闇の向こうに浮かぶは焔 2 side Isuzu
以前???だったキャラ視点です。
あたしは時計を見上げた。
教室のそれが指すのは「12」と「5」の文字。 5時か。
もう、こんな時間だ。
あたしは「アレ」に気づいてから、以前よりずっと早く下校するようになっていた。 アレ ――あの犬のような化物に目をつけられないように。
不思議な事にアレは校外に出てこない。 あたしが見ていないだけかもしれないけど、校外で見たことがない。 登校する時も下校する時も見かけない。
気づけば教室にいるし、いつの間にかいなくなっている。
だからあたしはさっさとこの場所を後にする。
このライオンの檻にでも入れられたような場所で、あたしがそれに気づいていると、怯えていると分らせないように、あたしは普段どおりの生活を心がけながら、早々に帰るようにしていた。
今日は掃除当番で遅くなったし、先生への連絡もあったからこんな時間になっちゃったけど……。
今日は先生も早く帰ると言っていた。
――あたしもさっさと帰ろう……。
そう思ってカバンに手を伸ばした時だった。
「ガゥッ」
突然の犬の鳴き声に体が一瞬固まった。
――しまった。
しまったしまったしまった。
犬じゃない ――この声はただの犬じゃない!
失敗した。
失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。 反応しちゃダメだった。
「アレ」の声は……普通なら聞こえない!!
まさか、こんなタイミングでこんな事をしてくるなんて。
「やっぱり気づいてたんだ」
――声。
アレの声。 アレが普段使ってる人間っぽい声。
そのくせ、人間っぽくない声。
人間の姿をしているくせに、口から発していない声。
振り返る。
振り返らなきゃ……怖すぎる。
あたしの後ろには……いつの間にか、「アレ」が、いた。
人の姿をして、犬の影を持って、人懐っこいような顔をしながら、どこか他人を見下しているような感じの、いつの間にか増えたクラスメイト。
「気づいてたんだよね、筑紫、五十鈴、さん?」
にっこりと笑いかけながら、一文字一文字確認するかのようにあたしの名前を呼ぶのは ――自称「筒川 北斗」。
そう言う名でこのクラスにいた、はずだ。 催眠術か魔法かは知らないけど、クラスメイトも先生もそれを知っていて、あたしも知ってる振りをしなければ、早々にこの状況になっていたろう。
だからといって、それが今になったことに、チャンスが生まれるかといえば、そうはいえないのだろうけど……。
「――気づかれない、と思っていたの?
バレバレよ、犬ッコロ」
声が震える。 体も震える。 でも精一杯の強がり。
だけど、今はそうしなきゃ。
意味があるかどうかもわからない、そんな時間稼ぎでも。
「へぇ……」
感心したような、声。 感嘆っていうんだっけ? と不意に授業を思い出す。
……意外とよゆーあんのかな、あたし。
「今の声でそういう発想に至った、って訳じゃなさそうだね。
前々からそこまでは気づいてたんだ? 結構普通の人間も面白いものだねぇぇ」」
……声が、妙に、響いて聞こえる。
アニメやマンガみたいに、怪しい空間に捕われた、ような感じはない。 でも確かにエコーのかかったような声。 変に震えて聞こえる笑い声……。
「ああ、面白い。
本当はな、俺の事気づいた奴ぁはさっさと喰っちマおうと思っテたんダケド、なぁ」
思わず笑ってしまいそうになるくらい変わっていくしゃべり方。 声が何重にも重なって聞こえるそれはまるで壊れて調子の狂ったスピーカーだ。
「アア、喰ッチマおうってな」「面白いカラナ」「ハハはははハははっ」「もうチョっと遊ぼうゼ」「泣き喚くダケデもいいがナァ」「ウヒャひゃひゃヒャひゃっひゃひゃヒャ」「儂等の仲間ニシテモいイか」「虚勢大いニ結構」「ガゲガェガェグェゲ」「喰おう喰オウ喰っちマおう」「ぎゃハハはははハハははッ!」
同時に聞こえてくるたくさんの声。
重なりすぎて聞き取れないけど、ただ「喰う」だけは聞き取れた、無駄に理不尽な恐怖。
あいつの後ろで持ち上がる影。 その影は開花する花や羽化する虫のように広がっていく、ふくらんでいく……。
あたしに見えていなかったモノ。
あいつは言った。
「そこまでは気づいていた」と。
そこまでは、と。 全部じゃないと。
あいつは、あの訳の分からない犬が人間に化けているだけじゃない。
その犬の中に、たくさんの何かが隠れていたんだ!
「そんな面白い筑紫さんにゲームを提案シヨう」
持ち上がる影。 ふくらみ弾けてしまいそうな、影。
蛇口につけた水風船のように、急激にふくらみ今にも割れる寸前の影。
あたしは ――身をひるがえして逃げ出した。 あの影が弾け散る前に。
「ルールは簡単ダ」
すぐに廊下に出たあたしの耳に、落ち着いた声が普通に聞こえてくる。
思わず振り向いてしまうけど、あいつがいるわけじゃない。 なのに普通に声が届いてくる。
「キミは逃げる」
走る。 あいつの言葉は続く。
「僕ハ追う」「ハハはははハはははハはっ」
走る。 階段を駆け下りる。
聞こえる声。 響き渡る声。
耳障りに重なる嗤い声が気持ち悪い。
「捕まれバ俺ノの勝ち」「ウヒャひゃひゃヒャひゃっひゃひゃヒャ」
なんで消えないのっ!? この声はっ!?
「逃ぃげ切レバぁお前のォ勝ち」「わヒャひゃひゃヒャガェガェグェゲガェ」
ホラーだ。 これは。
そして捕まればきっとスプラッタ。
「コチらの行動範囲は校舎内ノミ」
周りに、何か……かすかな光が点滅して見える。 あれって………。
「鬼ごっコ、昼休ミにヤッテただろう?」「ハはははハははハハはっ」
幽霊、だ……。 たくさん、数え切れないくらい……。
「何が鬼ごっこよっ。 鬼ばっかって反則でしょ!!」
叫ぶ。
文句しか出ない一方的なルールでも、あたしができるのはそれだけしかない。 ただ悪態をつくだけだ。
玄関へそのまま直行する事はできない。
スカート ――って言っても当然下はスパッツ履きだ―― をひるがえしながら、階段を乗り越え、もう一度上へ。
現れつつある不気味な光点をくぐるように廊下を駆け抜ける!
走り抜けながらあたしは、まだ校内にいるであろう一部の生徒や先生がどうなったのかを、ひどく気にしていた。
リアル鬼ごっこ、開始。 捕まったら鬼(要深読み)の仲間入りだよ。
しかし五十鈴視点は長くならないなあ(´・_・`)
○ 筑紫 五十鈴・・・ミニスカワンピにスパッツ、さらにツインテール、ツンデレ風味と言う萌えの集大成な小学生女子。 五年生。
強い霊視能力を持っている。
○ 一人称・・・あたし、
○ 特徴・・・見鬼、お転婆、状況把握、
○ 特殊・・・護身術、敏捷強化、耐久強化、後の先、戦術眼、
○ ヘレティック・・・なし
○ ミュータント・・・なし
○ クラス・・・見鬼、




