死鬼と少女と魔犬のワルツ side Hibiki
戦闘開始!
漸くか、とか言わんとくれやす。
確かに犬だ。
黒い、しかし五十鈴の言う様なドーベルマンという感じではないか。 あそこまでスリムな感じではなくむしろ黒いダルメシアンと言う風に見える。
だが、どちらでも構うものではないのかとも思うのだ。 見た目の犬種がどうであれ、この怪物が何者であれ、殺意一杯の炎を吹きかけてきたコイツは間違いない敵だろうから。
「はハハはっ、オ前かッ、結界を越エテキたのハっ」
着地した僕は「犬」から目を離さず、刀を構える。
五十鈴は火の届かないくらいの所まで下がらせ、僕は一歩前へ。
しかし「犬」と言われたからか、考えもしなかったが……会話が出来るのか……。 多少聞き取りづらくはあるけど、ちゃんとした日本語だ。
「ああ、僕だ」
「オマエは男、ダな?」
擦れた様な、それでいて妙に響く声で、魔犬が問う。
よく分からない質問だな……? 僕の性別がこの犬にとって意味のあるモノなのか?
「――何が知りたいかよく分からないが……僕が女に見えるのか?
それより、こちらも質問だ。
ここの怪異を引き起こしているのは、お前か? いや、お前だけか?」
僕の問いに、犬はにやりと言う感じで口元を歪ませた。
犬の骨格でもここまで歪んだ表情が出来るのかと、素直に感心する。 まるで粘土細工のように歪に見えるのは先入観のせいか。
「ははハハっ、ココは、こノ地ハ元ヨり吹キ溜まリの様ナもノ。 我らが望マずトモ怪異は巻きアガる。
――尤モ、今宵は巻きアゲたがナ」
この感じだと……無駄、かなぁ。
それにしても吹き溜まり、か。 と言う事は元から怪異の出やすい場所なのか? この学校は。
「止める気は?」
「オマえの後ロニ居るのヲ喰ッたらダ」
まあ、予想通りの答えか。
「――望むのならお前を浄化できる。 縦令お前が『タタリ』であっても、普通の妖しに戻す事も。
だがそれを選ばずただ害を為すと言うなら力尽くで調伏させてもらうぞ」
「断る。
元ヨり、脅しニ成ランぞ、ニンげン」
言いながら炎の息をちらつかせる。
まあ、端からそんな気はしてた。 大して期待しちゃいなかったさ、ああ。
「――脅しかどうか、その身で理解しろ」
強気でいく。
こういう奴等に弱いところは見せられない。
―― 一瞬。 瞬く間に咬みあう刃と牙。
「ヤルなぁ、にンゲん。 我が今ノ我でなケレば、今ノデ滅しタかモ知れン」
正面からとはいえ、本気の剣速が止められた……か。
それにしても硬い歯だ……。 見た限り傷も殆どない様だ。
刃を上へ滑らせようとする ――前に犬はすぐさま身を引いた。
……勘もいい……。
普段なら一歩下がる所だが、後ろには五十鈴がいる。 一息と置かずに刀を振るう。 躱される、掠める、受け止められる。
身を翻すヤツの口に炎が見えた瞬間、透かさず追いすがり顎に蹴りを噛ます。
集中する。
集中し過ぎて視覚が狭まるのが解る。
これは ――良くない。 良くないがそれで集中力が途切れるのも良くない。 何か切っ掛けが欲しい。 何か。
「きょーっ!」
五十鈴の声 ――切っ掛けだ!
「まだいる! そいつだけじゃないっ!!」
五十鈴の言葉に踏み込む足が一瞬だけ止まった。
しかし彼女の言葉に何か根拠はあるのか? 彼女の目に何か見えるモノがあったのか?
思考の為の一瞬だけの停止。
その僕の目の前を「何か」が突き抜ける!
何か解らない、一瞬だけ現れ、消えた何か。
「ヨく判っタねぇ、筑紫さン」
ん? 口調が変わった?
