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漆黒の天使 2 side other

 短めです。

 それとちょっとの間、現実恋愛の様なもどかしいシーンが続きます。



 翌日、担任の説教から解放された彼 ――葦原響は教室へ向かった。


 担任教諭の香取(四十路、男、最近結婚した体育会系美術教師)に響は「病気」の事を教えておらず、自然、遅刻欠席が多いとのお説教をよく受ける。 まあ、彼に教えるつもりは毛頭ないので、それはそれで仕方ないのだけど。

 ただ昨日は完全にサボってしまっている上に今日も遅刻しているので、多少時間が掛かってしまっていた。


 ともあれ、教室へ行けば、彼女 ――神巫(かんなぎ) 香久夜(かぐや)がいるはずだ。


 昨夜からの疑問を抱えたまま、誰もいない廊下を歩く。 リノリウムの床とスニーカーが擦れ、時折高い音を立てた。


 もう四時限目も終わる頃。

 丁度良いと言えば丁度良い時間。 昼休みは部活動をしていない人間にとって、校内だけで限定するなら話せる(ひまな)時間はもっとも長い。

 腕時計で時間を確認しつつ ――ちなみに当校、アプリの多いモバイル端末は原則的に持ち込み禁止だ―― 歩く。


 彼はひょっとして何かを期待しているのかもしれない。 そう思える、ちょっとした興奮。 それとは反面の、恐怖。

 こう考えると彼女に悪いのかもしれないが、これは楽しみにしているホラー映画を観に行く感じに近いのかもしれない。

 だがあれが現実(リアル)だとすれば、自分はとんでもない事をしようとしているという事だろう、と響は思った。

 あの刀でバッサリ殺られる可能性は否定できないな、と……そこまで考え、苦笑する。誰もいない廊下で口角が上がったのを自覚する。


 本当かどうか、ではない。 彼はすでにあの時の神巫香久夜を現実のモノだと認識している。 仮装や演劇(フィクション)ではないと、彼自身の躰が()っているのだ。

 興奮醒めやらぬまま廊下を歩く彼はふと思い出した。


 今教室に彼女はいない。


 というか誰もいないはず ――今日の四時限は体育だ。

 深くため息をつく。

 女子の担当教諭は時間のルーズさで有名だ。 人当たりは良いのだが、あまりに時間を守ってくれないせいで生徒内の支持率は半々という人物。 恐らく定時には戻って来るまい。

 緊張していたのだろうか、いつの間にか握っていた拳を開く。 汗ばんだ手のひらが空気に触れ、心地よい風の流れが少し高まっていたそっと体温を下げてくれる。


 ――ガラガラ


 誰もいないであろう教室のドアだ。 遠慮なく開ける。


 誰もいない教室。


 誰もいないはずの教室。


 なのにそこにはひとりの少女がいた。


 昨夜響と出逢った少女 ――神巫香久夜。



――チャイムが無機質な音を響かせた。




 教室に誰かが入ってきたことに気づいていないはずはないだろう。 だが、彼女はこれといった反応も見せずに、窓の外を見ていた。

 響はこれ幸いと彼女に視線を向けるが、彼女の鞄には特に不審物が入っているようには見受けられないし、彼女の背中に怪しい ――翼のある様な―― 膨らみもない。 昨夜のような肌の泡立つ感覚もない。


