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「人が凄かったよ!」
舞台袖から見たチャダが嬉しそうに此方に駆け寄ってきた。
そこそこ知名度があるバンドのSNS拡散は、それなりの影響力を発揮し箱の中は2階まで超満員となった。
見た感じファン同士が歪みあってる描写も無くて安心した。
それはワイルドドックの公式アカウントより辰治さんが早々に根回しをはかってくれたからだ。
記録用にと撮っていた動画を投稿サイズにいい感じで編集し、辰治さんと雷華も俺達のSNSへとそれぞれ投稿していたお陰だ。
さっきの男だらけのUNO大会のシーンとお互いのリハ風景。
UNO大会なんて永遠と和気藹々とした所を上手く切り取ってるから「実は仲良いんですよ!」アピールが半端ない仕上がりだ。
「これくらいの滑稽さが逆に良いんだよ。」
そう辰治さんが言ってたけど、どうやら本当の様だ。
その後の最後の通しでのリハはかなりドタバタだったけどね。
リハ中に気が付いた事は虎太郎君。昨日と声が全然違かった。
伸びやかで、だけど鋭く確実に胸へ食い込む感じに響いた。ギスギスしか無かった昨日とは比べ物にならない程だ。
昨日からの色々な蟠りが取り払われたお陰かな。うん。いい。
とりあえずゲストである俺達が18時開演と同時のスタートだ。
考えてみたら初めての遠征、初めてのゲストだ。
昨日今日だけで色々あって密過ぎるから忘れてた。ヤバい。気がついたら急に緊張してきた。
「太郎、大丈夫?」
察したチャダは心配そうな顔をして俺の顔を覗き込んできた。
「ああ。急に緊張してきちゃって。」
「大丈夫だよ。」
そっと俺の左手を取ると、両手で包み込む様に握りしめる。
何時もと同じ暖かさに不思議と緊張が和らいできた。
「大丈夫だよ。太郎は、アカシャグマは今日も成功するから。何時も通りに全力で行こうよ。ね。」
「ありがとう。」
「蕪木サン、何イチャイチャしとるん。」
ぶっきらぼうな台詞でやって来たのは虎太郎君だった。
「別にイチャイチャでは…」
「チャダに手ぇ握って貰って。甘えん坊か。」
うーん、そうでは無いんだけど、コレは明らかに虎太郎君がヤキモチを妬いて絡んできてるな。
「虎太郎君は緊張しないの?」
「は?此処は俺達のホームだわ。緊張もクソもねぇわ。」
「凄いね。俺はscreamですら毎回緊張すんだよね。」
「蕪木サンのメンタル弱すぎやん。」
「そうかもね。」
「ってか!何時まで手ぇ握ってん!もういいだろ!」
何時もの調子で苛立ちながら俺とチャダの手を解いてきた。
さっきの件からどうやらチャダには心を許してるんだろうな。
それを含めての好意なんだろうな。少しぶっきらぼうな雷華が増えた気分だ。
「虎太郎君もやって貰う?」
「べっ…別に、俺は緊張して…なんか…」
「チャダ。虎太郎君も実は緊張してるらしいよ。」
「分かった!」
少し顔を赤らめた虎太郎君の前にチャダが向き合うと、両腕を伸ばしてゆっくりと優しく抱き留めた。
「本当だ!虎太郎、凄いドキドキしてるよ!」
「そうじゃない!そうじゃないっ!!耳を胸に当てんな!」
彼が言う通りライブのドキドキじゃなくて、チャダに抱きしめられてのドキドキなのは充分に分かっている。
「虎太郎もさっきの練習、凄く格好良かったよ。」
「………お、おん。」
「チャダは今日のライブ楽しみにしていたんだ。頑張って!」
「んな事!当たり前だわ!」
「はい終了。此処まで。もうダメです。」
いつの間虎太郎君の背後に雷華達がやって来て、今度は雷華がチャダの腕と虎太郎を引き離していた。
「何するん?山口サン!」
「ウチのに手ぇ出すなんて、138億光年早いわ。」
「見りゃ分かるだろ!蕪木サンの指示でチャダから抱きついて来たんだよ!」
「虎太郎の発言は基本俺は認めない。」
「自分、鬼畜すぎやろ!」
チャダを挟んで雷華も虎太郎君も元気だなぁ。お陰で完全に緊張が払拭されたよ。
「ホラホラ。悠兎さん達が虎太郎君を探していたよ。雷華ももういいでしょうに。」
「アカシャグマでマトモなのは新サンだけかよ!!」
そんな捨て台詞を残して虎太郎君はダッシュで撤退していく。あれ。俺も意地悪な奴に認定されてしまった様だ。
「太郎、ぼちぼち18時だよ!開演だ。」
大雅の声を合図にしたかの様に客席側が暗転するのが分かった。
意外とウブな所がある虎太郎(高校生)




