったまま転がっていった。
喉に溜まりゴロゴロ鳴る血をぺっと吐き捨て、口を拭い、泉水洞の大穴へ、1人飛び降りて行った。
スイレン泉水洞には、欠けた宝星会ブローチと、紅玉の腕輪が1つ転がっていた。
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「へえー。そんなに紅玉の指輪気に入ってたんだ。お母様。じゃああげるよ。最初に俺がうっかり渡したわけだし!」
「そんな簡単に・・・高価なものでしょ?」
「分かんないけど、あれ俺の母上が飽きたやつだよ。紅玉の宝石ばっかり集めてんの。それですぐ飽きるんだ。欲しい人が持ってた方がいいじゃんね。」
「・・・公爵家ってすごいなあ・・・」
水道から一粒の雫がポチャリと落ちた。
続く
AI君に挿絵お願いしたら、案の定「少年同士の入浴描写」に反応してセンシティブ判定くらいました。
何もBL描けって言ってるんじゃないんだ。




