side 11
鳰side
「ただいまぁ。」
1人暮らしだから返事は無いけど、ドアを閉めて鍵をかける。
玄関先の荷物置き場に鞄を置いて、スマホと蕪木君と買物したレコードと共に居間へと移動する。
蕪木君は今日も可愛いかったなぁ。
何時も普通を装っているけど、僕の話でコロコロ表情が変わるんだ。笑ったり悩んだり、何時も真面目に受け止めてくれる。
その真面目さが何時か傷付く事もあるんだよ?
そう忠告したいけど、多分蕪木君からそれを取ってしまったら魅力なんて無くなってしまうだろうから言わないでいる。
まぁ、大丈夫なんじゃないかな?
僕と違って蕪木君には信頼できる仲間がいるから。
居間にある小さな間接照明を着けてソファに身を沈める。
行きたかった所にも行けたし、沢山お喋りも出来た。でも
「今日も…やっぱり言えなかったなぁ…」
僕はずっと蕪木君に好意を抱いてる。
彼は普通の子なのは分かってる。だから気持ちを伝えたいと思うけど、今まで築いて来た関係を壊したく無いし嫌われるなんて死んでも嫌だ。
結局遠回りしまくって食事に行ったりサポートメンバーに呼ぶ事が精一杯だった。
多分もう会うのは難しくなるからと意を決して今日も誘った訳だけど、彼の「おめでとう」って笑顔を見たら気持ちを又飲み込んでしまっていた。
「あーあ。僕が女の子だったら良かったのに。良いよなぁ…特にミユちゃん。蕪木君と友達って配信で言ってたし。」
彼がオススメしてくれた中古レコードを手に取って見つめる。
別に男色って訳じゃ無い。女の子とも付き合った事もあるし、ただ同性への感情は彼が初めてで当初は戸惑ったものだ。
そして何時も色々考えた先は現状維持で。今回もそんな結論に至る感じだ。
「ん?」
照明に当たらないテーブルの箱から音がする。
「ただいま。起きてた?」
箱からちょこんと顔を見せてお供は笑っていた。
「そういや今日の蕪木君、お供と一緒じゃなかったな。でもあのお供…詩ちゃんだっけ。僕のお供とは全く違うからな。」
僕には物心がついた頃からこの雪だるまの様な生き物が何時も一緒に居た。
見た事が無い生物だったのでずっと「お供」と呼び色々な人に情報を集めたけど、小学校の半ば過ぎ頃かこれは他の人には気付かない通常とは異なる存在だと気付いてからは口を噤む様になった。
音楽をやる様になり様々なアーティスト達と一緒に過ごしていたある日、お供が居る人と居ない人に気付いた。そしてどうやらお供は才能に長けている人程、共存をする事に気が付いたのだ。
それを考えると蕪木君、もしくはアカシャグマは絶対メジャー側にやって来る。それにはお供にも理由がある。
今まで何体かのお供に会ったけど色々な事が出来る方が共にするアーティストにも影響する様で優秀な人が目立つのだ。生憎僕のお供は表情で今後の良し悪しを見極める能力しか無い。
だけど詩ちゃんはレベルが違う。
人と同じ姿をして会話で意思の疎通がここまで成立するお供は初めてだ。
先月のエレクトリック⭐︎エコーのライブで蕪木君と会った時は正直驚いた。だから正直にお供の事を言おうとしたけれど、新君のお姉さんって隠していたな。
お供と一緒に居ると隠しても分かっちゃうんだけどね。
しかしあの慌てた顔の蕪木君も可愛かったなぁ。思い出すだけでにやけてきちゃう。
僕にもお供が居る事を知ったら蕪木君、どんな顔するかな?
「お供は外に行きたくないんだよね?」
膝の上に飛び乗りコクコクと頷く。本当インドアな奴だな。
「それより聞いてよー!今日の蕪木君も凄い可愛いかったんだよ!僕のデビューをあんなに喜ぶのは彼だけだよ?本当大好きぃ…」
深い溜め息をつくとスリスリと僕の手に頬擦りをする。お供なりの慰めの行動だ。
「そうだ!僕の部屋に蕪木君呼べば良いんだ!でも呼ぶ理由だよね?どうしたら来てくれるかなぁ?」
お供は僕の問いかけにニッコリと笑いかけてくれた。
「でもなぁ…もし本当に彼が部屋に来たら僕、押し倒しちゃうかもなぁ…」
待て待て。本当にそんな事したら嫌われちゃうから気を付けなきゃ。そう心を穏やかに保つ様に努めた。
天使=チャダ=お供。謎の生物だから呼び方はそれぞれ




