霊と少女と京美人 side Hibiki
まるで幽霊の様に見えるお姉ちゃんがポップアップ!
不意に僕らの傍らに ――何の気配もなしに―― 姿を現したのはほっそりとした和装の女性だった。
びっくりして思わず戦闘態勢に入るトコだった……。 危ない危ない。 いきなりそんな事になったら正しく危ない人だよ。
黒髪を腰ほどまでに流していて、周囲が薄暗いせいではっきりとは判らないけど、かなり白い肌をしている様に見える。 で、顔は美人。 結構な垂れ目だけど、それがかえって色っぽいかもしれない。
だけど、その殆ど白装束な格好のせいか、正直幽霊の様に見えなくもない。 と、いうか見える。
というか、この至近距離でこの気配のなさ……。 ホントに幽霊じゃないのか、この人……?
でも肉体……だよなあ?
その姿や微かな足音は確かな重さを感じさせる。 声を掛けられるまでその足音すら聞こえなかったんだけど。
「あら? あらあらあらあら。
遅う遅う思うとりましたら、……逢い引きでしたん?」
訛り。 大阪弁かと思ったけど、これは京言葉、だろうか? テレビで聞く大阪弁より、修学旅行に行った時の舞妓さんの口調のが近い。
「違う」
一瞬の遅れもなく神巫さんの言葉。
彼女の口調は大抵「………」がついてる感じだから、こういうハッキリした口調は随分珍しいものに思える。
「でもなぁ、お仕事終らせてはるのに帰って来ぉず、こんなに遅うまで男の子と居るなんて……そうとしか思えんのやけど……?」
……何か京言葉といえば京言葉なんだろうけど、使い回しというか、言葉の節々が妙に古いような気がする。 「オノコ」って確か男、ってことだった様な……。 いや、「男の子」だった、か……。
……え? ……僕が元服前の子供に見える、と?
男らしいと思った事はないけど、それなりに鍛えている身としてはちょっと落ち込むぞ。
「違う……」
もう一度繰り返しつつ、彼女は言葉を続ける。
「ストーカーに付き纏われてただけ……」
…………。
まあ、そういう認識だよね……。 仕方ないっちゃ仕方ない……とは思いたくないんだけど。
「……そうでしたん?」
どこか神巫さんと近しい感じのするその女性は、彼女の反応を気に掛けつつもこちらに問いかけてくる。
「………え……、っと、まあ、それに近いモノは…」
思いたくないと考えていても、普段から一応の「自覚」を持っていたせいか、そこまで言ってしまってから僕は慌てて言い直した。 そんなことを認めてどうする僕!?
「じゃなくて、クラスメイトですっ」
「『くらすめいと』兼『すとーかー』はん?」
あぁ、僕の顔、きっと赤くなってる。 自覚できるくらいに頬が熱いっ!?
「いやいやいや、普通のクラスメイトですからっ!」
そう言っても彼女は小首を傾げ、納得している様子を見せてくれない。 何故っ? どうしてっ!? Why!!??
「今時の普通のくらすめいとって言うんは、こんな時間まで一緒に居るん?」
のんびりとした口調で言われ、園内の大時計に目を向けるともう10時を回っていた。
まあ、確かに何らかの「疑い」を持ちそうになる時間ではあるかも知れない、なあ。 神巫さんも僕といなければ、今までの経験上9時半か遅くても10時には既に帰ってただろうし。
「……確かに遅い時間になってますが、一応普通のクラスメイトです」
これだけはとりあえず主張しておこう、うん。 逢い引き云々は気にするまでもないレベルだけど、さすがにストーカー呼ばわりされるのは痛すぎる。
そりゃそれに近い事してる自覚はあるけどさ……。
ん?
……だとやっぱりストーカーなのか? いやいやいや。
「別にすとーかーはんでもよろしゅおす。 この娘とこみにゅ…、こみゅにけーしょん取ってくれはるんでしたら構いまへん」
あ、噛んだ。
ってか、違うって言ってるのに……、無視っスか……。
「ひとつさん……。
何、その『友達のいないこの娘をよろしく』みたいな台詞……?」
「言い得て妙や。 その通りやわ」
そう言って神巫さんに「ヒトツ」と呼ばれた女性は「ビシッ!」と擬音が見えるくらい勢いよく指を突きつける。 口調はのんびりしてるけど。
「うちらがこっちに来ぃてもう何年経つと思うてはるの? ああ仕事や、ああ必要ないって、友達のひとつも作うてはらへんやろ?」
「……だって必要ない……。 わたし達に友達なんて、意味が、ない……」
「意味ないなんて言わはるもんやありまへん。
友達に意味がないんやったら、うちかて香久夜はんと逢わずに消えてしもうたかもしれん。 ……意味は、あるんよ。 気ぃつかんだけで」
……何やら深い話をしてるんようだけど、はて、僕はどうしたらいいものか? このまま聞いてるのも失礼だろうけど、このまま姿消すのも失礼っちゃ失礼だよなぁ。
所在無く、視線を動かしていると小さな煌きが見えた。
ひとつの、灯火。
淡い色合いの光。 電球のような人工の明かりでも、蛍のような自然の明かりでもないそれは――――。
体が動く。 知覚が拡がる。
神巫さんも「ひとつ」さんも、まだそれには気づいていない。
懐には祖父の使っていた霊刀。 それを ――一閃する!
