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「箸の持ち方はこう。上はこう持って下は中指と人差し指の間。」
「う…うん。」
「掴む時は上の箸を動かす。こんな感じ。」
「意外と難しいんだね…。」
「そうそう。でも上手だよ。後は慣れだから。チャダは早く覚えると思うよ。」
えへへ。と照れ笑いを見せながらチャダはぱくりと茹でたブロッコリーを口にした。
「言われてみれば、太郎は箸の持ち方綺麗だよな。」
「ウチは母さんに叩き込まれたんだよ。作法が美しいと貧乏でも美しく見えるって。」
実は箸だけでは無く、所謂『マナー』については母親に厳しく育てられて来た。俺だけでなくウチの子供は全員通った道だ。
逆に祖母の方が「子供なのだから最低限の作法で良い」な考えだったので母娘で衝突していたのは時々あった。
確かに厳しかったが、この年齢になり家族以外の人達とやりとりをする中で教えて貰った事は必要な事だったんだなぁ。と気付き始めたと同時に感謝をした覚えがある。
「僕も持ち方少し違うから、今から矯正しよっかな。」
「いいんじゃない?」
「叔父さん、箸上手だねって言われたい。」
例の姪っ子ちゃんか。今0歳だよ?どれだけ先の話してんの?
「ねえねえ、大雅。今なら赤ちゃん見に行けるかな?」
「そうだな。ちょっと姉さんに聞いてみるわ。」
家にある物で朝食を済ませて大雅は午前中に講義があるからと慌てて支度し、終わったら戻ると言って出掛けて行った。
さて。今度は此方のチャダだ。
とりあえずさっきのTシャツと俺の部屋着用のハーフパンツを履かせてとりあえず肌色面積は何とかなった。
服はある物と靴は夏用サンダルを履いてもらおう。いずれも後で買いに行くしか無いな。あとは下着か。流石に無いわ。
姉妹達の洗濯をしていたからどんな物を買えば何となくは分かるけど、どうしたら良いの分からない。俺が買いに行ったとしてもレジ迄のハードルがエベレスト級高い。無理だ。もうネットで買物しちゃおうかな…1番無難な選択肢だ。
「太郎!ゴミまとめたよ!」
家の事を手伝うって話になったので、先ずは部屋のゴミをまとめて貰った。何時も見ているせいか手際良く片付けてくれた。
「外出た電信柱の所に持ってくんだよね?いってくる!」
「そうそう。ありがとう………って!ちょ待った!チャダ!」
玄関前で引き留める。その格好で外出は不味いだろ。
「どうしたの?」
「俺が捨てに行く。チャダは待ってなさい。」
「えー?すぐそこじゃん。大丈夫だよ!」
「俺が行きます。」
ゴミをチャダから回収し靴を履く。納得いかない表情でチャダが此方を見た。
「なら玄関先の廊下から見ていていい?」
「まぁ。それなら良いよ。」
夏用サンダルを出してやり、共用スペースの廊下から見下ろしていた。何か不思議な感じがする。
ゴミを出して戻ろうとした時、くいっとシャツを引っ張られた。
「太郎ちゃん。」
振り向いて引っ張った人物を確認すると、真っ青なランドセルを背負った男の子だった。
「こら!翔平!おはようございますでしょ!」
「蕪木君、ごめんなさいね。」とお母さんも後から走って来た。この母と子は1階に住む林親子である。
旦那さんが単身赴任らしく姿を見た事が無いが、お母さんと息子の翔平君と2人暮らしで確かこの4月で2年生になったのかな?何故か俺に懐いてる様で会えば話かけてくる。ちょっと可愛い。
「あの子、太郎ちゃんの彼女?」
翔平君の指挿す方を見るとチャダが手を振っていた。
「あ、いや…」
「翔平!野暮な事は言わない!」
「いや、翔平君、あの子は彼女じゃなくて…」
ここは何て言うのが正解?友達?知り合い?妹?が無難か?
飼ってます。これが適切なんだが、言ったら俺の人生終わる。
「……………親戚の子が遊びに来てます………」
頭を働かせたが、結局出た言葉は無難なこれになった。まあとりあえず良いか。
「なーんだ。太郎ちゃんの彼女じゃないんだ。」
「もう!翔平はそんな事ばっかり言ってないで学校遅刻するわよ!蕪木さんも本当朝からごめんなさいっ!」
おませなお子様を持つとお母さんも大変だな。
「あ、俺は気にして無いので…。これから登校なんですね。」
「そうなの。朝から翔平がダラダラしちゃって…もうこのままだとまた遅刻よ!ママ今月はもう車出さないからね!」
「はーい。じゃあヒカリちゃん達が待ってるから行くわ。」
「そうか。ヒカリちゃんって翔平君のお友達?」
「ううん。彼女。」
彼女。待てよ、今「達」って言っていたよね?複数形ですか?今時のお子様って、ませてるなぁ。
「じゃあねえ!」と弾むランドセルと共に小走りで駆け抜けて行った。
そして彼女が居ない俺の心が無垢な心で抉られたのは黙っておこう。
1階に住む林親子。ご主人は時々帰宅している様ですが、太郎は会った事はない。
お母さんはカーシートのデザイナー、翔平君は少し離れた小学校に通ってます。




