side 7-2
西内由紀恵side
「良い!凄く良いよ!私の見立て通りだわ!!」
今日もテンション高めな笑い声で恵子さんは叫んだ。
チャダには早めに来て貰い、このお店のマニュアル説明を簡単に一通り終えてから制服に袖を通した所だった。
正直似合うかどうかと聞かれたら、凄く似合ってる。可愛いから後で一緒に写真撮ろうっと。
「恵子、この子が今日のヘルプか?」
「そう!詩ちゃんことチャダよ!ニックネームの方がインパクト大だから、ネームバッチはチャダのままで行くわ!」
「随分とご機嫌だね。」
事務所にやって来た筋肉隆々のカフェマイスターである大吾さんは恵子さんの旦那様でもある。
常時カウンターで大吾さんが睨みを効かせてるお陰でこの喫茶店の女の子達は安心して働けてるのだ。顔も身体も声も柄が悪く見られてしまうが、コーヒーや紅茶の繊細な味を引き出す事が出来るから尊敬してしまう。
「ならチャダと呼ぼうか。」
「はい!」
新人さんは高確率で大吾さんにビビるんだがチャダは元気に返事してる。流石ね。
「困った事があれば直ぐに由紀恵に頼るんだ。もし変な客に絡まれたら左手を挙げろ。俺が行く。合図だ。」
「わかりました!」
「宜しく頼むよ。」
そうチャダの肩を軽く叩いて大吾さんは持ち場に戻って行った。
「ねぇ由紀恵さん、そんな変な人が来るの?」
「どんなお店でも一定数いるものなのよ。クレームつける人、高圧的な人、女の子にちょっかい出す人、予約して来ない人。此処は女の子が多いし、制服から見てコンカフェと勘違いして過剰サービスを要求される事が多いわ。」
「ふうん。」
「困った人は殆どがマイスターが対応してくれるから、もし私が近くに居なくて絡まれたら即左手挙手ね。」
コクコクとチャダが頷く。
今日はカウンターに大吾さん。給仕は私とチャダの2人だけでキッチンはオーナーが入る。場合によってはオーナーが給仕に入る予定になっているが、基本土日は忙しいので騒がしい休日になりそうだ。
土日祝日は昼の12時よりオープンとなる。
人員不足の為、事前にカフェとスイーツのみの提供とネットでも呼び掛けていたが開店前でも沢山の人が並んでいる。
ざっと8割は埋まるな。今日も忙しいぞ!
「チャダ、大丈夫そう?」
「うん。昨日から接客業について調べたし、さっき教えてくれた通りに頑張るよ!」
よし、良い笑顔だ。私も負けじときゅっと口角を上げてみる。
オープンを迎えると次々と席が埋まってゆく。
意外だったのはチャダの動きだった。
当たり前だけど新人さんはどう動けば良いか分からないので立ち回りが上手くないんだけど、常勤スタッフ並みに動いてる。
本人曰く、昨晩は接客業について調べたと話していていたけど、それに加えてさっき説明したマニュアル通りに動けるって凄い。実は働いた事があるんじゃないかな…?
「由紀恵さーん。」
「どうしたの?チャダ。」
「座席番号が右回りから数えるか、左手周りから数えるか分からなくなりましたー!!」
申し訳ないけど、チャダはこうであって欲しいわ。
多分恵子さんが望んでいた光景はコレなんだろうなぁ。と慌てるチャダを見ながら微笑んでしまった。
基本カウンターから動かないマイスター・大吾さんがホールに降臨する時は「死の宣告」と常連客からは言われている。




