↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/27

闇の向こうに浮かぶは焔 3 side Hibiki

 薄暗い校内に舞う無数の霊たち……。

 その様相はまるで肝試し……ってそんな可愛げのあるモノではございませんよ。



 軽く、ジョギング程度の速度で走り、校舎内を見て回る。


 兎にも角にも数の多い霊達に、全部を斬る事は諦め、手に届く範囲のモノだけを浄化していたのだが、ふと、何か、変わった感じがした。


 学校敷地へ入って直ぐに会った霊は、意識は感じられないのに悪霊と言って差し支えのない程、悪意に凝り固まっている ――矛盾した表現なのは百も承知だ―― 様に見えた。 校舎へ入ってから会った霊達は、悪意・意識どころか、まるで浄化寸前の「薄い」霊体だった。

 なのにこの付近の霊達はどこか思考を、規律を以って動いている様な気がするのだ。

 偶々(たまたま)、の訳がない。 なら……。


(使役者が、違う?)


 もしそうなら厄介な事になるだろう。


 普段 ――というか最近か―― 見る霊達は、意識の薄い、ただ寄って来る感じのモノだ。 つまりここで言うなら校舎へ入った後の霊体。 これが神巫さん補正で寄って来ただけの霊体だとすると、使役者があと二人いる事になる。

 逆にこれが誰かに使役されている霊なら、使役者が最低三人……。


 いや、霊だけならまだいい。

 ここにいるだろう昨夜の屍が、使役する側ならいいが、使役される側だった時、僕はそれに対処できるのか?

 あの屍が複数現れる可能性を考え、ぞっとする。


 勿論、それは最悪の場合だ。


 何らかの条件付けの結果、そうなっている可能性だってある。

 現状だと場所によっての条件付けにも思えるけど、そんな事をする意味は薄い。 一体誰が何の為に喚び出した霊なんだろう?


 ――懐にある昨日の中(うち)に用意しておいた呪符。


 その中でも普段は用意しようとすら思わない、それでもただ念の為持ってきた「呪符(いちまい)」。 使う事にならなければいいけど……。


 速度を緩める。


 警戒は怠らない。


 いや、怠らないと思うだけでは済まない。 緩んでいた気を引き締める。

 校舎に入って霊達の危険度が下がって、こちらの緊張度も下がっていたのだ。 一度周囲の霊達を一掃し、薄暗い空間へ気を巡らせる。


 ――気配が残っている気がする。 見える範囲では浄化させたのに。


 壁の向こうか、それとも僕に見えていないだけか。


 後者だと少し怖いな、と思う。

 こちらに干渉できないなら兎に角、こんなトコにいる奴がそんな事もないだろうし。 今は積極的に襲っては来ないが、本格的な戦いになった時、見えない敵はどんなに弱くても脅威(きょうい)に成りうる。


 一旦息を整えて、改めて周囲を確認するものの、薄い気配は捉(とら)えきれない。

 そんな時、


 ガラガラッ ガン! ドカッ!


 と、けたたましい音が聞こえてきた。


 机 ―― 一個や二個じゃない、結構な数かな―― が倒れた、というか積んであった机が崩れた様な騒々(そうぞう)しい音。


 人、だろうか?

 実際ここに来てから僕は、校門での少年の他に用務員や教員を数人校外へ導いていた。 ――まあ、詳しい説明は出来ないし、そもそもしようがないので護衛しつつ追い出しただけだが――


 物音は、人だと思っても騒霊(ポルターガイスト)が大挙してたりもするから油断は出来ないのだけど。

 今の音ならそう離れた場所ではない、はず。

 なんて思っていたら、これは……唸(うな)り声?

 離れた場所から熊の様な犬の様な、そんな動物の声が聞こえた様な?

 今のここに、そんな野生の動物が入り込むなんてあるのだろうか。 というかこんな所で熊の成獣なんて出くわしたら、あの「屍」が複数体並みに厄介なんだけど……。


 慎重に歩を進める。

 一歩、二歩、三歩……と、唐突(とうとつ)に虚空(こくう)から現れた霊を切り裂く。 やはり見える範囲で浄化したところで、「残さず」という訳にはいかないらしい。


 ――不意に、トンっ、と靴音が聞こえた。 軽いその音は子どものものだろうか? それに、乱れた呼吸音。 聞こえたのは少し前の曲がり角。


 動きを止め、そちらへ視線。

 何秒も待たずにそこに現れたのは、何処か見覚えのある女の子。 日本人としては色素の薄い長髪をふたつに束ねた、生意気そうなその顔は、角から覗きこむようにしてこちらを見つめていた。


「……………五十鈴(いすず)?」


 だっけ? なんて言葉を飲み込みつつ声にする。 確か、そんな名前。 道場で何度か顔を合わせていた筈だ。


「……きょー? アンタ、なんでこんなとこにいんの?」


 ああ、その生意気な口調にはやはり聞き覚えがある。


 師範から聞いていた霊視能力者。

 とは言っても、僕は彼女とそういう話をした事はない。

 飽(あ)くまで同じ道場に通う、というだけの繋がり。 兄弟子妹弟子という言い方も出来なくはないが、


「――何持ってんのアンタ!?」


 そこまで親しいとも言えない間柄だ。

 冷静な視線で見れば不審人物丸出しだろうな、刀を持った今の僕は。


 ……って言うか、冷静だな、五十鈴(コイツ)…。 取り乱されるよりマシだけど。


「……話はここから出てから、と言いたい所だけど」


 身構えてる……。 疑われてる、のか?


