side 13-1
「おーい!さきいかかギョニソ無いかー?」
最近は本気で自宅の様な振る舞いをする大雅がチャイムを鳴らすと同時に扉を開けてきた。
「何故そのチョイス?」
「翔平君にそこで会ってさ、ザリガニ釣りたいけどスルメイカじゃ釣れないって。チョイス理由は僕の記憶。」
「さきいかは無いけど…魚肉ソーセージはあるかも…」
近所に流れてる小さな用水路で遊んでるんだろうな。翔平君。
そういや昨日もscreamに向かう時にお母さんと何かしていた様に見えてたけど、ザリガニを釣っていたのかもな。
ザリガニに興味を持つなんて、やっぱり何だかんだ言っても男の子だよな。やる事が可愛い。
「俺の記憶だと煮干しで釣ったな。煮干しも要る?」
「なら太郎も一緒に行こうぜ。」
どうやら大雅に餌を渡すだけじゃ済まされなかった様で。
戸締りをして大雅の後に続いて用水路まで出向くと、翔平君と一緒にチャダも隣に座って緩やかに流れる川を眺めていた。
最近本に興味を持ったチャダは近所にある小さな図書館へ1人で出向く事があり30分前に出掛けたかと思っていたけど、ずっと此処に居たのか。
「チャダも居たんだ。」
「あ!太郎だあ!」
此方を見ると大きく手を振ってみせた。
「図書館に行ってると思ってたよ。」
「うん。でもさ翔平君が1人で此処に座って居たからちょっと心配になっちゃって…」
確かに。いくらアパートから見える場所とは言え、子供が1人で用水路に居るのは危険かも。チャダの判断は正しい。
「翔平君は1人?」
「友達が居たけどみんな飽きて帰った。」
そう言う事か。そこでチャダが来て大雅が声を掛けたんだな。
「よーし。餌チェンジしよっか!」
割り箸にタコ糸な簡易的な釣竿を引き上げ、ふやけきったスルメイカをテキパキと大雅は外してゆく。
持って来た魚肉ソーセージを持っていた折りたたみハサミでザリガニが釣りやすい細長いサイズに切りタコ糸に括り付ける。
「すげ!大雅ちゃん、上手!」
「僕ん家の池にザリガニが数匹何故か住み着いてね。昔兄貴と良く釣って遊んでたからね。はい。これでどうだ!」
そういや大雅ん家のデカい中庭に池があったな。大層な錦鯉が優雅に何匹か泳いでいたのを見て、これぞ金持ちなんだと幼心に残ったものだ。
釣竿を手渡された翔平君は再び水面下へと餌を落とした。
穏やかに流れる水面を全員が黙って見入る。
「ザリガニが住んでるんだね。此処。」
「うん。だけど誰も信じてくれなくてさ。だからザリガニを釣り上げたかったんだけど…諦めきれない。」
それで昨日と今日と此処に居た訳なんだな。
4人じっとたこ糸の揺れを一点見つめる。
「太郎ちゃんはさ」
突然、翔平君が此方を見た。
「太郎ちゃんはさ、何かを諦めた事ってある?」
「そりゃあ…ね。」
20年も生きてると、達成出来ない事はちらほらある訳で。
「太郎ちゃん、最近そう言う事ってあった?」
「最近かぁ…最近は無いかなぁ…?」
努力で達成されるのもあれば、どう足掻いても達成出来ない物もあって、この歳になると目標も上手く選んで物事を進めて行ける様になるから最近は深く考えた事がなかったな。
「強いて言えば、俺もザリガニが見たいから一緒に頑張ろうかな?」
「じゃあ太郎ちゃんもザリガニ釣り一緒にやろ!」
恐らく一緒に居た友達が置いて行った物と思われる細い枝にタコ糸と持って来た煮干しを括りつける。
その流れで大雅、チャダと4人並んで即席・太公望達が誕生した。
時々近所のマダムやら爺様に笑われたが、お構い無しに翔平君の学校の話に花を咲かせていた。
ご近所さんからは仲が良い風景だと暖かく見守られていたらしい。




