11 会議 下
続きです。
「ふざけるなよ」
フウガタワー最上階。会議室。
『海』の主による激しい渦潮が、席を囲い、嵐となり渦巻いていた。
皆、飛沫により乱れた髪、滲みる目を覆い出す。
『光』と『雷』のソウルの2名は、ククリヌスに抱き抱えられ、デスク下に身を隠した。
「出てこい。大統領。もう一度言ってみろ」
元凶のシュウリ。
フラフラと白くなる顔をおさえながら、フー、フー、と息を乱していた。束ねられた髪が解け、1人でに毛先がぬるぬると蠢いている。
水分が減った彼の四肢が、ガクッと揺らぐ。
そんな彼を後ろから蹴り倒し、うつ伏せの背へ全体重を沿わせ、彼の義手に、一本一本指を絡める者がいた。
義手は、ピシリ、ピシリと一本ずつ凍てついてゆく。
「ふざけとるのはアンタや。自分事になったらこれかいな、わややな」
パシイイ────────。
……キチ。
……コチ。
円状に6人を包み込んでいた渦潮は、その姿を保ったまま凍りつく。
嵐は止まった。
渦潮 (だったもの)の外にて、盾を構えて身を守っていたメタルクが、凍った飛沫をパリパリとガントレットで折ってゆく。
「……ククリヌスよ。この潮? 氷? の尖った箇所、一緒に削っていくぞ。皆に刺さったら危ないである」
「ウス」
数分前───────
「あー、名前は知らないんだよねい。とにかく、あの勇敢なエプロンの少年を推薦したいよう」
☆
シオン。弁当屋の一般市民。
現在、シュウリが店へ来ない事を心配している。
☆
「とはいえ、何者かは分かってるんだよ。昨日ヒトモドキの逆襲を受けたハチク少年を救ったんだい。その時彼が投げた自転車に、『シオカラ亭』と書かれていたんだよい」
「あっ、そのお店知ってますよ〜! 愛弟子のお気に入りのお弁当屋さんらしいです!」
「ハチク様……無茶をなさる」
ハキハキと割り込むマナメとは裏腹に、エイテンは頭を抱える。
「……なぜ俺様が彼を推薦するかというと。彼はあの場で、恐怖で涙するハチク少年を宥めた後、標的を包丁で脅した。無謀だと思うだろい? だがねい────その包丁を見たヒトモドキは、怯えてその場で暴れ出したんだ」
シオンの奇行を聞き青ざめていた5人の顔は、各々怪訝な顔に変わってゆく。
「な? メタルクの大剣やエイテンの刀にも立ち向かってくる奴らが、たった包丁の1本で怯む。俺様もあり得ないと思ったよい。ヒトモドキ討伐において、この発見と彼の根性は見過ごせない。もし入会が難しくとも、一度話だけでも聞けないかねい」
スゥッとスバルは深呼吸をした。
言葉を待つ5人が彼を見つめ、次の言葉を待つ。
「宝星会。ただ目の前のヒトモドキを倒す集団ではない。この世から、煙のひとつ残さず殲滅しなくてはならない。その糸口が見つかったかもしれないのだ」
その言葉に、5人の中で唯一、シュウリだけは首を縦に振らなかった。
「……その彼から、当時の包丁をお借りすればいいでしょう。先に言わせていただきます。反対です」
顔を顰めるシュウリとは裏腹に、スバルの瞳が輝く。
「おや、シュウリい、彼と知り合いなのかい! なら話は早い、その彼に包……」
「彼はシオカラ亭の大切な一人息子。その一件で、幸か不幸か店は行列です。あんな試験など受けさせない。絶対に……」
「ちょ、待ってくれよい。俺様は包丁について聞いてみたいだけで……」
「いえ、貴方はたった今、入会候補者として名前を挙げたでしょう」
「そりゃあねえ、包丁だけが理由かは分からないんだから、ついでに腕前も見たいでしょ? 実際自転車を投げるってできるかい?」
「"ついで"……? ……ふざけるなよ」
「シュウリっ、話を──────」
────────そして現在。
荒れた会議室内にて、四肢を枯らし息切れするシュウリ。
彼に馬乗りになったエイテンが、総出で凍った海水の処理に勤しむ周りへ問いかける。
「氷、溶かすか? そっちトキントキンで危ないだら」
「いや、そのままで頼む。海水で部屋中水浸しになってしまうのだ」
「御意。……動くなやシュウリ殿。こんなんうちの国やったら一発処刑だでな」
彼女は立ち上がり、袴をパンパンと払った。
「……エイテンさんだって、さっきの会議で吹雪を放ったくせに……」
「アレはアンタらが騒いで大統領が話せんかったからだで。ほれ、自分が出したもんは自分で食べ」