「――普段主人格だったアンタが出てこないんじゃ、すぐわかるわ。
さっきアンタからゆーれいがたくさん出たの、見たしね」
主人格? 幽霊が沢山出てきたって……?
コイツ、群体……ていうか、……霊が多数憑依してるのか!?
と言う事は、今のは犬の体から出てきた霊体だったのか。
「悪い、助かった」
五十鈴に感謝だ。
止まらなければ顔面直撃コースだった。 真面に喰らったら危なかったろう。
視野狭窄に気づいてはいたのに、是正出来なかった……。 自身の未熟だったとは言え、この犬と僕の実力はかなり近い。
いや、単純に「目」の数から考えるとヤツのが上か?
そんな相手を前に無傷で勝とうなんて虫が良いって話という事だな。
――僕は懐から呪符を出し、そのまま刀を滑らせた。
掌が切れ、滴る血が呪符を赤く染める。 僕がその呪符を中空へ舞わすと、それらは自然と体の要所に張り付いた。
【神速】
と、すかさず脳裏に呪言を這わす。
脚に鋭い痛みが走るが、呪いの力は僕に瞬き移動の力を与えてくれる。 先の瞬動よりも速い、瞬間移動染みたそれで、僕はヤツの後ろを取った。
振り下ろされる刃に、それでもヤツは反応する。
【斬】
呪言により指先から肩まで痛みが走り抜けるが、剣速も斬撃も鋭さを増す。
先程は咬み合っただけの刃。 それがヤツの牙を斬り飛ばした。
追撃を掛けようとする僕を前に、ヤツは軽く後方へ跳ねながら炎の息を吐きつける。
今度は僕は呪言を使わず、呪符をかざす。 炎は僕の指先数センチで止まるが、呪符は一枚燃え尽きた。
【神――】
再度距離を詰めようとする僕の前に、唐突に何かが出現した。
思わず切り伏せてから気づく、見覚えのある黒い灰。
周囲に少しずつ凝り固まる様に形を作っていく、それは人影を成して、骨を、肉を成して、ヒトガタを成してゆく。
だが、それらは皮膚を成せず、そのせいか形は歪み、成された肉は崩れた。
「ひっ……」
五十鈴の、息を呑む悲鳴に近い声が聞こえる。 それも仕方のない事だろう。 目の前に「出現」したのは死者達と、
「ツレタノ……娘ジャナイカ……」
獣の体躯を持った「屍」。
それにしても、今の言葉……。 この犬も言っていたが、目的は「女性」なのか? それとも……神巫さん……、なのか?
しかしまあ、この期に及んで敵が増えるとは……。
犬は牙が数本欠けただけ、屍は当然無傷。
まだまだ呪符は残っているが、僕も体力を消耗しつつある。
……一旦逃げるか?
いや、こちらには五十鈴が居る。
健脚とはいえまだ息の上がる彼女を連れて妖物二体から逃げ切るのは難しそうだ。
なら戦うしかないが……。
この状態で勝てるとすれば、神巫さんの乱入が一番なのだけど、今学校には結界が張られている。 彼女は……入ってこられるだろうか?
切る事の出来る鬼札は、まだある事はある。 いざという時は切るしかない。
そもそも鬼札は切らなくては意味がない。
だけど、それに躊躇いを覚えるのも事実。
ただ何にしても、
「やるしか、ないか……!」
呟く。
自棄でも諦めでもなく、不退転の覚悟を籠めて。
本格戦闘と言う事で響くんのジョブ公開です。
ナイショ設定があるので、特徴等は非公開で。
○ 葦原 響
一人称・・・僕、
◉ヘレティック・・・タリスマン(符術士)、ファミリア(魔物使い)、シャーマン(神降ろし)、エクソシスト(退魔師)、
◉ミュータント・・・なし
◉クラス・・・レリック(遺産継承者)、ウェポンルーラー(武芸百般)、サムライ(侍)、




