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漆黒の天使 1 side Hibiki

 一応の精査をしつつ、連載を開始します。

 世界観は以前から割烹等で言ってます様に『夜の彼方の裏側で』と同じで、今の現実世界と同じ様な地球に実は魔物達が隠れ潜んでいた、という感じになります。


 ゆっくりと歩を進める。


 蝕まれきっているという僕の体。

 絶望的 ――という程ではないと思う。 それでもその言葉が「望みがない」という意味なら正しくその通りだけど―― そんな気持ちを抱え、僕は足を前に出す。


 ――病院の帰り道。


 点滴を打ち終えた僕はつい眠ってしまい、こんな時間 ――夜の9時なんて時間に帰路についていた。

 こんな時間まで僕を起こさなかった医師は、いつも僕に入院を勧める。 僕はその度断っているのだけど。


 もっとも、そう出来るのも今の内、だろう。

 薬は徐々に強いモノになっている。 副作用だけでまともに動けなくなるのもそう遠い日ではない筈だ。 だけど今はまだ動ける、動けている。

 その原因を考えるなら、現代医学で延命できるだけマシなのかも知れない。


 僕がそのまま差し掛かるのは、いつも通りかかる公園。 一応ここを抜ければ多少のショートカットにはなる。

 だが、不思議と今日はそんな気分にはなれなかった。 ただ歩きたいのか、頭を冷やしていたいのか、自分でもよく解らないけど。


 公園の出入り口を横目に歩く。


 蛾が街灯に身を打ち据える音を耳に残す。


 もう少し歩こうか、と自分の気持ちを決めつけた時、


 ゾンっ


 と、嫌な音が耳を掠めた。


 聞き慣れない、音。

 それでも合えて例えるなら、硬い雪や凍った土にスコップを立てる様な音に似てなくもない、気がする。

 だが、こんな時間に ――その(たとえ)が正解だと言うなら―― スコップ? 死体でも埋めているというのだろうか?


 ――気にはなる。


 しかしそれは確かめる様な事だろうか?


 君子危うきに近寄らず。


 好奇心猫を殺す。


 そんな言葉が脳裏を過ぎる。 変なことには係わるなと言う名言。


 なのに。


 足が動いた。 申し訳程度に架かっている鎖を乗り越える。


 駆ける。


 何故だ。


 予感? いや、違う。 そんな気はしない。 少なくとも今、僕の頭にそんな思いはない。


 ならそれはむしろ本能だろうか?


 ――公園のほぼ中央。


 背筋に走る悪寒。 止まる足。 整えられない息、心臓。


 視界の中に小さな噴水。 揺れる葉桜。 月の光は今宵が満月であることを主張する。


 その月明かりの中、漆黒の翼を持つ純白の天使が。


 そこに    いた    。





 こちらに気づいたのだろうか?

 彼女の視線がこちらに向けられた。



 紅い瞳。 白い肌。 そして恐らくは白銀の、腰まで届きそうな長い髪。 まるで白子(アルビノ)のように思える風貌。

 白か、それとも薄い青色か ――そんなワンピースに身を包み、それとはあまり合わせた感じのしない野暮ったい運動靴(スニーカー)。 その手にはなぜか、日本刀。


 そして、そんな彼女の背に、あまりに不似合いな黒い皮膜の翼。

 一瞬、夢でも見ているのかと思う。


 ――異質だ。 異質で、異様だ。


 取り合わせ、でなく存在が。

 山中で熊に出会おうと、ここまで肌の泡立つような感覚は恐らく、ない。

 しかし、その実、彼女の瞳に他者を怯えさせる様な表情は見えない。 というより感情を窺い知ることができない。

 無表情、無感情。 そんな言葉が当てはまりそうな、人形の様に紅い瞳がただこちらを見つめる。


 ふと、そんな彼女の表情が少し動いた気がした。

 何処が、とはいえない。 どう、とも思えない。 ただ驚いている? ように思える。

 それに気づいた瞬間、彼女は僕の目の前にいた!


