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あれから一夜明け、本番当日に変更が起こった。


口コミやSNSで昨夜の怒号MCのやりとりが拡散され、それを面白がってか昨夜中に今日のチケットは完売してしまったそうだ。そこで急遽当日券として2階を開放する事に決まった事を関口さんより朝イチで報告された。

「しっかし、虎太郎と大雅君は知り合いだったんだね。」

オーナーの関口さんは本件の反響を受け、ご機嫌な様子だ。

「僕的には大した交流は無かったんですけどねぇ。」

少し困った表情の大雅を見ながら、改めて昨夜のやり取りを思い出す。





「ああ!悪い悪い。虎吉じゃなくて虎太郎だったわ。」

「だだくさな事を言うな!」

「別に喧嘩しに来た訳じゃないんだからさ、明日は仲良くやろうよ。」

「たわけ!俺は喧嘩するつもりで来てるんだ。明日は覚悟しとけ。」

「拳(ゲンコ)は出さないけど、音楽でだったら幾らでも喧嘩の相手になってやるよ。虎吉。」

「俺はこ・た・ろ・う!だ!もっぺん言ったらしばくぞ!」

「ほらほらオーディエンス待たせたままにしないよ?フロントマンはちゃんとしなきゃ。ねぇ虎太郎君?」

ボーカル虎太郎の荒げた声を最後まで聞きもせず、楽しそうに笑う大雅は元の席に戻り手羽先に再び手を伸ばしていた。

振り返ればあれは挑発発言と捉えられるよなぁ。

宿泊先へ戻る途中に改めて聞いてみたけど、本当に親父さん同士が友達らしくて何回かお互いの家に行き来していたそうだ。

虎太郎とはほんの数回しか会った事が無いらしく、子供同士の交流は皆無だそうだ。

しかしボーカルは何故あんな突っかかる態度なんだろうか?

大雅の奴、実は無意識に何かやらかしていたんじゃないのか?





「そっかあ!じゃあ関口さん、かなりの人が来るカンジ?」

「当日券入れて500人程度の動員予定よ。」

「アカシャグマ史上初だね!500人を前にするのは!」

楽しみ〜って本当に他人事の様にはしゃぐなぁ。大雅。

俺達はゲストであって、此処はアウェーなんだよ?敵地なんだよ?お客さんの殆どがワイルドドックのファンなんだよ?

それを考えたら昨日から変な緊張が止まらないよ。俺は。

それと、みんな何も言わなかいから聞き違いかもしれないけど、ボーカルが荒げた声を出し切った後に言った一言。


「まぁ、天使と一緒なら今日はもういいわ。」


そう言ってオーディエンス向けのMCとライブ再開となった。

天使って何?何を指してる?

此方を見ながらの言葉だから、明らかに俺達の事だろう。

もしかしたらチャダの事か?逆に心当たりがチャダしかない。

チャダの事だったらこの生物の生態を知っているのか?ならば彼等からチャダは何者かを教えて欲しい。

でもあれだけ噛み付かれて、此方も大雅が挑発もしてるからな。簡単には教えてはくれなさそうだな…。


「え?それってどうなってるの?」

チャダの質問で我に返る。

俺の悪い癖だ。余計な事をごちゃごちゃ考えてしまう。きっと聞けるタイミングがあるだろう。その時までに質問を揃えておけば良い。

「指一本なら通せそう!」

「通してみる?別に良いよ?」

チャダのレスポンスに聞き覚えの無い声に反応し振り返る。

長い黒髪を耳にかけ、左耳拡張中のピアスホールを見せてしゃがみこむ全身黒尽くめのメタルファッションの男性。ワイルドドックのドラマーだ。

名前は悠兎(ゆうと)さんだっけか。

「凄い!痛く無いんですか?」

「うーん。余り感じなかったかな。」

大きく広がる穴に指を入れてお互い楽しそうにしてるよ…。

いやいやいやいや!

「どうしてワイルドドックが…」

「ああ、そうか。君が天使の所有者かな?」

キタ!天使!やっぱりチャダが何かを知ってるんだ!

天使とは。

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