神巫香久夜 2 side Hibiki
コマンド⇒はなす
あの公園で彼女 ――神巫 香久夜に会ってからもう一週間以上経っている。
僕はその間ほとんどストーカーのように彼女に付きまとっていて ――といっても学校と夜の公園くらいではあるけど―― 彼女にしてみたらホント、迷惑なんだろうと、思わなくもない。
そう考えながらも止めない僕は、結局のところ我が侭なのだ。 自分自身を、自分自身の意味を得たいが為に行っているただの我が侭。
やっていることは周囲に存在を晒しめようと爆音を上げるチンピラたちと変わらない。
僕は、弱い。
だが、そう思うことそのものが偽善的で露悪的な気がして……僕はそれを考えるのを止めた。
いつもの公園のいつもの場所より、ほんの少し奥にある雑木林。
彼女はそこで刀を振るっていた。
この十日ほどの経験から、彼女はいつもここにいるわけではないと知っていたが、今日はここでよかったらしい。
ここにいない時、彼女がどうしているのか僕は知らない。
当然のことかもしれないが、教えてもらえないからだ。 彼女にしてみれば僕はただの闖入者でしかないのだから仕方ない。
別の場所でその刃を振るっているのか、単に身体を休めているのか、それとも全く別の事をしているのだろうか?
その彼女は今も、僕を完全に無視した形で刀を振っている。
綺麗な型。
型通り、ではない。
それは我流を実戦で研いた様な、どこか荒々しい型だ。 だが荒々しくもその形を丁寧に繰り返した事が解る美しい型でもある。
彼女が一体何のためにこんなことをしているのか、僕は知らない。
彼女が何を目的としているのか、僕が知る由はない。
少なくとも、僕の祖父のような「仕事」ではないだろう。
――なら、何だ?
単純に善意だろうか?
――いや待て。
それ以前に、何故彼女の周りには、こうも祓うべき「霊」が集まる? 残滓たる「思念」ではなく、滅多に現世に留まる事のない「霊」が。
霊を斬り捨てる彼女を見ながら、思考する。
そもそも神巫香久夜という少女は何者なのだろう?
彼女の行動や言動から予想すると、その能力は並外れたものだ。 それを ――額面通りなら―― 十七という年齢で使いこなしている。
日々修行のみをして暮らしている、というならまだ解かる。 だが、彼女は普通に登校している。 下校時間だって変わらない。 つまり一日の半分を学校で過ごしているのだ。
――人間じゃない。
そんなたとえ言葉が脳裏に浮かび、僕はふと思い出した。
喩えなんかじゃなく、彼女が本当に「人間じゃない」可能性があるということを。
最初にこの公園で逢った時以来見ていないが、彼女は人のものではない翼を持っていたじゃないか。 黒い、闇の様な翼を。
先に気にするべきはそっちの方ではないのか、と思わなくもないが、思い出した今でもそれほど気にならないのは何故だろう?
彼女の言霊が多少なりとも効いているのかと思わなくもないが、それならそもそもこんなストーカー紛いのコトはしていないだろうし。
「……葦原君って」
「えっ?」
いつの間にか神巫さんが目の前にいた。
すでに周囲に「霊」の姿はなく、彼女の「仕事」がもう終わっているのが分かる。
「結局、……何が目的?」
いつもの表情で彼女は言った。 いつもと同じ無表情。 その中に若干の呆れが見え隠れするのは紛れもなく僕のせいだろう。
「………目的、って?」
「……わたしに付き纏うのは何故?」
言われてみると彼女の疑問はもっともだろう。
あの夜から、僕はただただ彼女につきまといその様子を見ているだけだ。
邪魔をする訳にもいかないと、彼女が「仕事」をしている間は話しかけもしていない。 それが終わってしまえば彼女はすぐ帰路へ付くのだから、本当に見ているだけだ。
背は低いが顔は整っているし、それだけで眼福ではあるのかも知れないけど。
「まあ、気になるから……かな?」
結局の所はそれだけだ。
何かをしたいと思いながら、何もしていない。 そんな成り行き任せの及び腰。
「……何故そこで疑問形になるの」
もっともだ。
「はははっ、ごめん。
前も言ったけど一番強いのはたぶん好奇心かな。
普通ならありえない数の霊、それを斬る刀、理由。 ……むしろこっちが目的を知りたいね」
だから、多分今が分岐点。
だから、一歩前へ乗り出す。
「…………………」
だけど、僕の言葉に沈黙する彼女。 呆然としている様に見える気がするけど……なぜ?
「……葦原君」
僕の名を呼び、神巫さんはなぜか苦笑している。 ちょっと珍しい、かも?
「貴方、……やっぱり変」
「……へ、変って何!? やっぱりってどういうこと!?」
想定外の言葉にうろたえる僕。 「やっぱり変」って前から変だと思ってたってコトだよなぁ。
殆ど付き合いのなかったはずの彼女にそう思われていたなんて……。 そんな奇行に走った覚えはないんだけど……。
「こういう場合、目的より正体が先に来ない……?」
「そ、そう……かな?」
「だって、貴方は霊よりも先に、わたしの翼を見ているもの……」
そう言って彼女はその翼を広げた。
漆黒の、対の翼を。
デビール! ←ネタが古いっ
う~ん。
シーンの分け方がが分け方だから、短いと極端に短くなってしまうなあ(´・_・`)




