10 会議 2
続きです。
「さあ、現時点で他薦したい人はいるかな? 肉体、精神共に伸び代のある者は」
マナメとククリヌスが、揃って挙手した。
「はーい! 大統領、うちに適任者います!! マナメの後輩であり、可愛い可愛い愛弟子!! その名も、『イニチッチ』です!!」
「ウス!! アイツ、ソウル、『炎』! 強い!!」
☆
イニチッチ。マクロ学院の新入生であり、ウサギ耳の獣人族。
先日のシオカラ亭の大繁盛時、急遽コンロの火力を上げた小さな助っ人である。
☆
「愛弟子イニチッチはですね、新入生の誰よりも早く呪文を覚えて、現在は魔法学科主席なんです! しかも我々ヒト族の言葉を一から学び、流暢にマナメ達とお話できます!」
「マナメ、イニ、オレ、一緒昼メシ。楽しかったウス! イイ奴ウスね〜昔から!」
マナメは自身のツインテールを持ち上げ、さらに続ける。
「何より、彼女のウサ耳はめちゃくちゃ可愛くて、今彼女を真似たツインテールがマクロ学院で流行ってるんです!! 先程大統領が仰った『憧れ』『神秘性』『カリスマ』、全て兼ね備えているかと! いかがですか!? ピンポイントに欲しい逸材でしょ!?」
「ウサ耳っ!?───」
思わず立ち上がるメタルク。
『炎』という単語にスバルの目が輝く。
「素晴らしい。素晴らしい逸材じゃないかい! ピンチに駆けつける雷と炎の少女っ!! 絵になるねえ、会うのが楽しみだよい! ……メンタル面について聞きたいんだが、一次試験耐えられそうな子かい」
シュウリが静かに挙手する。
「彼女はGさえ手に入るなら、どんなことも乗り越える生徒ですよ。むしろ、金欠で非行に走る前に、うちに迎え入れたいくらいです」
「んん〜? まあよし、シュウリからも評価される子なんだねい。では多数決を取る。イニチッチの入会試験参加に賛成の者!」
5人全員の手が上がる。
イニチッチ、選考通過。
「次は、俺からの推薦です。俺の妹なのだが……名はダイヤナという。ソウルは『石』である」
☆
ダイヤナ。つい先程、謎の精霊の加護による起死回生で、ヒトモドキを討伐した。
高潔な志と正義感を持ち、今や身も心も立派な騎士だ。
☆
「俺の頭がおかしくなったと思うだろうが、最後まで聞いてほしい。妹は先程、ヒトモドキにより命を奪われた。っ、すまない。ただここから、ここからなのだ……」
───────数時間前。
「ぐぬぬぬぬぬ」
件のレストランのテーブル代を弁償し、2人きりとなった兄妹が、再びビル裏にて掴み合いの喧嘩を繰り広げていた。
「ちょっとどこ触ってんのよ兄さん! 最っ低!」
「最低なのはこんな脱げない鎧を作った職人である! 我が国の高級品をこんな不良品に改造しおって! どこの鍛冶屋だ! クレームを入れるである!」
「っ、信じて! 精霊さんから貰ったの! あたしの命を救う代わりに、ヒトモドキの討伐に協力してくれって」
「デタラメを! 俺が叩き割ってやる! 悪く思うな妹よ! そしてウサキチ2号、恨むならモグリの鍛冶屋を恨っ…………ボオッ!!!」
妹から向けられた、ダイヤモンドの盾が神々しく光る。
気づけば、光を受けたメタルクは、鎧に向けたはずの拳で、思い切り自分の頬を殴っていた。
「ね、こんなソウル知らないでしょ。兄さん、16時から会議だっけ。あたしの紹介、よろしくね」
地べたに転がり込む兄の掌に、例の指輪がチャンっと落とされる。
そのまま胸のリボンに手をかざすと、彼女の姿は繊細な輝きと共に、元のワンピース姿に戻っていった。
────────
「俺はそれでもまだ、精霊の存在など信じきれぬ。そんなもの、御伽話以外で聞いたことがない。妹を推薦したいと同時に、是非とも皆の意見を聞かせてほしいである」
全員、黙ってスバルを見つめる。
彼の拍手だけが室内に響く。
「精霊を味方につけてるなんて最強じゃないかい! さらにヒトモドキ討伐の実績アリ! 『殺意』を跳ね返す石のソウル、大歓迎だぜい!」
「ん!? な!? 疑問を抱かないのですか!? きっ、貴様らはどうだ!!」
全員言葉を発さず、揃って掌から、各々のソウルのオーブを錬成しだす。スバルも続き、光を発する指で宙に五芒星を描いた。
「自分のこれは信じるのに、精霊は信じませんなんて無理な話だぜい。あと、その精霊さんに妹を生き返してもらったんだろい? 兄として感謝しないとねい」
「ぐ……」
「では、ダイヤナの入会試験参加に賛成の者!!」
5人全員の手が上がる。
ダイヤナ、選考通過。
「……次は……」
言葉に詰まるシュウリが、エイテンの顔を見つめる。
「いい。ウチに構うな」
「ありがとうございます。僕から推薦させていただきたいのは、昨日フウガ共和国へ現れたヒトモドキを足止めした、レイメイ皇国の公しゃ……ハチクという少年です。ソウルは『水』です」
☆
ハチク。レイメイ皇国公爵子息。現在は、シオカラ亭にてアルバイトをしており、その功績と美貌で早くも看板息子となった。
☆
「これは……大統領の結論を先に伺いたいです。どういたしますか」
スバルは少々ヒゲをいじりながら、沈黙した。
イチバンボシはそんな彼の言葉を待ち、じっと構えている。
数秒の間を経て、彼は笑顔で顔を上げた。
「……俺様は賛成だよい! あのツバタ公爵が放った逸材なんだろい? 旧友がそうするなら、俺様もそうする。勘だけどねい」
「また勘ですか……」
スバルの煌めく瞳を見つめ、シュウリはため息をついて座り直した。
反して、エイテンのじめじめした恨み言が会議室を包む。
「あー。勘ならしゃーないわあ。ああ〜もっとウチの仕事増えるんやろなあ。うちは手、上げんで? これ以上の面倒はごめんやで。ああ〜。このままだと、イチバンボシのエイテンの仕事が増えてかんわ! ああ〜」
「じゃ、『水』のソウルの使い手、ハチクの入会試験参加に賛成の者!」
エイテン以外の全員の手が上がる。
ハチク、選考通過。
「……………」
「はは、悪いねいエイテン。多数決って多数決だからよい」
スバルの光で作り出した掌が、エイテンの背中をパンパンと叩いた。
「それではみなさん、スムーズに他薦が通ってよかったです。他に他薦がなければ……」
「チッチッチ。シュウリい、俺様を忘れてもらっちゃあこまるぜい」
意気揚々を手を挙げるスバルの姿を見て、シュウリの背中には嫌な汗が伝っていた。
「俺様が推薦したいのは。ハチク少年と同じく、先日のヒトモドキ事件に加勢してくれた……」
5人中4人が、興味を持って身を乗り出した。
唯一シュウリだけ、今にもスバルに掴み掛かりそうな顔に変貌していた。
──────────
厨房から、1人の少年が顔を出す。
「ハチク君、常連さん来ましたか……?」
「全然来ない! この列、シュウリさんには死活問題だよ……はい、 お待たせしました! 上の方お熱いのでお気をつけて〜!! 」
寂れていた商店街に、シオカラ亭の行列が彩ってゆく。
何も知らないシオンとハチクにより、あたたかい夜が始まっていた。
ヤンデレ。




