起屍鬼 2 side Hibiki
ピシャーチャはインド系の食人鬼でグール的な存在です。 女●転生とは違って目玉が触手みたいにプラプラしてる事はありませんが、強さはそれくらいの場合もあるでしょう。
久しぶりに聞く愁の名乗りを背に ――なんか途中で止まったけど―― 僕は駆けた。
愁ならあの程度の相手は問題にならないとは解っているが、ずいぶん一方的に任せてしまったなあと、少し反省しつつもそれは頭の隅へ追いやり、思考を切り替える。
走りながらも右手の感触を確かめる為に手をグーパー。 一度、ギュッと握りしめてから鉄鞘をそちらへ持ち換えた。
足の方はもう調子を取り戻している ――更に加速。
――今夜は不安要素が多い。
神巫さんがいない。
逆に、普段はいない「屍体」が山程。
そして途中参入してきた愁。
単純に考えるなら、彼女がいないのはあの屍体達の召還者、もしくは操作者と戦いながら移動して行った、というところだろうが、愁が現れたのがどうも解せない。
僕には効かない、彼女の張る人除けの結界。
それが愁にも効かない、というのは普通に考えるならあり得ないだろう。
確率的には全くのゼロではないだろうが、事実彼女の結界は今の今まで僕以外を遮断している。
――ひとつさんに関しては微妙なところか……。 来るにしても大抵戦闘終了してから現れてる気がするし、結界が解かれたから来るのか、その前から入ってきてるのか判断できない――。
何にせよ、今の状況だと結界が解かれていると考える方が自然だ。
戦いが終わった ――わけではないだろう。 今、彼女自身の戦いが終わっているとしても、彼女はあの「屍体」たちがどうなっているかは知らないはずだ。
僕が来ている事は知っている ――というか諦めている―― だろうが、「屍体」たちの処理を任せてくれる程僕を信用してはいないだろうし、そこにはそんな信頼もない。
――なら答えは真逆。
敗けたか、結界を張る余裕がない程の戦闘を続けているか、だ。
そして、その答えが視界に入る。
距離を取るふたつの影。 長刀を持つ華奢なそれと、酷く歪んだ、人とも獣とも言い難い影。
歪んだその姿に、何処か不安を覚えるのは気のせいか?
いや、それよりも。
神巫さんらしい影が随分と前傾姿勢になったというのに、相手がまるで応じていないのは何故だろう?
応じるつもりはない、とでも言っているのか? 表情なんて解るはずのない影に、笑みが見える気がする。 歪で、醜悪な笑み。 歪んだ性根が滲み出たかの様な、邪悪。
――足に力を込める。
――息を止める。
――加速する、心臓の音。
――耳の奥、血の流れさえ聞こえそうな鼓動。
――駆ける。
奴は ――誘っている!
予感ではなく確信する。 僕は、それを表現するなら「切る」はずであろう風さえ、水のように纏わり付く「速さ」の中、距離を詰める。
――彼女の、華奢な身体が瞬く ――奴の爪が振られるのはほぼ同時―― 当たり前だ、奴はそう来るのを見越していたのだから ――間に合うか―― モノクロの世界 ――僕の、肉体の極限―― 極限まで圧縮された時間感覚 ――――その中で――!
彼女の手にする刃が「奴」の顔を切り裂き、一方で甲高い音を立てたのは巨大な、猪の牙とでも表現出来そうな爪と僕の鉄鞘。 ギリギリ間に合った、絶妙なタイミング。
しかも今の攻撃は受け手としてもギリギリの一撃だった。
手に響くこの衝撃は、この鞘がただの鉄なら大きく歪んだ可能性すらありそうな、そんな攻撃だったのだ。
「――危ない、よ。 かん、なぎ、さ、ん……」
息が整わない。 流石に無茶しすぎたかも……。
「………葦原、くん?」
奴 ――うおっ、近くで見たらこいつも屍体か!?―― から反射的にだろうか? 距離を取りつつも、不思議そうな、彼女にしては珍しい表情で僕の名前を確認する。
僕も同じ様に「?不確定名・屍体」から間合いを外した。
って、臭いっ!
思いっ切り息を吸ったせいで逆に咽せそうになる程の腐臭が周囲を漂っている。
「ジャマ、モノ?」
しゃべるのか、コイツ……。
見た感じは屍体だが、その妙に変異している体躯はまるでコミックや映画に出てくる哀れな怪物の様だ。 何らかのウィルスや実験で被害者になってるタイプの。
だが、しゃべる ――つまり知能や知識がある、残ってるというのであれば、その怪物は被害者ではなく、むしろ加害者側ではないだろうか? 先程の屍体たちとは違い、自分の意志で彼女を襲って来ているのではないだろうか?
「……あんたが、彼女に……敵対して、るんなら……邪魔者、だな」
心臓の鼓動はまるで整わない。 バクバクと耳元で鼓動は鳴り響く。
だが、呼吸は整える。 多少苦しかろうと無理やりにでも。
神巫さんは強い。
剣だけの白兵戦やそれこそ単純な腕力だけなら兎も角、総合力なら僕より上だろう事の想像はつく。 それでもその華奢、というより幼いとも言える体躯からすると、腕力とか体力とかはある方に見えない。
霊とか相手なら息も切らさないけど、今の彼女はずいぶんと火照った顔をしているようにも見えるのだ。
彼女は、肉体的にはそんなに普通の女の子と変わらないんじゃないのか?