「………………」


 夢でも見ていたのだろうか。

 ふとそんな思いに捕らわれる。 投薬中に見た脈絡のない夢。

 しかし、彼は自身の感覚にある種の自信があった。 鍛えられた感覚。 研ぎ澄まされた感覚。 それは親代わりの祖父が開花させてくれたもの。


「……神巫、さん?」


 躊躇いながらも声をかける。

 他には誰もいない教室。 廊下から喧噪は届くが、それでも彼の声が大きく響いて聞こえる。

 声をかけられた少女 ――香久夜は思いのほか早く、それでいて強く反応した。


 ガタンっ


 勢いよく立ち上がり、反動で椅子が倒れる、音。

 残響の中、感情の見えない紅い瞳が響を睨んでいる。 感情は見えないと言うのに、そうと解るほど強く。


「ご、ごめん。 驚かせた?」


 慌てるのは響だ。 普通話しかけただけでここまで過剰な反応が返ってくるとは思わない。


「………………どうして、わたしに話しかけられるの?」


 昨日見たのと同じ白子(アルビノ)の様な風貌。

 そして昨日と同じ、抑揚のない声。


 やはり彼女だ。


「あ、いや、昨日のことが……、うん、その、気になって……。

…………?」


 文脈が変だと、気づく。


「話かける」ではなく「話しかけられる」。


 動機を訊いているのではないのだ。 何故出来るのかと訊いている。 まるでそれが本来出来ないことであるかのように。

 それを問う前に再び彼女が口を開いた。


「……昨日の事も、覚えている、の?」


 口調は平淡だが驚いているように見える。

 少し視線の質が変わっただろうか? 睨むと言うよりは見つめる。 一方で悪い言い方をするなら、値踏みするような、目。 視線。


「あ、ああ……」


 響の返事とともに騒がしくなる廊下。 級友たちが教室へ入ってくる。


「お、葦原(キョウ)、やっぱり重役出勤な」


 ちなみに葦原 響、読みは「ヒビキ」だがクラスメイトの半数はヒビキではなく「キョウ」と彼を呼ぶ。 まあ、あだ名だ。


「つーか今日長距離とわかっててサボったわけじゃねーだろうな?」


 話しかけてくるヤツ。


「そうそう、男子長距離だったんだね。 ご愁傷様」


「女子はなんだった?」


「砲丸。

 ローテーションが早かったからね~。 お陰で珍しく時間通りに終わったよ」


 話してるヤツ。


「Nooooo! サイフ忘れたぁ!」


「……ど阿呆」


「すまん、金貸してくれっ」


「すまん、500円(自分の分)しか持ってない」


 あっという間に昼休みの喧噪に包まれる、教室。


「……葦原君」


 抑揚のない声。 感情のない声。 学生の中ではある意味個性的な声が彼を呼ぶ。


 と、いっても呼ぶだけでそれ以上の言葉はない。 ついてこいと言わんばかりに歩き出すので、それはそれで解りやすいが。

 香久夜についていく響を見て、クラスメイトたちはふと言葉を漏らした。


「今、キョウ君どうしたの?」


「あぁ、あいつ。 ほら…………あ~、神巫についてったぜ」


「え? なになに、もしかしてつきあっちゃったりしてるの?」


「……つーか、あの二人の組み合わせって初めて見た気がするけど」


「それよか、えっと……神巫と誰かってのが珍しいんじゃね?」


「ん、あいつオレらより早く来てたけど、サボりか?」


「へっ? 出席取ってた時はいた、よねぇ?」


なおちゃん(せんせい)点呼取ってたじゃん」


「……………………いた、よねぇ……?」




直江なおえ 奈緒なお・・・女子保健体育を受け持つ、新人教諭。 24歳。

 明るい性格と親身になって生徒の相談を受ける姿勢から、「なおちゃん」と呼ばれ、そこだけならそれなりに人気があるのだが、時間にルーズなせいで、生徒内支持率はほぼ半々、一部の教師陣からも目をつけられていたりする。 独身。 彼氏なし。

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― 新着の感想 ―
公園で出会った少女とクラスメイトの香久夜、この二人が同一人物なのか、とても気になりました。 香久夜が何かを隠しているように感じるので、その正体や秘密が気になります。 その“何か”が明かされていくのを、…
神巫さんが何者か気になりますね……これからも応援させていただきます!
かぐやちゃん驚いたのは見えてないのに見えてたからとかかなと思いましたが…他からも見えてるのかw かぐやちゃんも不思議ちゃんだけど、キョウも不思議くん??
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