side 14-2
「………あ。蕪木太郎。」
以前にもこんな事があったっけな。
そうだ。春先に川崎でミユちゃんにフルネームで呼ばれた時だ。あの時と同じ様に声を掛けられた。
「あれ?ミユちゃん?どうして此処に居るの?」
被服科エリアを出た空き教室から出て来たミユちゃんが俺達へと謎の圧を掛けながら向かってくる。
「………ココ、私達の母校なんで…」
「私達、3月までは此処の学生だったんですよ?」
「こんにちわ」後に続く様に姿を見せたのはお姉さんのユミさんだった。
そうか。この学校の卒業生だったんだ。それならば文化祭に呼ばれていても何も不思議はない。
「蕪木さんと、山口さんとこんな場所でお会いするなんて珍しいですね。」
「雷華の妹さんが在学生で招待を受けたんですよ。」
「そうでしたか。中々華やかな文化祭でしょ?」
今日もユミさんとの会話は差し障りの無い内容だ。
「………ね、ユミ。コレからどうする?」
「やっぱり機材の調子が良く無くてね。今日はもうトークショーに切替るか実行委員に確認しようかと思って。ミユちゃんはイケる?」
「………む…仕方がない…」
話から察するに多分、OBとしてエレクトリック⭐︎エコーがステージに呼ばれてる様だ。
「ユミさん、大丈夫ですか?何かあったのですか?」
「あのね。午後イチで私達のステージがあるんだけど、持って来たオケが上手く流せなくてね。ライブを予定していたんだけど…」
バックミュージックのトラブルか、音源が流せなくて内容を切り替える…てな感じかな。
自分達も同期演奏の打ち込みにトラブルがあったりするからよく分かる分、同情をしてしまう。
「………蕪木太郎にギターをお願い出来ないかな?」
まさに青天の霹靂。
予想を全くしていなかった提案がミユちゃんの口から出て来た。
「ミユちゃん!幾らお友達でも蕪木さんを困らせたらいけないわよ?完全にプライベートだし、ギターだって無いでしょ?」
「………軽音部に私の後輩が居るからギター借りればいい。」
「そう言う話じゃないのよ。ミユちゃん!」
俺もそうしてあげたいのは山々なんだが今からやれたとしても、ちゃんと期待に応えれる仕上がりになるか不安だから、素直に手が挙げれない。ごめん。
「───ユミさん。何がいけない?」
ずっと黙っていた雷華が初めて此処で口を開いた。
「宅録した打ち込みがちゃんと流れなくて…」
「ならばドラム音だけ打ち込みし直して俺と太郎で同期演奏しましょう。ギターが借りれればベースも借りれるでしょう。幸いエレクトリック⭐︎エコーの楽曲は俺達も知ってるから。ただ自前の楽器じゃないし練習も限られるから完璧では無い事は承知して欲しい。」
え───?
まさか雷華からそんな提案しちゃう訳?
そんな考えはどうやら俺だけじゃなくて、ユミさんミユちゃんも目を丸くして雷華を見ていた。
「でも…山口さん達にご迷惑では…」
「大丈夫です。やりますか?やりませんか?」
そこからは急転直下だった。
演奏が終わったら人達からミユちゃんとギターとベースを急遽借りにメインステージまで2人で向かう。
雷華は眞子ちゃん達と合流し事情を話してチャダを回収。
ユミさんはリスト変更しドラム音だけを打ち込む。本来ならドラムがクリック管理をするけど、叩ける人が居ないから俺と雷華で上手くやるしかない。
しかし、雷華があんな風に動くなんて意外だったな。
何時もだと静観を決め込む事が多いんだけど………
「雷華がああ言うの、珍しいね。」
思わずそう聞いてしまった。
姉妹は会場でリハをしている最中、借りて来た楽器でお互い練習をしている時に思わず聞いてしまった。
「いや…特別深い意味はない。単に何となく行けるかなって感覚で言っただけで…」
そして最後に「太郎に断りも無くて、ごめん。」と締めた。
「俺は別に良いよ。」
そうお互いに微笑むと、イレギュラーライブの開始時刻へと向かっていた。
アカシャグマも同期演奏を利用します。リズム隊の雷華とクリックは尚典。




