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「太郎、そろそろ帰ってきて。」
ふと雷華の声で現実に引き戻される。迎えに来たって事は裏に戻らなきゃならない時間になった様だ。
「ああ、悪い。一緒に戻るよ。」
「気になるバンドでもいた?」
「気になるって訳じゃなくてさ、何となくこの雰囲気が良いなぁってボーっと見ていた。」
「そうだね。」
雷華の後を追う様にバックヤードに入ると準備しながら談笑している大雅と尚典がいた。それと
「あ!蕪木君!久しぶりだね!」
元気かつ何処までも通る声で声を掛けてくれたのは「nio」こと鳰 千尋君だった。
言われる通り彼と最後に会ったのは去年の今位に彼のワンマンに助っ人で呼ばれた時以来かもしれない。
「ども。」
「アカシャグマが復活で俺も嬉しいよ。ガッツリ裾で見させて貰うね!」
その人懐っこい笑顔を見る度に何故か不思議な雰囲気を感じる。何時も周りに人が居るせいか今日も華やかに見えてしまう。スター性と言うのかな。
「そういやさ古川君から箱を貰ってね!蕪木君は何貰った?」
ああ。例のカホンか。本当良く受け取ってくれたよね。
「お面です。本当意味分からない。」
「え?まだ俺の方がテーブルで使えるから良かった!」
「鳰君、アレ、楽器です。」
「え?」
「カホンって言う、ペルーの打楽器です。」
「マジか!言われなかったら家のサボテン飾る所だった!」
サボテン飾ってくれた方が面白かったかもしれないが、この天然さが人を集めるんだろうなぁ。と何時も思う。
「そうそう!蕪木君、この前此処に来た時に俺のライブ寄ってくれれば良かったのに!」
直近でライブハウスに来たのって一昨日の日中だよな?それより前って事かな?
「このイベント出演のオーディションの時だよ。あの日の後、俺の定期ライブだったんだけど円堂さんから皆んな来ていたって聞いてさ、会いたかったんだよ!」
ああ、聞かせに来いって言われた日か。確かに『たまにはライブでも見てくかい?この後あるんだよ。』って言われてはいたけど、あれは鳰君だったんだ。
「そうだったんだ。ごめん。あの日は疲れちゃっててさ。」
「まぁ今日会えるって分かってたから良いんだけどね。またさ蕪木君にはギター弾きに来て欲しいって言いたくてさ。」
「ああ。サポートって事?俺でいいなら時間があれば行くよ?」
「うん、それで…」
「太郎ー!そろそろだぞー!!」
鳰君が何かを言いかけた瞬間、大雅から声が掛かった。いよいよ出番か。急に緊張してきた。
「じゃあ鳰君、行ってくるわ。俺もトリの鳰君まで見させて貰うね。」
「本当?じゃあ蕪木君!頑張ってね!」
簡単に手を振り皆んなの元へ駆け寄る。
「たろう!でばん?」
「そうだよ。そうだ、チャダはアンプの上に居て。ポケットから転落したら大変だから。」
「おっけー!」
「それから銭湯と一緒。チャダはお人形さんの振りをして。」
「おどっちゃだめ?」
「バレたら大変だから今日は我慢して?」
「わかったー!」
本当に分かっているのかなぁ。
だからと言って胸ポケットから投げ出されたり、動き回る俺の振動に耐えきれなかった場合を考えると最初から回避させた方が良いんだけど、練習中もジッとしていなかったからな。
自分のギターを手に取り俺達は久しぶりの感覚の渦に向かって行った。
後日、太郎の携帯に鳰君からサボテンを乗せたカホンの写真が届いたそうです。
そしてしっかり新曲もカホンを取り入れた曲も作ったのは又別のお話。