「っ!」
刃は「ひとつ」さんの肩の上を通過し、そこにいた霊を切り裂いた。 一瞬遅れて神巫さんの刀が、その残滓を斬る。
「……ずいぶん迅い、のね……。 葦原君……」
刀を ――どこかに―― 納め、神巫さんが言う。
僕が刀を持っていた事に問いかけもなく、驚きを見せないという事は、それには気づいていたんだろうか? だとしたら、ホントに只者じゃないよな、このヒト。
「それなりに鍛錬は積んでるからね。 ……現代社会じゃそうそう使う技術じゃないけど」
言いながらこちらも刀を納める。 まあ、こっちは神巫さんと違って、いそいそと懐に仕舞うわけだけど。
霊刀だろうと式具だろうと真剣は真剣。
一応警察には所持の登録はしているし、じいさん絡みのコネもあるけど、本来はおいそれと持ち出して良いもんじゃないし、見つかれば銃刀法違反。
多分、神巫さんに今時点でも人除けはされてるだろうけど、まあ、気にはなる。
「それは兎も角、ありがとぉな。 うち、ちょっと気ぃ抜いとったわ」
言って、にっこり。
うん、美人だ。 目尻が垂れているから、両目で「ハ」の字を描いているように見えるが、それも愛嬌だろう。
――あれ? そう言えばこんな時間まで探しに来るってことは、神巫さんの身内……なんだろうか?
といっても、母親というには若すぎる。 かといって姉というには年が離れている気がするし、第一ふたりの顔はそんなに、というか全然似ていない。
そもそも女性の年齢をただ外見で判断するのは間違いなのかも知れないけど、
そんな僕の表情を読んだのだろうか。 彼女は何かに気づいたような顔で言った。
「すいません、自己紹介が遅れましたね」
標準語。 極僅かに訛りが残るものの気になるレベルではないそれ。
「わたし、この子の保護者をしています、千座 一と申します」
……ん? 今、言ったのは名前……だよなあ? 神巫さんがさっき「ひとつ」さんって呼んでたから…。
「え……っと、チクラノ、さん?」
「あ、姓は『ちくら』、名前は『ひとつ』です。 『の』はですね、解り易く言うなら、源頼朝とか平清盛に使う『の』なんですよ」
……それって氏子とか一族みたいな人達に使う呼び名じゃあ……? 現代人の名前なのか、それ? それとも、ただそう名乗っているだけか?
どちらにしても聞き慣れない、音。
「よろしゅうお願いします」
あっ、混ざった。 発音はともかく、標準語の使用に慣れていないんだろうか?
「僕は葦原 響です。 一応神巫さんのクラスメイトやってます。
こちらこそよろしくお願いします」
そう言う僕に向けられる、あまりヨロシクナイ視線。 ……あ、神巫さんがジト目でこっち見てる。
「……よろしく、どうするの……?」
うん、無感情に冷たい声色。 怒ってる、のかな? これは。
「………とりあえず友達から?」
言った瞬間、額に炸裂するデコピン。 以前見た彼女の、動きの見えない動きだ。 本当に、動いた事に気づけない。
僕にとって、黒い翼よりも、姿を消す刀よりも、この動きの方が余程脅威だ。
「……帰る……」
驚く僕を尻目に、神巫さんはくるりと背を向けると、そのまま闇に姿を消す。
さっきは怒っているかと思ったけど、これは何か違う……ような……。
はっきりしないまま居なくなった彼女の跡を見ていると、後ろの方でひとつさんが口を開いた。
「こういうのって今だと『つんでれ』言うん?」
「……違うと思います」
少なくともデレてはいないです。
……いつかデレるんですかね?
千座 一・・・現在、荒れ木三度Loss系列のお店で働く女性。 アレクはこの鈴宮市に支店が進出していないので、あくまで系列店。 お総菜屋さん?
◇一人称・・・「わたし」だがたまに「うち」になる
◇ヘレティック・・・マギ
◇ミュータント・・・■■■、
◇クラス・・・■■■■、■■、■■、術士、
は!? 黒塗りばかりになった!?
前に書いたアリスみたいになっても困るので、基本は訛りの残った標準語でいきます。