ならば目の前の怪物とも獣ともとれる「屍」は、そんな彼女の弱点を突くような存在だ。
相手をするなら僕の方が適任だろう。 相性が良い、とは言えないだろうが僕の方がやりようがある。
―― 一瞬だけ、呼吸を止める。 そのまま整えた呼吸で奴に向き合う。
だが、そんな僕を尻目に奴は跳ねた。 遥か後方へ。
「………」
疑問に思う間もなく、背を向け駆け出して行く「屍」。
「逃が――」
それを追おうとする僕を、僕の手を引いたのは神巫さんだ。
「追わなくてもいい……。 アレは直ぐに姿を消す、わ」
「だからってあんなモン放っておいたら――」
と言いかけて、止める。 それを理解できない彼女ではないだろう。 案の定、すぐに説明をしてくれる。
「あいつは今 ――今夜現れた訳じゃない……。 今夜、姿を見せただけよ。 今まで隠れてきたアレが、……無意に被害を出してその居場所を知らせるような事は、ないわ……」
僕の言いかけた台詞だけで、必要な事を教えてくれる。 無意に ――無闇に周囲に被害は出さないと。
なら、神巫さんが剣を交えた事に関してはどうなのだろう? 自衛? それとも無意でないのなら有意、ということか?
第一、
「そう言っても、まだそうだとは限らないだろう?」
少し言葉が強くなるのを意識する。 だってそうだろう? 被害なんてない方がいい。
「………言いたい事は解ってる。 でも今夜は無理……。
……これからは死者の時間よ」
彼女は深く息をしながら、そう言った。 そうか、神巫さんも消耗しているんだ。 それにこれからの時間帯は確かに良い時間帯とは言えない。
日中や今くらいまでの時間なら兎も角、これからの時間は月の魔力が「遍く公平」に降り注がれてしまう。
強い陽の魔力は浄化のちからも持つが、月の光は優しく全てに公平で在るのだ。
そのちからが最大になるのは月が天頂に輝く前後。
遍く公平なら関係なさそうなのだが、実際に戦うとなればその差は如実に現れる。
例えば衝撃エネルギーは質量×速度の二乗だ。
仮定する数値が1%違うだけでも上昇値はその倍以上。 そんなリスクはとても負えたものではない。
「アレの居場所は『追って』いるわ……」
ああ、術か。 便利だなぁ、神巫さんの術……。
「明日……手伝って」
「………………えっ?」
思いがけない言葉に一瞬フリーズしてしまった僕。 うん、かっこ悪い。
「……いいの、かな?」
恐る恐る訊いてしまう。
最初の内はホントにストーカーっぽかったのだと自覚しているだけに、余計訊かずにはおれない。
「……そうね、生半可な状態でついて来られても迷惑だから、ちゃんと準備して欲しいわ……」
いつも勝手に来て、危なっかしいから気をつけろ、と言うことカナ?
……それだと手伝いとは言わないか?
そんな事を思う僕の思考とは裏腹に、彼女は無表情ながらも悔しげに言葉を紡いだ。
「……多分、あいつにはわたしひとりじゃ……勝てないから……」
ああ、ちゃんと「手伝い」なのか。 仕方なし、っぽいけど野良猫でも餌付けできたみたいで、何か嬉しいかも。
「了承なら、明日。
……多分危険だから、他人を誘うのはお勧めしない……」
不意にそんな事を言った彼女の視線は僕の後ろを見ていて ――その方にはこちらへ向かってくるチンピラっぽい外見の友人が見える。
あっ……すまん愁、すっかり忘れてた。
視界に写る友人の姿を確認し、僕は今夜の事をどこまで説明したら良いのかと再度振り返るが、そこには神巫さんの姿はなく、ただ暗闇だけが佇んでいて――。
結局僕は詳しい説明をせずに、その場は誤魔化した。
もっとも帰り際に愁は、
「女か……」
と呟いていたのだけど。
神巫香久夜からパーティーの申請があります。
⇒了承する
断る
陽の魔力が殆どの不死者にデバフ、月の魔力が逆にバフです。 まあ高くても+1とかで、アンデッド以外にも普通に陽の魔力の苦手なキャラもいますし、細かな差異は彼方此方にありますけど。
月が天頂にある前後一時間くらいのみで、それ以外の時間は基本的には作用しません。 ただ強い適性を持っていたりすると、月が見えていればバフ、みたいになったりもします。
前作の、榊家の面々は色々と補正が付いてるので、陽の下でも結構平気で動き回ってますが。
隆盛は再生能力が非常に高く、ロジーナは自然抵抗があり。 栞は陽光耐性はありますが、実はちょっぴりダメージを受けてました(・・;) まあ、こちらも再生能力の範囲で収まってましたが。




