side 2-2
大雅side
取り急ぎ兄に連絡をし、姉には病院の指示通りその旨を病院へ連絡して貰う。
その間に車を回して入院の荷物と兄に教わった通りに後方座席のシートにタオルを何重にも重ねておく。
破水しても羊水が蛇口の様に出る訳では無いが、じわじわ出てくる為らしい。本当知らない事ばかりだ。
分娩は親父の総合病院ってのは分かっていたから後は連れてくだけだ。
「たいが、だいじょうぶ?」
突如バタバタした雰囲気を察したチャダが声を掛けてくる。
「とりあえず病院だ。僕と一緒に来て。此処から20分位だから。」
「わかった!」
姉を車に誘導して病院へ向かう。外は暗くなり始めている。
時間は17時過ぎ。不味いな、病院に隣接している会社さんの退勤時間と被るな。人も車も多い時間だから病院には何時もより掛かるかも知れないな。
予想通り国道に出た辺りで車の流れが若干悪くなる。
時々姉の呼吸が荒くなるのが分かる。それと同時に自分の鼓動もドクドク早まる。ハンドルを握る手も汗ばんできた。到着遅かったら車内で産まれるって事もあるのか?自分で対処出来るか?
「たいが。」
チャダの声で我に返る。いつの間にかチャダは速度計のちょっとしたくぼみに座っていた。
「だいじょうぶだよ。おねえさんも、あかちゃんも。」
「ああ。わかってる。」
「うん。」
自分が焦ったって状況が変わる訳では無い。落ち着け。今この車には沢山の命を乗せている。
それでも目の前にはテールランプが赤く瞬いたままで動きが悪い。もう10分位このままだ。もしかしたら何かあったのか。
ラジオをつけて何か情報を得ようとするも、DJの軽快なトークしか流れてはこなかった。
「いったぁ……痛い!痛いぃ…!」
まだ間隔は空いてるが痛みが規則的になってる。姉の育児書に書いてあった通りだと本陣痛に移行したに違いない。
早く病院には連れてってあげたいが渋滞は解消されない。姉の悲痛な声が胸に刺さる。
その時にピョンピョンと後部座席へとチャダが移動し、横たわる姉の顔に近づいた。
「だいじょうぶよ。いたいよね。みんな、がんばってるよ。」
「え…お地蔵…?」
「もうすこしだよ。いっぱいがんばったね。おねえさん、しんぱいしないで。」
そこから一瞬、自分の記憶が飛んでる。
チャダが姉に声を掛け続けて姉の痛みが落ち着いた瞬間、車体ごと不思議な浮遊感を感じた。
「みんな!何が…」
何かがあったと思い後ろを振り返るとチャダから暖かな光が徐々に膨れ、車体全てを包む。
眩しくて瞼を閉じたが、瞼を少しずつ見開くと見慣れた場所に居た。此処は親父の総合病院、玄関前の車寄せの所だ。
この一瞬で何が起きたかまるで分からない。再度後方を見ると呼吸を整える姉とその傍らにチャダが座っていて、小さな手で姉の頬を触っていた。
「大丈夫か?」
「あれ。たいが、ついたの?」
「着いたって…チャダが…」
そう言いかけた瞬間、病院エントランスから兄が駆け寄って来た。看護師も数名、車椅子を用意して待機していた様だ。
「大雅、ありがとうな。」
「ああ。うん。あ、姉さんの荷物おろすから。」
サッとチャダはポケットに避難し、兄に促されながら姉は用意された車椅子に乗る。そのまま看護師さんと一緒に院内へと入って行った。
トランクから入院道具を兄に一式託した所で一気に緊張の糸が切れたか、どっと疲れが襲ってきた。
「大雅が居てくれて良かったよ。来るの大変だっただろう。」
「渋滞が凄かったけど…」
「そうなんだよ。ウチの近所で玉突き事故があったって話があったからね。だからもっと遅くなると思ってたんだが…」
あの渋滞は事故だったんだ。
「裏道が意外と空いていてね。そこから来た。」
兄に早かった理由を正直に言えないので適当に答えた。気付いたら此処に居ました。なんて流石に言えないわ。
「じゃあ僕は帰るよ。兄さん達は今夜当直だろ?親父も産まれるなら今夜は帰って来ないだろうし。」
「そうだね。母さんも今地下鉄でコッチに向かってるそうだから、大雅は家で待機してくれると助かる。」
「いくら自分達の病院でも人間来過ぎじゃね?」
「アチラのご両親も今向かってるそうだ。」
私利私欲丸出しやん。両家共に初孫フィーバーが止まらない。兄とはそのまま別れて帰路に着いた。
「チャダ。」
「なあに?」
ひょっこりとポケットから辺りを見渡してピョンと自分の肩に座りこんできた。
「アレって…チャダがやったの?」
窓の外から見た対向車線では事故車撤去の様子が見られる。3〜4台か見ただけで大惨事と分かった。これは動かないわ。
チャダに視線をやると少し考えた様子で
「アレってなに?」
「瞬間移動って言うのか?チャダが光って…」
「えー?チャダはひからないよぅ!」
クスクスと笑っているが、多分この感じはこれ以上聞いても本人も分からないと踏んだ。無意識に発動した何かなのか?
「たいが」
「どうした?」
「おなかすいた。」
「そうか。僕もだよ。」
チャダの何時もながらの無邪気な発言が日常へと戻してくれた様に思えた。
チャダって一体何なんだろうな。




