side5-2
大雅side
「失礼します〜。お待たせしました。」
姉が姪っ子を連れて客間へとやって来たのは、トレーを受け取ってから15分経過していた。
「お待たせしてごめんね。莉子のおむつが暴発しちゃってね。お着替えとミルクを済ませてきました。」
姉の腕に抱かれるまま、スンとした顔で姪っ子も部屋に入って来る。
「詩ちゃん、はじめまして。古川莉子です。よろしくね。」
チャダの前まで来ると、声色を少し変えて姉が姪を紹介する。
「はじめまして。チャ…いや、詩です。可愛い…!」
「抱っこしてみる?」
「わ…たしですか?でも、赤ちゃん抱っこした事が無い…」
「だいぶ首もしっかりしてきてるから大丈夫よ。教えてあげる。先ずは頭を支える方の肘に莉子の首を支えて…」
テキパキと指示をし、おずおずとチャダは姪を抱き上げて姉と楽しそうに視線を交わしていた。
この家の人間は男連中が多いせいか新鮮なシーンに見える。
「大雅!見て!抱っこ出来たよ!」
嬉々とした笑顔のチャダが此方を見た。
「上手じゃん。」
えっへん!と言わんばかりの表情を見せる。
「わあ!莉子ちゃん笑うんだね!」
「最近少し表情がつく様になったの。赤ちゃんって凄いわよね。毎日の時間経過は同じなのに、彼女はそれを超える様に凄いスピードで成長しているのが分かるの。」
「お姉さんも大変でしょう?」
「ぶっちゃけ大変。本当、親の凄さに頭が下がりっぱなしよ。」
退院してから戦場の様だった。
ウチは本人の他にも兄貴や義母にあたる母さんと僕も育児参加をしていたのでその凄まじさを毎日見ているけど、本当に世の中のお母さん達は凄い立派だなぁと実感している。
「良かったら詩ちゃん、また来てね。」
余り滞在しても気を使わせてしまう。との事でチャダとは昼前にはお暇する予定を組んでいたのだ。
1時間程度の滞在だったが姉もリフレッシュ出来た様だ。
「はい。機会があれば。」
「あと、さっきは変な事言っちゃってごめんなさい。嫌じゃ無ければまた私の変な話でも聞いて欲しいわ。」
変な事?何だろうか。
チャダを送った後に約束があるからと姉には外出の旨を伝えて家を後にした。
ある程度の距離を歩いた所でチャダに聞いてみた。
「チャダ、変な事って何かあったん?」
「変って訳じゃないんだけど…」
どうやら僕がトイレで席を外した時の出来事だったそうだ。
『ありがとうね。』
『今日来てくれた事もそうなんだけど、何となく詩ちゃんにお礼を言わなくちゃいけない気がしたの。不思議ね。』
『おかしいよね。疲れかしら最近不思議な事を思い出したり考えたりしちゃうの。これがマタニティブルーってやつかしら。困っちゃうわね。』
そんな事を姉から聞いたそうだ。
「もしかしたら…赤ちゃん産まれる前のチャダ、バレてた?」
真っ青な顔して慌ててるけど、丸っこい人形みたいな姿と今の姿と同一とはならないから違うと思う。
「流石に間違え様がないでしょ。大丈夫じゃね?」
「そう?そんなものなの?」
「平気、平気。」
ただ違うと思うけど、何かを感じ取ったのかもしれない。
ポンとチャダの頭を撫でてやるも眉間に皺を寄せたままの顔でいる。
「………いや、やっぱりチャダってバレてたかもな。」
「やっ…やっぱり?!」
余りの慌てっぷりに声に出して笑ってしまった。
「大雅!笑い事じゃないんだよ!!」
「嘘、嘘。冗談だって!バレてないよ。」
むう…と頬を膨れた顔でチャダは僕を見上げる。
「もし何かあっても僕が何とかするって。僕達が正しいかな。だからチャダは気にしない。な?」
正直、正体不明のチャダに何かあっても僕に出来る事は限られてくるのは分かっている。
でも一緒にいるなら可能な限りは守ってやるつもりだよ。
「ほら、チャダ。今朝電車の中で話していたクリーム山盛りのパンケーキ食べに行くんだろ。」
「………行くっ!」
流石はチャダだ。パンケーキを出したら食い付いてきた。
「ねぇ大雅。夕方まではどうするの?」
「どうしようか?じゃあ揶揄ったお詫びとして、今日はお嬢様の仰せのまま致しましょうか?」
これでひとまず機嫌は直して貰えるかな?
僕達はひとまず駅へと向かって行った。
チャダ的には赤ちゃんに興味津々。実は理由がある様です。




