第82話 臍を固める
どうも、ヌマサンです!
今回は帝国軍に取り囲まれたアランたちプリスコット勢に動きがあります!
はたして、ハウズディナの丘の戦いはどうなっていくのか……!
それでは、第82話「臍を固める」をお楽しみください!
アランたちが二度にわたる帝国軍の猛攻を凌ぎ切った頃。帝国軍の方にも動きがあった。
「カルロッタ様、頂上の敵は思ったよりも手強いようです。我が軍は二度も退けられました」
「ええ、それは見ていれば分かるわ。でも、次で終わりにするつもりだから」
カルロッタは椅子に腰かけながら、何度も右太ももを右の拳で一定のリズムと共に叩いていたが、次で終わりにするという言葉を口にした時には覚悟を決めた瞳と共に手もピタリと止まっていた。その瞳が睨む先にはアランのいる頂上のみ。
「そういえば、北側の戦況はどうなっているの?」
「ハハッ、ローレンス様率いる3千6百が予定通りフェルネ砦を救援するべく、東へ移動中。ミルカ様率いる7千も北岸で一進一退の攻防を繰り広げております!」
「そう。だったら問題ないわ」
作戦通り、ローレンスとミルカが動いていることを確認したカルロッタ。次には、ある命を下した。それは、ハウズディナの丘頂上への総攻撃であった。
カルロッタの総攻撃に、東西南の大軍はうごめきだした。3方より各々1万2千ずつ攻めかかることとなる。北に布陣の1万3千はひたすらに動かず、ミルカ隊7千の戦況を見て、動くべしと言いつけられていた。
ローレンスが3千6百を率いて、フェルネ砦に向かったことを受け、トラヴィスは甥のノーマンに3千の兵を与えてローレンス隊の後を追うように命じた。
これにより、トラヴィス隊6千とミルカ隊7千という兵数の拮抗する状況となったことで、ますます勝敗が分からなくなる事態に陥っていた。
名将トラヴィスの指揮も見事であったが、ミルカの采配も若いながら的確で、よく持ち応えていた。この戦いぶりを見たアラン隊は速やかに北へ退くことを決意。戦況は着々と移り変わっていく。
「皆の者!一気に北へ駆け下り、トラヴィス将軍と合流するぞ!」
「「「おおっ!」」」
アランの声に全軍の兵士が呼応する。直後、アランたちは一息に坂落としを決行。アラン隊3千6百は死に物狂いで坂下の帝国軍1万3千とぶつかった。
「帝国兵どもを蹴散らせ!進めば生き、退けば死ぬぞ!生きたい者は進むのだ!」
黄土色の大鎧を返り血で染め上げながら、アランは我武者羅に突撃を敢行。勇猛果敢な大将の姿に、我も我もと兵士たちも続いていく。猛将の下に弱卒なしという言葉通り、今のアラン隊は一兵卒に到るまでが一騎当千の強者と化していた。
プリスコット領の兵士の4倍という数で迎撃している帝国軍も、死兵が相手では押されていた。
「トラヴィス様!アラン様の軍勢が南岸にて4倍近い帝国軍を圧倒しております!」
「おおっ!ならば、俺たちも負けてはおれんぞ!等倍の敵に手こずっている場合ではない!一息に蹴散らし、アラン隊を救出するぞ!」
無精ひげをいじりながらアラン隊の奮戦を聞いたトラヴィスも、後方で采配を振るうだけでは時間の浪費と判断。自らも先王パヴェルから賜った銀の大鎧と長剣を装備し、愛馬にまたがる。
「斧、もってこい!」
「こちらに!」
トラヴィスが愛用の魔斧ラファールを部下から受け取る。
「よし、俺も前へ出る!行くぞ!」
トラヴィスが斧を振るうところ、帝国兵の鮮血が飛び散った。帝国兵が死を覚悟して挑んでも、トラヴィスには傷一つ付けられず、無残に討ち取られていく。齢四十を過ぎても、まだまだ武勇に衰える兆しはなかった。
そんな剛勇無双のトラヴィスの前に、くせっけの強い紫色の髪をおさげにしている手足の細長い美女――ミルカ・オルトラーニが槍を引っ提げて姿を現した。
「あなたがトラヴィス・ハワードですか」
「そうだ。嬢ちゃん、名は?」
トラヴィスから見れば、小娘に等しい彼女だが、トラヴィスにはミルカが強敵であることはひしひしと感じ取っていた。