「!!??」


「……葦原(あしはら)君」


 感情のこもらない声が「僕」の名を紡ぐ。


 ――何故、僕の名前を知っている?


 問い掛けたいのに声が出ない。 体が、動かない。


「……ここで見た事、忘れてください」


 抑揚のない声で、彼女が言う。

 息のかかる程の至近距離で、紅い瞳が僕を捉える。


 YesともNoとも言うことが出来ない。


 恐怖。 そう、これは恐怖だ。


 人の姿をしながら、人でないものに出逢った故の恐怖。 傷つけられることへの恐れでなく、未知の存在に出逢った事そのものへの恐怖。


 そして、一方で、それ以上の死への恐怖。


 何故だ、何故ここまでこの少女に対し「死」を感じなくてはならない?


 何も答えない僕に対して、彼女はどう思ったのだろう?

 踵を返すと、振り返りもう一度、


「…忘れてください」


 とだけ言った。



 体が動くことに気づいたのは少し後。 頭が冷静になったのはもっと後だった。


「……………今の、神巫(かんなぎ)……さん?」


 そうだ、僕の名前を知っていて当たり前。 今まで一言も話したことのないが、今年からクラスメイトになったんだから。


 ――話していないのは、僕が、というわけじゃない。 彼女が誰かと話しているなんて見たことがない。 そもそも、今年クラスメイトになってから、誰か彼女に話し掛けるヤツがいただろうか?


 顔は、いい部類、だと思う。 今間近で見たばかりだ、間違いない。

 小柄な感はあるが、それも可愛いといっていいものだろう。


 なのに誰も話し掛けていない?


 クラスメイトどころか、……もしかすると教師すら?


 ……違う。

 話しかけるどころではなく……。 まるで幽霊のような。

 何故だ? あんな目立つ風貌で ――白とも言える様な銀髪を腰まで伸ばした紅い瞳のクラスメイトが……。


 ここは日本だぞ?


 何でその風貌で目立たずにいられる?


 見えてはいる。 担任だって出席は取っている。 なのに誰も彼女のことを気に留めていない。 「居るのは理解しているのに、認識できていない」ような……、そんな存在(クラスメイト)


 いや、違う。 恐怖に混乱したか? いま考えるべきはそこじゃない。


 あの翼。


 あれは現実(リアル)か?


 日本刀。


 あれで何かを斬ったのか? それがあの音なのだろうか?

 でも周囲にそれらしい形跡はない。


「……神巫さん、だよねぇ」


 呟く。 恐れを誤魔化すために、わざと声を出して。


 ――その程度の認識はあるのだ。 残念ながら。


 しかし、それより、


「クラスメイトに睨まれて、驚いてたんだな、僕…」


 未だ泡立つ肌。

 気のせいと言うことにしておいて ――しておこう―― 考える。


「明日、聞いてみようか…」


 彼女に言われたことを忘れたかのように、ボソリ。

 先程は確かに恐怖を感じたが、別に脅える必要はない。


 ――どうせ、僕は死と共にある――



 開き直った僕の耳に、蛾が街灯にぶつかる音がした、




 出逢いではなく、再会という訳でもないふたりの邂逅。 ただそれだけのシーンでございま。

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― 新着の感想 ―
あれ。Σ(-∀-;)ファンタジー!? ホラー!? ホラーみたいな出だしですね。しかし、刀が登場したら やはりファンタジー感が出てきましたね。 謎の銀髪美少女……。 新連載ファンタジーは、一体どういう路…
新連載! なんだか大変な様子の主人公さん……。ラストの心中に、諦めからの無謀さが透けるようで。この先が心配になります……。 皮膜の翼、コウモリ的なものを想像しました。 感想欄を拝見、もしかして代表作…
葦原が主人公の続編なんですね。 (・∀・) シリーズ設定をしていないのは、それぞれ独立した構成にするからですか? (´・ω・`) 始まったばかりだし、まだ次の展開が読めないので、続きをお待ちしてい…
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