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「たろうは、どうしておかねがほしいの?」
突然チャダにかけれた質問に少し戸惑った。
バレンタインイベントが久しぶりの過ぎてオーディエンスの8割は一見さんだったんだけど、最終的にはそれなりの盛り上がりを残して次の演者にバトンを渡せた。
俺達の後、鳰君を含む2組はこのライブハウスの中でも固定ファンを多く抱えるアーティストなのでその盛り上がったうねりをそのまま昇華させてイベントは終了した。
少し驚いたのは鳰君からステージ上から呼ばれてラストナンバーのギターをサポートに入った事。
そして何故か大雅も入って来て2人仲良く歌っていたのが今回イベントのハイライトだったに違いない。
自分達のが勿論1番楽しかったけど、鳰君と大雅と一緒にやれたのも良い思い出になった。
それから2週間。
バンド活動でバイトがやや疎かになっていたので最近は少し多めにシフトに入っていた。本人は何も言ってこないけど、あのイベントに店長も見に来ていたのは知っているので御礼の意味を含めて働いていたのだ。
2月終わりは卒業シーズン、それと並行して入学シーズンがあるので文具屋は繁忙期に入る。
高校生や大学生相手だとちょっと良いボールペンや万年筆が人気で、又地域の子供会のプレゼントなどで鉛筆数本だけでも中々な数のラッピングをしたりする。
そして入学関係だと大体学校が用意してくれる地域もあるが、そこまで賄いきれない鉛筆削りや筆箱はどんどんはけていく。
慌ただしい中、気がついたら3月が目の前に来ていた。
珍しく本当に何もないのが最初から分かっている1日。
大学も春休みに突入し、如何やら俺も3年生になれそうだ。そして同じ3年生になれる人達は早々と就職活動の下調べをしている話が耳に入った。
いよいよ自分も社会に出る足掛かりを模索する学年に入ろうとしているのを目の当たりにして少し焦りも感じた。
音楽は続けたい。でもそんな事で生きていける人はごく僅かな人だけだって頭の中でも良く分かっている。
でも煮え切れない答えをずっと最近は反芻する毎日だった。
最近ちょいちょい来ていた大雅や雷華と話をする事で色々考えも広がったりしていたが今日は2人共用事があるそうだ。
朝からぼんやりとしながら簡単な朝食をチャダと取っていた。
「たろう?」
「どうした?」
「うみ、みにいきたい」
「随分唐突だね。何かあった?」
「まらさだ、たべたい。」
「何それ。」
食後に調べてみるとポルトガル生まれハワイのお菓子らしい。
確かに臨港の商業施設にお店がある様だ。余り行かない場所だからこういうのは初めて知った。
まぁぐちゃぐちゃ考えて何かが見つかる訳では無いから今日はチャダの案に乗る事にした。
何時も通り胸ポケットにチャダを入れて地下鉄に乗り込む。
平日朝のラッシュも過ぎた時間は人が少なく、ゆったりと電車に揺られて商業施設に近い駅で下車をする。
此処に来るのはいつぶりだろうか?
駅を出て外に繰り出すと、様々なビル群と空にはロープウェイが行き交っていた。こんなの出来てたんだ。
「たろう、あれ、はこがぶらさがってる。」
「ロープウェイだよ。」
「ひと、のってる!」
「歩いて行ける距離だから今日は乗らないよ。」
チャダは上を見上げながら「うん」と凝視している。確かに良く見る乗り物とはちょっと違うからな。
調べた通りにマラサダ専門店で幾つか包んで貰い、そのまま港へと向かった。
2月末のまだ寒い時期にも関わらず臨港界隈は観光客が多く、その流れに乗る様に目的地に向かう。
「どこいくの?」
「近くに公園があるからそこに行こう。休める所もあるし。」
「うみみえる?」
「目の前全部海だよ。」
ビル群を抜けると。さあっと潮の匂いが冷たい風と一緒に頬を撫でる。
「わあ!」
寒さのせいか人が少ない公園に着くとチャダが身を乗り出して海の方を見た。
「うみだ!てれびといっしょ!すごいよ!ふね!おおきなはし!」
「そうだね。こっちに人目につきにくい場所があるから。」
「うみ、みえる?」
「見えるよ。」
そんな言葉を交わしながら歩いて行った。
場所としては横浜みなとみらい地区。
ロープウェイは1000円。距離は630メートルだから歩くを選択。