「私はミルカ・オルトラーニ。あなたを冥途へ送る者……とでも言っておきましょうか」
「ほう、俺を殺せると本気で思っているのか?」
トラヴィスは口ではそう返しながら、ミルカの細い華奢な体から発される殺気から、ミルカの言葉に嘘偽りのないことを悟った。
「参ります!」
「っ!ぬっ!?」
眼にも止まらぬ速度で繰り出される突きに、さすがのトラヴィスも驚かされた。これほどまでに鋭く、早い突きには初めて出会ったからである。
だが、トラヴィスも右の頬と左の二の腕にかすり傷を負った。が、ミルカが狙ったのは首と左胸である。トラヴィスはギリギリのところでミルカの突きを見切ってかわした。
――これこそが紛れもない真実であった。
ミルカは姉のカルロッタに優るとも劣らぬ槍の名手である。彼女なりに、槍技には絶対の自信があった。されども、目の前にいるトラヴィスという男はギリギリのところで致命傷を避けてみせた。
その事実に、ミルカのプライドがくすぐられた。対するトラヴィスも面倒な敵と出会ったと感じていた。急いでいる時に限って面倒なことになるのもまた、戦場の常である。
トラヴィスはそれからも、ミルカの槍に自らの大斧をぶつけて軌道を逸らす。だが、トラヴィスの大斧での斬撃も、ミルカが放つ高速の突きで相殺されてしまう。
まさしく両者の実力は拮抗していた。トラヴィスもロベルティ王国きっても猛将。ミルカも若いながらもカルロッタ配下の勇将。何百合と互いの得物をぶつけ合うも、一向に決着がつかない。
――そうしている間にも、時間は過ぎていく。
トラヴィスとミルカが北岸で名勝負を繰り広げている頃。南岸ではアラン隊が少数ながら帝国軍を圧倒していた。
「アラン様!もうすぐで突破できそうです!」
「ああ!分かっている!だが、油断するな!まだ川も渡らねばならないからな!」
緋色の直長剣から血を滴らせながら、アランは部下へと大声を返す。兵たちも一丸となって眼前の敵へぶつかっている。
――そんな折であった。さらなる絶望が背後より押し寄せてきたのは。
「まさか……!」
ハウズディナの丘から響く無限にも重なる馬蹄音に、鎧兜の擦れる音。これらが意味するところは何たるか。
「全軍、目の前の敵を逃がさないで!北岸の敵もまとめて一掃するのよ!」
丘の頂上に見えるは騎乗した長身女性の姿。腰まで届くほどに伸ばした長い紫髪を風になびかせながら、指示を飛ばしていた。その姿から、カルロッタ・ダルトワだと分かるのは、帝国兵くらいなものであろう。
次の瞬間には、カルロッタ自ら槍を構えて坂を駆け下りてくるではないか。東西南の総勢3万6千が、背後からアラン隊を強襲する。前に4倍の敵、背後からは10倍の大軍。
腹背に敵を受けることとなったアラン隊。だが、アランは絶望しなかった。絶対に生きて故郷に帰る。その思いを抱いて目の前の敵をひたすらに、斬って斬って斬りまくる。
そうして奮戦するアラン隊は14倍の敵の中へ呑まれていく。トラヴィスはアラン隊の危機を救うためにも、目の前のミルかを速やかに撃破する必要に追われた。
「風魔紋ですか」
「すまないな、嬢ちゃん。俺にはもう時間がない」
「でしたら、大人しくやられてくださると助かるのです……がっ!」
ミルカの槍は炎に包まれていた。トラヴィスの持つ魔斧ラファールが翡翠色の風に包まれるのと同じように。
「そうか、嬢ちゃんは炎魔紋の使い手だったか……!」
互いに紋章使いであったことに驚きつつ、トラヴィスはますます援軍に間に合うかどうか、不安に駆られるのであった。
第82話「臍を固める」はいかがでしたでしょうか?
今回は包囲を突破しようとするアランがさらに絶望的な状況に……!
そして、アランを助けたいトラヴィスの前に立ちはだかったのはミルカでした!
引き続き、ハウズディナの丘の攻防戦を見守ってもらえると嬉しいです!
――次回「星を数うるが如し」
更新は3日後、3/23(木)の9時になりますので、また読みに来てもらえると嬉しいです!




