起屍鬼 1 side Kaguya
コメディタッチな主人公からシリアスを取り戻すべく(´・_・`)? 香久夜サイドは真面目にやりますよ。
でもやはり短い……。
ピシャーチャ、というモノがいる。
起屍鬼、または食人鬼と表わされる人由来の魔物。 死者が変質した魔物だ。
起きた屍体は鬼と化し、人を襲い喰らうという。
食屍鬼、黄泉返り、橿屍鬼等等種類呼び方は様々ではあるけど、そういったモノは確かに存在するし、つけ加えるなら、わたしの居た「世界」ではそういう存在は全く珍しいモノではない。
だけど、こちらでそういった存在を見た事はなかった。
今の、今までは。
いつもの公園、いつもの時間。
陽は沈んで久しく、園内にあるアナログ時計の針は長針短針共にほぼ真逆に、真横を指している。
そしていつもならわたしの周囲に集まってくる思念体や霊の姿は遠くて見えず、今そこにいるのはたった一体の屍。
ヒトのままでは持ち得ない牙と爪、それに腐臭。 口から汚濁した腐汁を撒き散らしながら、熊の様に肥大化した手を振り翳す。
――後ろへ跳んで避ける。
居てもおかしくはない存在。
動く屍体。 黄泉還った屍体。
だけど、この世の、普通の街中の公園に出るような存在ではない。
誰かに喚ばれたモノだろうか? 人の姿を捨てつつある「それ」は随分と古いモノの様に見える。
避けた瞬間、振り下ろされた爪が、反転して振り上げられた。
今度は横へ跳びつつ刀で受ける。
痛覚の無い死者には、本来の生体では有り得ない潜在能力を発揮できる者がある。
痛みという制御機能のない肉体は、自身すら破壊して余りある膂力を発揮するのだ。 更に加えるなら、痛みの無い肉体を使いこなす死者は、その身体を「本来動く事の無い形に動かす」者も居る。
たった今、わたしがされた様に。
今、目の前に居るコレは、その鉤爪を振り下ろした瞬間、弧を描くように反転させたわけではなく、手首を引っ繰り返して真逆に反転させたのだ。
即ち、人の知能と人外の肉体を兼ね備えた古種の起屍鬼。
――難敵だ。
難敵だが、わたしのする事に変化のあるものではない。 強かろうが弱かろうが、死者は死者の居るべき場所へ還すだけだ。
一閃。
しかし刃は巨大な爪に受け止められる。
わたしはすぐさま刃を引いた。
刀を掴まれでもしたらそれで決着が付きかねない。 そのまま刃を反し、連続して斬りつける ――が、躱され止められ反される。
再度連撃するが、鋼の刃を止めた爪には殆ど傷が無い。 今のわたしの力では、こいつの爪を切り落とすことは出来ないであろう事の証明。
――大きく後方へ跳ぶ。
屍が、こちらの動きを訝しげに思っているのが判る。
すぐに追撃を掛けてこない。
わたしは屍から目を逸らさない。 逸らさないまま公園を覆う結界を ――解いた。
「菊理。 目覚めて」
手にある刀に呼び掛ける。 呼び掛け、結界に回していた力を注ぎ込む。
神の名を銘に持つ長刀。 神話に於いてこの名の姫神は、常世と黄泉との媒介となったという。
だからこそわたしはこの神刀で死者を死に還す。
刃がほんの少し、光を灯す。 わたしから流れた力が菊理を伝わり、菊理から溢れた力がわたしへ循環していく。
「――――っ!!」
そして呼気と共に斬り込んだ。
受け止められる。 だが止まった瞬間、刃を翻し逆袈裟へ切りつける。
――浅い。
しかし更に打ち込まれた鋼刃は、今度は屍の獣爪を抉り取った。 ――もっとも獣爪と表現してもそれが獣の様に見える訳ではない。 辛うじて腕と解る肉塊に烏の嘴が五つ付いている様な代物で、実際「爪」と言うには余りに漫画的なモノだ――。
続けて、半歩足を引き、最速の位置で刃を振るう。
――獣爪が3本宙を舞った。
だが、安心はしない。 慢心もしない。
全力を以って、速やかに蹴りをつける――。
しかし、そう思えたのも一瞬 ――屍はその身を退いた。 距離は3m程。 一息に縮められる距離ではあるけど、奴の反応からすると厳しい距離。
「サスガ、テゴワイ」
喋った。
肉体的な能力は古種であるのに、人間的な意識は随分と残っているようだ。
普通こういった死者達は、死そのものを切っ掛けに自意識を喪っていくものが殆どだ。 死人還りとはいえその御霊はヒトのものに過ぎない。
ヒトの魂は変貌する肉体と同調するかのように変化していってしまう。 言葉を忘れ、目的も妄執も失くしていくのだ ――大抵は。
その「大抵」に当て嵌まらない、起屍鬼以上の起屍鬼が目の前に居る、という事実に不安を覚える。
と、言っても時間がない。
今のわたしは術によって一時的に強化されているに過ぎない。 これはそう長時間持つものではなく……、全力で動くなら精々3~5分といったところ…。
――否。
思考を切り替える。 なら時間内に切り伏せる――!
瞬動 ――葦原君を驚かすのに使ったアレ―― で一気に間合いを無くす。
肉体的な踏み込みと、呪術的な移動を併用したこれは、初見で見切れるものではない。
一瞬すら間を開けずに、屍は ――目前。
菊理は既に振り下ろされていて、 ――屍の爪も振り下ろされている!?
冗談のような、それでいて間違いのない相打ちのタイミング。
振り下ろされている最中の菊理でこの攻撃を防ぐ事は出来ない。 踏み込んだばかりの姿勢で身を躱すのはまず不可能。
――菊理はこのまま屍の頭蓋骨を断ち割るだろう。
そして屍の獣爪はわたしの腹を大きく抉る軌道を描いている。
運が良ければ生き残れる。 だけどそれでも……腹の半ば以上を持っていかれる羽目になるだろう。
下手をすれば、背骨ごと圧し折られ真っ二つ、の可能性もある。
こちとら花も恥らう乙女とだというのに、そんな殺され方は勘弁して貰いたいのだけど……。
と言って最早こちらもあちらも攻撃の繰り出された瞬間。
今から回避に転じてもどう考えても躱しきれない。 それどころかむしろこちらが一方的に打ち負ける形になってしまう。
それでは相打ちより悪い、ただの死だ。
呆れるほど長い一瞬を思考に費やし、わたしが覚悟を決めた時。
物語の主人公の様に屍の攻撃を弾き返したのは、いつもの闖入者だった。
ヒーローは遅れてやって来る(^○^) 在り来たりかな?