 いや、違う。

 僕を、「視(み)て」いる。 質問だけでなく自分の「目」でもしっかり確認か。 将来有望なお子様だな。


「とりあえず初めの質問な。

 僕は祓(はら)い師 ――退魔師とかって言った方が解り易いか? まあ、そんな事をやってる。 今晩はちょっとした用件でここに来たんだけど、こんな事になっててな。 巻き込まれた人も居るみたいなんで校舎の中を確認してたとこだ」


 答えを聞いてか、僕を「視た」からか、彼女は多少安心したのだろう、後ろを気にした様子を見せつつもこちらへ歩み寄った。

 僕はそんな彼女に示す様に生徒玄関へ向け足を動かす。 五十鈴も今度は歩を進めた。


「そういう事なんで、二つ目の質問の答えは、『これはお祓い用の道具』って訳だ」


 と、僕は一旦刀を鞘(さや)へ収め、指し示す。 歩きながら、周囲に気を配りながら。


「こっちからも質問、いいか?」


 徐々に小走りになりながらも彼女は首肯(しゅこう)する。


「ちょっと変な事を聞くが、校舎内で屍体みたいなヤツを見なかったか? ゾンビとかグールとか、それっぽいヤツなんだが」


「……そんなのも、いるの?」


 震える声。


 ……しまった。 余計な事訊いたか……? と思っても出てしまった言葉はもう消えない訳で……、会話を続けるか、半端に打ち切るかしかない。


「僕の用事ってのが、そいつなんだけど」


 愚直に会話を続けるしか出来ない僕。 将来どんな職に就こうと、セールスだけは出来そうにない。

 いや、何にしても訊かなければいけない話だ。 割り切ろう。


「……あたしは幽霊と犬しか見てない」


「犬?」


 彼女の言葉に僕は首を傾げる。 犬と言われ、脳裏に浮かんだ犬種は何故かポメラニアン。 とは言ってもこの話の流れで「可愛い犬を見た」なんて訳もあるまいし、先程聞こえた唸り声もある。


「……いつの間にかクラスに入りこんでた……、ヒトに化ける、犬……。 ドーベルマンみたいなカッコで……火をはく……」


「………」


 火を吐く犬、というなら神話、伝承で思い当たるものは在る……が、実際見た事はない。 僕自身こういう「仕事」を目指しその現場を見てきたし、超常的な存在が極身近に居るので、まあ普通に居る事自体は解っているが……。


 何故夜の小学校にそんな存在が在る?

 いや、霊がいるならそんな存在が現れてもおかしくないのか? と突飛もない様な考えも浮かぶ。


 霊は魂。


 死者だ。 死後の人間だ。


 一方火を吹く犬の怪物と言えば、ケルベロス、オルトロス、ヘルハウンドにガルムと有名どころは「地獄の」と揶揄(やゆ)されるものばかり。

 そして地獄とは死後の世界だ。


 ――乱暴な理屈だ。


 自分でもそう思う。

 だが、繋がっている、のか……?


 ここにいる霊達。


 火を吹く犬。


 昨夜の「屍」。


 昨夜の屍体達。


 いつも神巫さんの斬る霊達。


 本来存在する世界、というのが共通項なんじゃないか……?


「……きょー?」


 五十鈴の呼び声。

 出逢った頃と同じ、舌足らずな呼び方


 ――何より、コイツを逃がすのが先か。


 会話の中、少し遅くなっていたペースを戻す。 でも五十鈴との距離が離れる事はない。 健脚だ。


 だが、それを認識した瞬間、足元の影が急に前へ伸びた――。


 光。


 紅い光源。


 足音。


 五十鈴とは違うそれ。


 ケダモノ染みた殺意。


 硫黄(いおう)の匂い――。


 考えが纏(まと)まるより先に動いた身体。 五十鈴の手を引き寄せ、跳(と)んだ。


 聞こえる。 直ぐ傍から短い悲鳴。


 一瞬の後にそこを灼くのは、正しく地獄の業炎。


 顔を向けるのは自分達の居た所。 視界の殆どは炎の紅。 それでも何とか「敵」の姿は視認する。


 ――犬。


 黒い、闇色の巨犬がそこに居た。




 正体不明の存在は炎を吐いた!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
五十鈴ちゃん! まだ無事にというわけではないでしょうけど、鬼ごっこよりは選択肢が増えそうでよかったです。 響くんには兄弟子らしく身体を張って、感謝と尊敬と憧れをゲットしてほしいと思いますが。まだ響くん…
久々に主人公視点ですな〜。 用務員の人まで助けていたとは……ちゃんと主人公してるやん! (・∀・) あちゃ〜。いすずに余計な情報を与えちゃったか。 でも、ガッツリ関わるのは避けられそうにもないし、不…
響くん、五十鈴ちゃんとようやく会えた〜! でも危険なワンコにも出会ってしまった! 響くん一人では危なそうだけど大丈夫かな……??
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。