葦原響というニンゲン 1 side Kaguya
短めです。
超短めです。
考察します。 絞殺はしませんよ?
葦原 響という人間はわたしにとって、ある意味脅威になりつつある。
以前からそれなりの「ちから」を持つ者であることには気づいていた。 あの夜の会話からそういう血脈に生まれついていることも知った。
だが、それはあくまで「それなり」であって、わたしの隠形や結界を破れる様なものではなかった。
事実、今まで同じクラスになった時も、彼はわたしを認識していなかったはずなのだ。 なのに今、彼はわたしの存在をいとも容易く見抜く。
極当たり前の様に接してくる。
普通の、ただのクラスメイトの様に。
だからわたしは学校へ来る気はなかったのに、親代わりの「彼女」はそれを認めてはくれなかった。
その為、今わたしはある意味窮地に立たされているといっても過言ではない。
葦原 響という人間が時折とはいえ、傍らにいるようになって、わたしの隠形はすでに綻び始めているのだ。
折れた紙を伸ばしても元には戻らない様に。 潰れたペットボトルが元に戻らない様に。
「で、神巫さん。
ちょーっと聞きにくい気もするけど、キョウ君と付き合い始めたの?」
聞いてくるのはクラスメイトの一人の由月 忍。
彼女の様に人懐っこい ――悪く言えば馴れ馴れしい―― 良く言う必要も無いので、やはり馴れ馴れしいが正解か ――人間には元々隠形は効きづらく、今の様に綻びた状態では真っ先に破ってくれる、今のわたしには天敵とも言える存在だ。
ちなみに「キョウ」は響。 葦原 響の事。
彼も人気者、というわけではないが、普通に人付き合いはしているし、友人も、それ程でなくとも親しい人間もいるようだ。
彼女は「聞きにくい」と言ってはいるが、そんな事はただの枕詞に過ぎないのだろう。
その瞳は好奇心に輝いているし、そもそも聞きにくいのなら大して話した事すらないわたしに向かって問う様な内容でもない。
普段真面に認識出来ていないわたしなんて赤の他人もいいところである。 知人という括りですらあるか怪しい。
何せクラスメイトではあっても真面に挨拶すら交わさぬ仲なのだから。
「…………何故?」
「だって何かというと一緒にいるじゃない?」
それは大きな誤解と言えよう。
彼と一緒にいるわけではなく、彼がこっちに来るのだ。
それに「何かというと」なんて頻度でもない。 誰かといるという事がないから、そう見えるだけ。
だが困ったことに「そう見える」事が彼女達には重要なのだろう。 此れは理解出来てしまうのだ、遺憾ながら。
「そうそう。
それで、葦原君のどこが良かったの? 顔?」
顔は十人並みかと思うが。
「あ、葦原って結構運動神経いいよ? 最近サボってるけど」
しかしこの娘らは何故下着姿でわたしに迫って来るのだろう? はやく着替えてしまえばいいのに。
わたしは彼女らを無視して着替え続ける。
「そういえば最近はホントよくさぼってるよね。
ひょっとして、そういうふりょーっポイところに惹かれましたか?」
遅刻も多いし、サボり魔気味なのはわたしも認めるけど、そこって人を好きになるポイントになるのだろうか?
まるで理解出来ないのだけれど。
「今年に入ってすぐだよねぇ、サボりだしたの。 去年までそんなコトなかったんじゃない?」
そういえば前は真面目に授業を受けていたかもしれない。 よく覚えていないが……。
「やっぱりアレ?
おじーさんが亡くなったから?」
「……ちょっと間が空いてる気がするけど……」
「今はキョウ君の話はいいから。
で、天涯孤独のカレを癒してあげたいっ、とか?」
出来ればそのまま話が流れてくれた方が良かったのに……。
――親は如何したかは知らないが、彼の祖父が亡くなった時、授業中だったが、彼は教室から大慌てで帰宅をした。
「級友」たちはその様子を見てざわめいていた。
曰く「あいつは親がいない」、
曰く「確か一人っ子」
曰く「じいさんと二人暮し」。
その時は、親の「監視から逃れた」彼を羨む声もあった気がする。
「………」
しかし、どうしろというのだ、この状況を。
これというのも葦原響 ――彼のせいだ。
無論、こういった状況を回避出来ない、彼女らを軽くあしらう事の出来ないわたしの技術に問題がないわけではないだろうけど、本来わたしに必要のない技術を、わたしが身に付けている訳もない。
――キーンコーン………
そんな時、チャイムが鳴った。
はっとする級友達を尻目に更衣室を抜ける。
「あ、逃げたっ」
彼女等はまだ下着姿。
まだ予鈴とはいえこれで安泰だろう。 ………少なくとも次の休み時間までは。
それにしても「これ」は何時まで続くのか……。
葦原 響という人間はわたしにとって、ある意味脅威になりつつある。
わたしはそれを思い少し憂鬱になった。
続くよ続く、憂鬱な日々(´Д`)




