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「あ。蕪木太郎。」
まさか突然フルネームで呼び止められるとは思わなかった。
吸い込まれそうな黒目から此方も視線が外せなくなった。
えーっとこの子は…どっちだっけな。
「ミユちゃん…で良かった?」
コクン。と彼女は首を縦に頷いた。
彼女は「エレクトリック⭐︎エコー」のメンバーでライブハウスscreamの人気No.2の実力者である。
元々は双子の姉であるユミさんと一緒に『双子で90年代ヒット曲を歌ってみた』の動画配信を行なっていたのが始まりで、最近はオリジナル楽曲を引っ提げて活動の幅を広げて今では鳰君の次に観客動員数を叩き出してるよく言えば「ライバル」である。
まぁ…実際には本人はどう思っているか分からないけど。
ちなみに一卵性双子なので彼女達を見分けるには難しい所があるのだが、俺の場合はややつり目な方が妹のミユちゃんと判断している。
「………先日はお疲れ様でした。」
ぺこりと頭を下げるとあわてて俺も頭を下げる。
「此方こそ。久しぶりの癖にミユちゃん達の前で…。」
「…そう言う割にはしっかりとオーディエンスを巻き込んで終えてましたよね。謙遜し過ぎだと思いますよ。」
そっちこそ、最終的にはその熱気をしっかり自分達の物にしちゃってるんだから。俺からしたら流石ですね。としか言えない。
「………今日はお買い物ですか?」
「ああ。親父へのお土産を買いに。ミユちゃんは?」
「………ユミと次の配信用の機材を見に来ました。マイクが古くなってしまったので。」
……。
………。
……………。
全然会話、続かねぇ!!!!!
正直な話、女性と話すのは得意じゃない。寧ろ苦手だ。
ウチの姉妹達や渚さん、眞子ちゃんとか知ってる人なら問題は無いんだけど、それ以外の女性には何話して良いのか分からない。だからこんな感じで沈黙を作るしかなくなる。
こんなタイミングだけ大雅のコミュニケーションスキルが羨ましく思えてしまう。
「ミユちゃん、お待たせ。あら。もしや蕪木さんです?」
そんな助け船を出してくれたのは姉であるユミさんだった。
「先月のイベントはお疲れ様でした。アカグマの音楽は変わらずキレがあってとっても良かったです!」
「ありがとうございます。だけどエレクトリックエコーにはまだまだ勝てませんよ。」
「お世辞でも嬉しいです〜。」
姉のユミさんは温厚なタイプで比較的話し易さもあり差し障りの無い会話が飛び交う。
妹のミユちゃんは俺と同じで慣れるまでは上手く話せないタイプなんだろうな。その気持ちよく分かるわ。
「ユミ、買物終わった?」
「ええ。在庫が無いから来週メーカーから直送して貰う事にしたわ。今夜の配信は何時ものマイクでやりましょう。」
「…分かった。」
殆どステージ上の彼女達しか見た事が無いけど、こう見ると普通に仲が良い姉妹なんだなぁと思う。年齢に幅があるウチの姉妹には先ず見ない無い光景だ。
「それじゃあ蕪木さん。私達は行きますね。」
「ああ。はい。お気をつけて。」
「そうだ。来月の定期ライブがあるんで是非来てくださいな。円堂さんにチケット渡しておきますから。」
「マジですか?是非!」
そうは言ってもエレクトリック⭐︎エコーのチケットは人気が故、中々入手し難いので正直嬉しい。作曲の良い刺激になりそうだ。
商業施設の人混みに紛れる2人を見送ると、しゅっとポケットからチャダが顔を出して来た。
「このまえみた!チカチカしたおんなのこだよね。」
チカチカとは彼女達のサウンドからきているんだろう。
矢張り先日のイベントの時にはバックヤードでチャダは飛び跳ねていたもんな。俺達が終わった後もずっと踊っていたけど、あの元気は何処からきてるんだ?
「そうだよ。今度ライブ来てって。」
「チャダもいく!」
連れてかないとサブレの缶を叩いて騒ぐ癖に。
「あのこたち。」
「どうした?」
「あのこたち、すごいね。それぞれもつパワーもすごいけど、ふたりだといろいろなちからがはたらいて、たくさんのうずにまきこむの。」
ふーん。確かにライブを見てるとそう思えるフシはある。
「しあわせなの、あのこたちのうたって。とてもきれい。」
「確かに2人のハモりは綺麗だと俺も思うわ。」
うんうん。と嬉しそうにチャダは頷いていた。
エレクトリック⭐︎エコーの基本データ
ユミ(姉)→温厚、癒し系、ゆるふわ、見た目によらず何でも出来ちゃうお姉さん。
ミユ(妹)→人見知り、無口、控えめ、不器用、裁縫でなみ縫いが真っ直ぐにならない。




