暗い夜道と鬼ごっこ 2 side Kaguya
場面は変わって香久夜視点へ。
つまり主人公の出番はなしだ(o^∀^o)
(速い――)
前方を駆ける長い髪の女性。
思った以上に足が速い。
こっちは肉体強化を併用して走っているのに差が殆ど縮まらない。 その高い身体能力は生来のものなのだろうか?
「…なっ――」
前から、声。
「何で、追いかけて、来るッスかぁっ!?」
………普通の人間じゃないのは確か……。 薄い、妖物の気配……。 だけど……、今回の件には関係のない娘なのだろうか、やっぱり。
逃げられて、反射的に追ってしまったけど、放っておいた方が良かったかもしれない。
でも、この状況で追いつかずに止めるのも、正直癪に障る。 それに普通ではない娘があの学校に来ていた理由が知りたいとも、思う。
――っと、思わず今日の目的を忘れるところだった。
葦原くん ――彼は如何してるだろうか…?
あのまま待っているの……、だろうか?
昨夜から持続させている追跡の為の術は、わたしをあの学校まで導いたのに、わたし自身はあの屍の気配を探れていない。
わたしはあの場所に屍が居る事に確信が持てないでいた。
だからこそあの校門を潜らずに佇んだ。 佇んでしまった。
――前を走る娘を追い掛けながら、考える。
術の効果と探れない気配……。
状況だけを見るなら、あの学校に屍の居る可能性は半々、と言えなくもない……。
――前を走る娘を追い掛けながら、考える。 深く深く考える。
では、その状況を作り出せる理由はどうだろう……?
追跡する為の術の、対象をずらす事は……可能だろうか?
……いや、術者であるわたしに気づかれずにそんな事が出来る程、あの屍が魔術呪術に精通しているとは思えない。
なら、気配を消した?
でもどうやって? あの屍がわたしと同等以上の隠形を使えると言うのだろうか?
解らない。
――前を走る娘を追い掛けながら、薄い結界を張る。 非認識の結界。 見たものを認識させない為の結界を張り、わたしは翼を広げた。
不安……、そうだ、わたしは不安を覚えている。
何か仕組まれている様な不安、何処か脚本通りの様な不安。 だけど、そんなわたしの立ち位置に居るのは……彼、葦原 響。
――前を走る娘を追い掛ける為、飛ぶ。 こちらでは滅多に広げる事のない翼。 普段は使わない翼。
でも、彼に認識された時、広げていた翼。
普段広げないせいか、翼に、違和感……? 動かしづらい気がしたけど、羽ばたかせているとその違和感は風を孕む音に掻き消される様に、消えた。
益体ない思考を切り替え、前方を見る。 風切る音が耳元を駆ける。
狭まる視界の中、不意に前行く娘が振り返った。 視線はわたしの下へ。
……それも当然、わたしが居るのは彼女にしてみるなら、本来あり得ない場所。 なのに彼女の視線は自然に上へ向いた。
――即ちわたしの方へ。
「………――な∀#△’※(ω・゜)(ー;っヾбい(´д°っ!!??)」
……上げられたのは何とも言い難い、奇声……と驚愕に彩られた表情。 でも言うなればその反応こそが、彼女の「潔白」を表しているとも思える……。
そんな彼女にわたしは敢えて ――いつもの様に―― 無反応を装いつつ、翼を畳み急降下する。 気づかれたとは言え、簡単に反応できる状況ではない。
耳元を過ぎる風切り音。 体当たりする勢いで、一応若干照準をずらしたわたしの手は、それでも彼女を捕獲する事なく空を切った。
――躱された――!?
とは言っても、わたしは彼女の前に降り立ち、彼女は尻餅を突いた状態。 何とか勝負が付いた、という感じだろうか……?
「……やっと、追いついた……」
ホントに、「やっと」だ……。 追いかけた時点では、もっと早くこうなる筈だったのに、すでに住宅街を過ぎ最早駅近く……。 隠形を使っていたとはいえ、勘のいいヒトには見つかる可能性もあるのだから、際どい所だった。
「…――? ……っ! ――っ!?」
自然と息の上がるわたしに対して、彼女は口をパクパクさせながら目を見開いている。 その視線の先を確認し、わたしは翼を閉じた。
それを見て、彼女は完全に言葉を詰まらせる。 それでもその双眸に曇りはなく、驚いてはいるものの全く正気のものだ。 ……随分、肝が座ってる。
「……聞きたい事は、そう多くない……」
一方的に前置いて、わたしは言葉を続ける。
そうだ、多くは出来ない。 すでに余計な時間を使ってしまっている。 ……彼は、今、如何している?
わたしが手助けを頼みながら、そこに居らず、彼は……如何しているのだろう。
「貴女は如何してあそこに居たの……?」
待っているなら、いい。 帰ってしまっていてもいい。 いや、むしろ帰ってしまえばいい。
――だけど、あの奇妙な「静けさ」の中に踏み込んでいたら………。
あそこに何があるか、確証はないけど、未だ違和感が残る。
あそこに何があるか、理由はないけど、葦原くんを残してきた事に、蟠りが残る。
………それも「不安」である事に、わたしは気づく事はなかった。
こちらの追いかけっこは終了です。
さて、向こう側では……?