そう言って、砕いた氷を半分に割り、シュウリの眼前に差し出し、自身の口にも放り込んだ。
か細かったシュウリの手足が、自力で起き上がれるまでに水分を取り戻した。
氷を拳で砕き続けるメタルクが、ふと手を止める。
「待てよ。弁当屋……? シュウリ。その弁当屋の一人息子とやらは、塩のソウルの持ち主で間違いないか?」
「なんで知ってるんですか。キモ……」
地べたに這いつくばりながら、シュウリは氷をかき集め口へ運んでいく。
「妹が話していたのだ。『水使いの剣士と、高速で砂団子を作る少年がもう1体を倒した』、と。俺が当時聞こえたのも、確かに水と塩のソウルの心音だった。……知り合いならば礼をと思ったが、キモとはなんだ、キモとは」
そう言って、少し悲しそうな顔で目の前の氷の処理に戻った。
シュウリは、血走った瞳で氷をガリッと噛み砕き、ゆっくりと立ち上がった。
「もう一度言ってください」
「もう争いは無しだ。『俺は貴様にキモと言われ傷付いた』、終わりだ」
「その前です」
「水と塩の少年の心音」
「その前!」
「……その2人が1体ヒトモドキを倒した」
「っ、嘘でしょう!?」
シュウリの手から、氷が滑り落ちる。
「二度と傷をつけないと誓ったのに……僕はまたシオン君を危険に晒して……」
「俺はその2人に感謝しているのだがな。精霊とやらが妹に力を宿したのも、3人の連携を見ていたからであろう。多分だが、多分」
浮遊魔法で氷を宙へ纏めるマナメが、口を挟む。
「それ、全員の協力がないとダメなやつでしたね〜! 砂を浴びたヒトモドキにトドメが効いたのも、精霊の加護と、砂が『石』のソウルを強めたんでしょうね〜! 見たかったな〜!」
その時、大きな拍手が部屋中に続いた。
「はっはっはっはっ!! …………全てが繋がったねい」
1人椅子に座り足を組んでいたスバル。
顔を覆い高笑いする彼は、身体中から光を放っていた。
「シュウリ、先程は気分を害してすまなかったねい。だが、そのシオン君という少年。君が思っているより、ずっと強い子なんじゃないかい」
氷を飲み込むたび、シュウリの体はほぼ元の姿へ戻っていく。
「強いかどうかではありません。ヒトモドキから一般市民を守るのが我々の役目です。一般市民を入れたら、本末転倒だ……」
「黙りん。こちとら一国の貴族推薦されただ」
氷の主は、共にシャリシャリと氷の壁を手掴みで頬張りながら、わずかに黒い煙まじりのため息をついた。
「よし、今日はこれが片付いたらお開きにしようぜい。先程の推薦者3人には、また君達へ日程を送るから伝えといてくれい。そしてシオン少年の件だが…………その様子じゃ、守られてるのはシュウリのように見えるぜい」
「は? 僕が…………」
図星である。塩の効いた白米。パリパリの海苔。絶妙な火加減の焼き魚。シオカラ亭の料理こそが、彼の『海』のソウルを保っている。
今この瞬間も、大量の塩辛い氷に飽き、弁当の口になっているのだ。
「……話、聞けるか分かりませんよ。今日も今日とて、行列でしょうからね」
引き続き、彼は氷を飲み込み続け、冷えた腹をさすった。
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21時前のシオカラ亭。
店前には達筆で『完売御礼!!』と書かれた板が置かれ、静かにシャッターが降りている。
「っ、クソッ」
シュウリは、怒りの混ざった冷たい拳で、ダンダン!とシャッターをノックした。
「僕です。シュウリです。夜分遅くにすみません」
「え!?」
「びっくりした……はーい! 今行きます!」
と、小さな少年2人の声が聞こえる。
裏口より、歯ブラシを口に突っ込んだシオンとハチクが現れた。
「やっと来た……! シュウリさんの分の焼き魚弁当、取っておいて良かったです……え。……ひっ! 冷た! ……シュウリ、さん?」
シュウリは静かに俯き、並んだ2人の手を握った。
「僕は、君達にどんな顔をすればいいんでしょう」
「ど、どういうことですか」
「あの、俺の試験って……どうなったんですか?」
深呼吸をしたシュウリは、それぞれ握った2人の手を、ぎゅっと握りしめた。
「まずハチク君、君は選考通過です。そして、シオン君。…………貴方『も』、と言ったら、どうします?」
閉店後にシャッター叩いてくる常連厄介すぎて草




